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玲奈が所属する研究室は、数年前に設立された大学附属の量子コンピュータ研究センターだ。センター長を務めるちん 楚華そか教授は、量子情報理論の第一人者として国際的に名を馳せている。


その日の朝、玲奈は教授室へ実験データを報告しに来ていた。壁いっぱいに貼られた数式と理論モデルの走り書きは、陳教授の高い執念と集中力を物語る。


「量子ゲート実験のログで、ちょっと奇妙なタイミングを見つけまして……これがそのグラフです」


玲奈は端末の画面を陳に見せる。そこには、ある時間帯に突如として測定誤差が跳ね上がる様子が描かれていた。


「ふむ……。何らかの環境振動か、温度変化が原因かもしれんぞ?」


「そう考えて最初はノイズかと思いました。でも、別の観点から調べると、どうも地球外からの電波パルスの到来時刻と合致しているみたいなんです。天文学科の望月先生――いえ、知り合いなんですが、彼からデータをもらいました」


言いながら玲奈は拓海の天文観測データを並べ、双方のログを比較してみせる。確かに、玲奈の実験ログが異常値を示すとき、拓海の天体観測にも特徴的なピークが記録されていた。


「ほう……」と陳は唸る。


眉間に刻まれた皺がさらに深くなり、画面を見つめる視線が鋭さを増していく。


「しかし、地球の小さな研究室の実験と銀河系外からのパルスが同じタイミングで反応するなんて、単なる偶然だろう」


「もしそうだったらいいんですが、偶然と呼ぶにはデータ数が多すぎるんです」


「だが、量子もつれが宇宙規模で起こっているという仮説は、まるでSFだ。私は興味深いとは思うが、論文にするには慎重に検証すべきだろう」


玲奈は陳の慎重な反応に理解を示しつつも、胸の奥で高まる期待を抑えられない。量子もつれは、アインシュタインすら「不気味な作用」と呼んだ不思議な現象。だが、もしそれが“宇宙規模”で実在するなら――想像するだけで身震いがする。

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