表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約者を寝取った妹と浮気した婚約者に命懸けの復讐をしようと思います〜その後待っていたのは溺愛でした〜

作者: 涙乃

後半少し追加しました

ブクマや評価いただけますと大変嬉しいです!

宜しくお願い致しますm(_ _)m

祭壇へと続く道を、厳かに淑やかに聖女らしく見えるように、毅然とした態度で歩を進める。


一歩、一歩、ゆっくり、ゆっくりと。


まるで花嫁衣装のような純白のAラインのドレスは、お伽話にでてくるお姫様のよう。そう、あくまでドレスは。


「うふふ、お姉様ってば、やぁだ、顔が死人のようですわ。あら、やだ、私ってば本当のことを……」


同じく純白の衣装に身を包んだ私の妹イリナは、ツインテールの髪を指でもて遊びながらにたにたと笑っている。


同じなのは純白の色だけで、妹のドレスはピッタリとしたマーメイドラインのドレスで、金糸で精巧な刺繍が施されている。妹は私とは違い、肉付きも良く、出るところは女性らしく出ている。そのため私とは違いキラキラとした視線を向けられているのはいたしかたない。


外見から性格は分からないもの。

妹がどれだけあざとく、計算高く、私を貶めることに無類の喜びを感じているか……。無垢な聖女とは名ばかりで、私の婚約者を寝取り、しかも私を殺そうとしたかなんて分からないものね。



絶対に妹の思う通りになんてさせない。


大人しく殺されたりなんかしないわ。




17歳という年齢のわりにその髪型はどうなのかと思わなくもないけれど、まだ幼さの残る顔立ちなので許容範囲なのかしら。


その顔で、そのスタイルで、そのドレスは、アンバランスだと思うけれど、誰も止める者がいないので、世間の感覚と私がずれているだけなのでしょうね。


本当は今すぐにでも逃げ出したい。


怖い……あの祭壇にたどり着いたら、その時が決行の時。


大丈夫、どちらにせよもう覚悟はできている。

殺されかけたあの時、目が覚めたわ。



「どちらが正しいのかはっきりさせましょう」


表情ひとつ変えずに、妹へと声をかける。


「えぇそうね、どちらが本物の聖女であるかはっきりさせましょう、ねえ?お姉様。うふふ、あー、ウザッ!」


誰にも聞こえないくらいの声で悪態をつく妹に、せめてもの慈悲を与えるべきか悩む。


「イリナ、今ならまだ止めることもできるわよ。本当にこの儀式を行うのね?後悔しない?」



「はぁ?」


思わず声を荒げたイリナへ後方で着席している者の視線が集まる。


泣いて謝ってくると思っていた私が、儀式を行うことに同意したのがそんなに気に入らなかった?


「止めるだなんて、まさか私がお姉様に同情するとでも思ったの?絶対に止めないわ!私は聖女なんだから!分かってないお姉様が可哀想だと思ったのに、お姉様って本当に馬鹿だったのね?この儀式を行うと……うふふ、まぁ、もういいわねそんなこと。邪魔者が消えてくれるのだもの。お姉様が自殺願望があるだなんて知らなかったわ。そんなに彼のことが好きだったの? 彼が言っていたわ、ふふ、お姉様みたいな骨と皮しかない女には欲情しないんですって。骸骨みたいね、さよなら、お姉様。ふふふ~ん♪」


引き返す最後のチャンスだったのに……。

どうやら刺激してしまったようね。


イリナは私を追い払うように祭壇の前へと軽やかな足取りで進んでいた。


「では、これより聖女の儀式を行う!」



祭壇の中央にいるのは私の婚約者であり、この国の王太子レオナルド殿下。


レオナルド殿下の髪色を思わせるような金糸が、イリナのドレスの刺繍に使われている。優しげな眼差しを向けるその先には、イリナがいる。そんな表情もできるのね。


嘘つき!嘘つき!嘘つき!



