まだ明るい場所から
気が付くとわたしは、真夏の真昼の辻の廃屋前に立っていた。
自分が何者で、ここはどこかはわからないが、わたしは北へ進むべきだと知っていた。
北は昏いがしかたない。わたしは北へ向かって歩き出した。
気が付くとわたしは、辻に立っていた。
見上げれば空は青く、雲は少ない。太陽はサンサンで、風はなかった。
見渡せば、右手に漆喰の長い塀がそびえ、左手には窮屈な竹藪が見切れるほどに続いていた。
真後ろには、青い空の下の中途半端な街の建物群、そして、真正面には平屋の廃屋があった。
それはそれとして、ここはどこで、わたしはだれだろうか。気にすべきことだが、なぜだか気にならなかった。
自分が何者なのかは、わからない。だが、これからどうすればいいのか、実は知っていた。
北へ向かえばいいのだ。
廃屋に目を向ける。崩れた玄関は開いていいて、ほの暗かった。
わたしは、廃屋の玄関に入った。
「ごめんください」
「どうぞ」
姿を見せずに、誰かが平坦な声で挨拶を返してくれた。
入ると何か良くないことや怖いことが起こりそうだ。それでもわたしは、北へ向かうしかないので、歩みを止めずに、土間へ侵入した。