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廊下の先
廃屋の内部は、玄関と違って、綺麗すぎるほどに綺麗だ。
埃のにおいもしない。真夏の真昼のはずが、ただ寒々しいだけだった。
招き入れてくれた声の主は、当たり前のように見当たらなかった。
わたしは、玄関の先、北へ目を向けた。
壁が朽ちているとか、天井が崩れそうとかといった廃屋らしさはない。むしろ淡いクリーム色の壁に、綺麗な木目調の廊下は、新人デザイナーが設計した現代的な旅館を連想させた。
間接照明に照らされた廊下は、数メートル先なら視認できるが、遠くは真っ暗だ。
昏い廊下の先からは、フクロウが鳴くような声と、何か大きなものを引きずる音が聞こえた。
わたしは、行ってみることにした。
何せ今のわたしは、北へ行くしかないのだ。
「どうぞお気をつけて」
「行ってきます」
わたしは、頭上からかけられた平坦な声に送られて、廊下の奥へ足を踏み出しだした。
良くないことか奇妙なことが起こりそうな予感がするが、わたしに躊躇も恐怖もなかった。
やることが決まっていて、何を恐れるだろうか。