どろどろとした醜い感情が口から溢れ出しそうになった寸前、「コホン」とカイルが咳払いをしたことで感情をなんとか制御できた。


この国の筆頭魔術師であり、膨大な魔力量を持つカイルが協力してくれるからこそ、この儀式が行える。


祭壇の手前に佇むカイルの周囲は、いつにもまして冷気を纏っているかのように寒々しい。銀色の髪のせいでそう感じるのか、陶器のように白い肌だからそう感じるのかもしれない。

サファイアのような瞳が、先程より一層青味がかったから、実際に冷気を発しているのかもしれない。


この儀式を行うことを最後まで反対していたから。彼だけがいつも私を心配してくれた。



「ユリア、大きくなったら結婚しよう。」


幼き日、あなたはそう言ってくれたわね。

庭に咲いていた花を手に持ち、はにかみながら膝を折り手渡してくれた。まるでお伽話に出てくるお姫様になったようで、とても嬉しかったわ。あの時、私はなんと答えたのかしら。



カイルの家は魔力量の多い者ばかりで、優秀な魔術師を輩出している。身分的にも、派閥的にも、問題なかった。父が欲を出さなければ、私達は━━。



いつから狂い始めたのかしら。

母が亡くなった時?

両親を亡くした遠縁のイリナを養女として迎えた時?

レオナルド殿下と婚約した時?

イリナがレオナルド殿下に一目惚れした時?


二人が恋に落ちる瞬間を目の当たりにしたわ。目が合った瞬間に二人の瞳が熱を帯びていた。まるで二人だけの世界のように見つめあって。



それからレオナルド殿下が邸に来られても、なぜか私には知らされずイリナが応対する頻度が増えていった。


偶然二人の姿を見かけた時、唇が触れ合っていたから思わず逃げだしたのよね……。


イリナ、あなたわざと見せつけたのでしょう?


どうしてそんな酷いことができるの?

あなたにいじわるをしたことなんてないでしょう?


この婚約は政治的なもの。厳しい王妃教育も耐えてきたのは全て家のため。浮ついた気持ちではないの。覚悟を持って臨んでいたのよ。


それなのに……。



イリナが覚醒して更に事態が悪化。


光魔法に目覚めたイリナは聖女。

聖女は王族と婚姻する習わしがある。

婚約者の決まっていない第三王子との婚約話を嫌がったそうね。


少し年下だけれど、聡明な方よ。


あなたの性格から聖女教育と王妃教育を並行するのが無理と判断されたからなのよ。

不敬を承知で言わせてもらうと、レオナルド殿下とイリナが国王と王妃になったら、国が崩壊するわ。


私だって婚約解消できるのなら、解消してイリナに代わってほしいわ。

どんなに傷つけられても愛国心はあるわ。



なのに、予想を超えることをしてくるのだもの。




珍しくレオナルド殿下が来られたことを知らされて、改心したのかと思った。

私の好きな紅茶を一緒に飲んで、一週間意識不明になったのよね。いったい、何を飲まされたのかしら?


頻繁にレオナルド殿下が見舞いに訪れたと聞かされたけど、部屋には見舞いの花さえなかったわね。


いったい誰の部屋を訪れていたのかしら。



回復後にはピクニックに誘ってくれたわね。イリナと三人で出かけて、私だけが転落したわよね。


その時の記憶がないと言ったけれど、全部覚えているわ。


二人に突き落とされたことも……。



あの時ね、私、もう何もかもどうでもよくなったの。死んでもいいと思ったのよ。

でも、死ねなかった……。


レオナルド殿下に誘われた劇場では、ピンポイントでシャンデリアが落下してくるし、家では階段から転げ落ちるし、いつもいつもすぐにイリナも駆けつけてくれるわよね。まるで、姉の私が心配で仕方ないみたいに必死な様子で……。


