あめりかへ
もぐら男のおかげで、存外簡単に、わたしはあめりかに渡ることができた。
マクシミリアン亭で出会ったモノクル男に、黒い輝きを放つ一本足の丸い生物を渡すことで、話をつけてくれたのだ。
丸い生物について聞くと――
「お前の中に眠る何か大切なモノだ」
と、言っていたので、益々気になったのだが、それ以上は怖くて聞けなかった。
修行が足りないと、わたしは反省した。
モノクル男から紙切れを受け取ったもぐら男は、わたしの手を引いて、昏い廊下の分岐をすさまじい速さで駆けて行った。
そうして、わたしは昏い廊下の先にある、やはり暗い港から貨物船に乗ったのだった。
長いようで短い航海のあと、わたしはあめりかの人となった。
港に降り立つ。
館の中でも、あめりかはやはり広かった。
「ここは夏う~。ずっと夏さぁ~。人を幸せにしてぇ~狂わせるのさぁ~」
廊下の壁は先が見えぬほどで、天井にはサングラスをかけた太陽が、低音で常夏をたたえる曲を歌っていた。
「F言語。F言語!」
「ニューヨーク市警! 海兵隊! テロ! 銃乱射!」
「フェンタニル! カルテル! ヒスパニック! ライフル協会!」
どこまでも続く廊下の中の道路には、白人と黒人とヒスパニックが、よくわからない言葉をがなり立てていた。
アジア系もいたが、無視されながら黙々と歩いたり商売をしたりして、普通に暮らしていた。
誰もが、きっと幸せなのだ。
間違いない。ここはあめりかだ。
わたしは、廊下のあめりかで、なんだか楽しくなっていた。