もぐりや
パスポート取得を諦めたわたしは、廊下で途方に暮れてみることにした。
困ったときは、とりあえず失望も露にしながら座り込むに限る。
お尻がヒンヤリとして気持ちいい。
むろん、体温の変化を気にしているヒマはないはずだが、わたしの心に、乱れはなかった。
ただ途方に暮れていただけだった。
何もしないでいても仕方がないので、わたしは、とりあえず立ち上がった。
周囲を見ると、わたしと同様に、座り込んだり立ったり座ったりする者たちで、廊下はにぎわっていた。
「運命が、そなたを導くであろう」
わたしの横で途方に暮れていた老婆が、ポジティブな預言めいた言葉を紡いだ。
「運命?」
「そうさ。あそこにいるやつだよ」
老婆が指し示す方向に、顔の長い男がいた。
顔の長い男は、ニヤニヤと笑っていた。
わたしは、顔長男に尋ねる。
「どちら様で」
「もぐら男さ。みんなからは、そう呼ばれている」
「もぐりやではなくて?」
わたしの工夫のないツッコミを受けても、もぐら男は、動じない。
「そうともいう。でもなぁ名前なんて、小さなことだ。俺様の本質は変わらない」
「名前もあなた自身では?」
「かもな。でも違う。重要なことは、俺様がお前さんを、あめりかへ送ってやれるってことさ」
「お願いします!」
わたしは、ダボハゼのように、飛びついた。
「いいだろう。実は俺様、結構親切だ。あと運命だ」
そういうことになった。