そうそう、

たまにはお菓子作りをしようと厨房に入った時は包丁が飛んできたこもあったかしら。


ふふ、あの時はイリナもすごい顔をしていたわね。だって包丁が突き刺さっているのを目の当たりにしたものね。


でも、私は生きている。


そう、私、気づいたの。自分の能力に。

覚醒したのはイリナ、あなただけではないのよ。でも、私は聖女じゃない。



今から行うのは聖女の儀式。


古に行われていたもの。膨大な魔力を必要とするので、数人の魔術師が必要。それを一人で行えるカイルは、すごいのよね。


聖女は王族との婚姻ができるので、自称聖女と名乗る者がいた頃もあるらしい。


罰が軽いと名乗る者が後を絶たないので、正式な儀式を設けることにした。


古と、現在では考え方も違う。


まさに命を懸けた儀式であるので、現在では行われない。


国王夫妻が国外に行かれている不在の今だからこそ、レオナルド殿下が執り行うのだ。


国王陛下は私の努力を認めてくれているし、王妃殿下にも目をかけていただいている。


イリナが聖女だからといって、婚約解消は認めない方針だ。だから、今までのように稚拙な計画ではなく、確実に私を抹殺しようと企んでいる。


二人の会話が聞こえていないと思っているのかしらね。


「イリナ、万が一のために解毒剤を飲んでおくんだ。君は本物だから大丈夫だと思うけれど、ユリアが何を企んでいるか分からない。それに━━するから。」



「レオナルドさまぁ、私は正真正銘の聖女なんですぅ。でも、偽物のお姉様には分からせてあげないといけませんものね。心配性のレオナルド様のためにも解毒剤は飲んでおきますね。だから、お姉様のグラスに━━」


カイルに大丈夫、覚悟はできていると目で合図をして、彼の側を通り過ぎて祭壇へと向かう。



祭壇には聖水の入ったグラスが置かれている。


もう後戻りは出来ない。


聖女ではないものがこの聖水を口にすると、命を落とす。


せめてもの慈悲なのか、苦しみもなく即死できるらしい。



私とイリナは一気に聖水を飲み干した。


そしてぷつりと意識を失った。


✳︎✳︎✳︎




私は聖女ではない。


どちらが正しいかはっきりさせたいだけ。


浮ついた心で何も学ぼうとしないイリナへ忠告したでしょう。


あなたはどちらが聖女であるかはっきりさせましょうと言っていたけれど。


何度も言っているわよね。

聖女は、あなただと。


でも、聖女の儀式の条件を満たしてないけれどね。


この儀式が行われなくなったのは、道徳的な部分もあるけれど考え方の変化もあるのよ。


光魔法を使えること、

清らかな乙女であること、

殺生を行っていないこと、

肉を食していないこと、

全ての民に無償の愛を注ぐこと、

人を欺き裏切らないこと

以下略



とにかく細かく聖女の条件が記載されているの。国民の理想像の聖女の項目だから、あまりにも現実的ではなく、廃止になったのだけどね。


古は魔力持ちの家系は、生まれた時からベジタリアンを貫いたそうよ。

純潔を守るのは当然だけれど、最近は初夜にこだわらない風潮もあるし、聖女だから正妃になるとは限らないしね。


でも、イリナは聖女だから、当てはまらない項目が多いけれど死ぬことなないわよ。


ただ、無傷ですむかは分からないけれど。


私は聖女でないから、本来なら死ぬはず……



でも、儀式を冒涜する出来事が起こると、冒涜した者には裁きが下る。



私の聖水だけ少し濁っていたわ。

急いでいたのか完全に解けきっていないのに置いたでしょ?


ねぇ、レオナルド殿下、どうしてそんなに殺したいほど私を嫌うの?


あなたがもっと正式な手順をふんで、イリナとの婚約を望めばよかったじゃない。


イリナの行動を改めさせて勉強を勧めて、周囲を納得させる気概を見せないのはどうして?


私は婚約者として、ずっと努力してきたのに、こんな形で終わりになるなんて……



さようなら、



✳︎✳︎✳︎



「おはよう、愛しいユリア、よく眠れたかい?」



爽やかな声色で耳元に語りかけられてぱっちりと目を開ける。

「カイル、おはよう」


サファイアのような瞳が憂いを帯びて大きくなる。これ以上の幸せはないという笑顔をカイルは向けてくれる。


私はカイルに抱きしめられて朝を迎えていた。


亡命してからもう数ヶ月はたつ。

まさか、こんなに幸せな生活が送れるなんて思ってもみなかった。


この日のためにカイルは根回ししていたようで、新居も身分も全て準備してくれていた。



聖水を飲んで意識不明になったのは、イリナも同じだった。


混乱に乗じてカイルは私を連れて他国へと転移してくれた。



目が覚めるとイリナは声を失っていたそうだ。グラスから毒物が検出されていた。儀式を冒涜したからか、聖女と関係を持っていたからか、レオナルド殿下は下半身不随となり車椅子生活を送っているそうだ。


勿論、今回の件で廃嫡となったが、王命でイリナと結婚。


邸ではレオナルド殿下の怒号と、物を投げつけるイリナの奇行が繰り返されているそうだ。


けれど二人のことは、


名誉の負傷を負ったレオナルドと、かいがいしく世話をする声を失った聖女


と、表向きにはなっている。



忽然と姿を消したユリアと、筆頭魔術師カイルのことは、有能な二人に見限られた国と思われる訳にいかないので、箝口令が敷かれている。


私の能力は、能力というのかしら、ご先祖様の加護なのかしらね。


自殺防止魔法が、かかっているの。

自分の意志では死ねないの。


もう、死んでもいいと思った時は、助かることに気づいたの。


不慮の事故では発動しない。


あの時から、人生に希望なんて持っていなかった。


だから、この儀式で命を落としてもいいと、何もかも終わりにしようと思っていたの。


命を懸けの復讐よ。

きっと、何か仕掛けてくると思っていたから。


貴方たちも、無傷ですまないと思ったから実行したのよ。


万が一助かった後のことは、その時考えようと思っていたのに、

こんなことになるなんて……。



「ユリア、何を考えているのです?何か不安なことでもあるのですか?ユリアを悩ませることがあるなんて耐えられません。

全て私が消し去りますから。もしかして、まだあのバ……レオ…ふぅ、口に出すのも嫌ですね。ユリア──」


ぎゅうっと囲いこむように抱きしめられて、カイルのいい匂いが身体の中まで充満する。


初めてカイルに抱きしめられた時は、あまりにも恥ずかしくて、真っ赤になったものだから、熱があるのかと心配かけてしまったのよね。


ねぇ、カイル。復讐してすっきりはしないけれど、レオナルド様のことは何とも思ってないわ。


だって、「あぁ」とか「そう」とか、「イリナは?」とか、レオナルド殿下の発する言葉は少ないの。まともに会話したこともないもの。


だから、カイルが、バカ王子と言いそうになったことも、全然気にならないわ。


「カイル、ふふふ、悩みなんてないわ。あまりにも幸せすぎて、現実なのか信じられないだけよ。」


「ユリア、そんなことを言ってくれるなんて、私の方こそ夢を見ているのか?」


思わず頬をつねそうとしたので、そっとカイルの手を止める。



「もう、カイルったら。貴方の顔を自分で傷つけないで。大切な……んだから……」


すぐ目の前というあまりにも密着した状態で、カイルに見つめられてぼぼぼっと頬が紅潮する。


「ユリア、そんな可愛いことを言ってくれるなんて、責任はとってもらいますからね」


「責任って…昨夜も…沢山……」


「ユリア……」



言葉は優しいのに、貪るように唇を重ねてくる。


「カイル……待って……」




「もう、待ちません、ずっとずっと我慢してきました……あぁ…かわいい……ユリア……私のものです誰にも渡しません……どうして計画を全て打ち明けてくれなかったのです?」


赤い愛の痕を残しながら切なげな声でカイルが問いかけてくる。


「カイル……ごめんなさい…あなたを巻き込みたくなくて……」


「あなたが死ぬ気だと分かっていました。だから私も万が一の時は、後を追おうと覚悟していました……けれど、倒れた貴方を見た時、やはり我慢ならなかった。貴方を死なせるものかと必死で……気づいたら、あなたをあの場から連れ去っていました……」





「カイル……」


嬉しくて、頭がぽーっとする。


朦朧とする中で、ふと疑問が残る


「カイル、もしかして……死ぬつもりだったの?」


「ユリア、あなたにそれを言われたくないですね、私が儀式の時にどんな気持ちでいたかわかりますか?


プランAはユリアの後を追うこと、プランBは、ユリアとこうして駆け落ちすること、

ちなみにプランCもあったのですが聞きたいですか?」



「ふふ、いったいいくつまで考えてくれていたの?」



「貴方を手に入れるまでいくつでも……あぁ、今日はもうベッドから出るのはやめましょう、さぁ、ユリア…」


「え?カイル…ちょっと、待って」



二人の甘く激しい蜜月は始まったばかり


(5月20日追加↓ 後日談 とある昼下がり カイルとユリア)


「あぁ、ユリア、ここにいたのですか、探しましたよ」


「カイル?ふふふ、どうかしたの?きゃぁ」



窓辺にあるソファーで寛いでいると、血相を変えたカイルが室内に飛び込んでくる。


私の姿を捉えると一目散に飛びつくようにぎゅうっと強く抱きしめられた。



「ど、どうしたの?ちょっと紅茶を飲んでいただけよ」


「これからはどこにいるのか逐一報告してください」


少し掠れた声と吐息が耳に入ってくる。

その様子からかなり心配をかけてしまったのだと反省する。


カイルの背中に手を回して「家の中なのに?」と安心させるように明るく問いかける。


「んん⁉︎」


すると、ぐるんと視界が反転したかと思うと、カイルの膝に乗せられて、唇を塞がれていた。


「家の中でもです。どの部屋にいるのか逐一私に、お願いですから」



「え、えぇ、分かったわ、カイルは心配性なのね。でも、レオナルド殿下やイリナがここに来るとも……思えない……カイル?」



あれ?なんだかひんやりしてきたわ。

カイルの膝に乗せられた状態なので、上から覗き込むようにカイルと視線を合わそうとする。


「ねぇ、カイル?少し瞳が……何か気に障るようなことを言ったかしら……」



「──」



「え?カイル、なんて言ったの?」


「ユリア、あなたの口からバカルド殿下のいや、もう廃嫡されたのだったな、バカルドという言葉が聞こえたからです」



「バ?ちょっと、カイル、いくらなんでもそんな呼び方はいけないわ。人を貶めるようなことをしてはだめでしょう?」



「散々、あいつらはユリアに酷いことをしたのに?あぁ、ユリア、あなたは優しいですね」


「んっ!ちょっ、カイル、まだ、こんな時間に…」


またしてもカイルにベッドへと連れ去られそうになるのを、なんとか制止しようと試みる。


「カイル、でも、お仕事は大丈夫なの?

カイルのような優秀な魔術師がいなくなって、今頃は混乱しているでしょうね、そう言えば、この国での私たちの立場はどうなっているの?」


「知りたいですか?」


どこかいたずらを仕掛ける前の子供のような無邪気な笑みを浮かべたカイルは、そっと私をソファーへと腰掛けさせる。


そして空間から花束を取り出すと、私の前に膝をつく。


「わぁ、きれい!私に?」


「ユリア、覚えていますか?あの時のこと。こうして、あなたにプロポーズをした」



「えぇ、覚えているわ。とっても嬉しかったもの。はにかみながら私に大きくなったら結婚しようと言ってくれたわね。かわいかったわ、あの時のカイル」



花束を受け取ると、指先に口づけを落とすカイル。


「カイル、ソファーに座らないの?」


「いえ、ここにいる方が都合がいいので」


「そ、そう?」


「今の、私たちの立場についてでしたね?そのことについて答えたいのは山々なのですが、その前に、あの時ユリアが私に言った言葉を覚えていますか? 間違えるたびに服を脱いでもらいます」



「え?えー?えぇ、えっと…もちろん覚えているわ」



「語彙力が崩壊していますよユリア」


「もちろん、喜んで……だったかしら?」



シュルシュルと胸元のリボンが解かれそうになったので、胸元をたぐりよせて「カイル!」ときつく呼びかける。


大きな花束なので胸の前に抱き寄せていると、ひょいっと花束を取り上げられる。


「ユリア、まさか覚えていないのですか?私は……ずっと……」


慈しむように見つめてくるカイルは、どこか寂しそうで、あの時言った言葉を必死に思いだそうとする。


あの頃は、とても嬉しくて、確か……。



「結婚しましょう……?って、だめ、本当に……」


じりじりと迫ってくるカイルをなんとか押し戻そうとしてもビクともしない。



「わざと間違えて楽しんでいるのですね?ユリア、悪いこですね」




「いじわる……」


抵抗を諦めてカイルに身を委ね、


二人は甘い昼を過ごした











大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿さています

お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