2.大狼
女の子から分かれて2年ほどが経った。
人里がかなり近かった為、
拠点を山々の奥地、ひときわ高い大山の麓に移した。
それからは人に会うこともなくなり平和に過ごしている。
すっかり狩にも慣れ今ではある程度干して蓄えるようになった。
それと二回脱皮をした。
最初やたら体がかゆいので何事かと思ったら、
体の皮がベロベロめくれたのでびっくりした。
今では上体を起こすだけでその辺の木を超える程になっている。
爪も鋭利で岩すら削れる程である。
前世では考えられない進化した生物だなこの体は……。
今は住処の洞窟を拡張した上で前世の知識を頼りに、
作業台代わりの石や松明を作成している。
サバイバルゲームだったら斧だったり弓なんか作るが、
この体だと必要ないしな。
次は石鹸でも作ろうかな、なんて狩をする為に拠点を出る。
この森はかなり豊かで肉食動物から木の実までかなり豊富である。
季節の移り代わりは緩やかで雪が降っても
そこまで積もらづ、かき分けなくてもいい。
その代わり、肉食動物から草食動物まで、
大型であればあるほど好戦的で危険だ。
つまり、俺が狙う食料は向こうからやってくるのだ
なんて言っていると木々をバキバキとなぎ倒しながらクマが突撃してくる。
この熊も前世とは少し姿が違い、全身から角が生えており
その角の先端をつなぐように電気がほとばしっている。
けん制のためにツララを何本か飛ばすが立ち止まっての放電ですべて砕かれる。
地面に手を合わせ土魔法でクマの下からとげを生やす。
これも硬い毛皮で致命傷とはならないが完全にのけぞらせることに成功した。
のけぞった頭を顎下から脳天へ一気に尻尾で貫く。
クマは力なく崩れ倒れる。
今日も安全に食料を確保できた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また数日が過ぎたある日
大山に食料を求めて森を探索していた時だった。
今までにない悪寒を感じた。
その方向をにらむと奥で小鳥たちが飛び立つのが見えた。
すぐ後にズシンズシンと足音が聞こえてく。
木々を踏み鳴らしながらそいつは現れた。
体高は優に5メートルを超える狼である。
肩からはクリスタルのようにキレイな氷が生えている。
「この一帯の主か……
でかいな……」
そうつぶやいた瞬間、問答無用でひっかいてきた。
とっさに地面を張ってよける。
容赦なしだなこいつ!
狼を中心に円を描くように蛇行で移動しながら、
魔法でトゲを生やして攻撃するがするりと避けられツララを飛ばしてくる。
よけ来てないツララを手ではじくが岩を殴っても傷がつかない皮膚が裂ける。
イってー!マジかこいつどんな純度の氷放ってくるんだよ。
炎で溶かすのは骨が折れそうだ……。
そう思いながら口からと手のひらすべてから火を放つ。
ひるんでくれればと思ったが業火の中から飛び出してきた。
突っ込んでくると思わずひるんでいる間に胸をざっくり引っ掻かれる。
こいつ恐怖心解かねえのかよ!
再び距離を取りながら胸の傷を魔法で癒す。
いかんな全力の火力でも足りんとなる何か方法を考えんと。
先ほどの火炎放射で辺り一面まる焼けなうえ、
延焼もしているのだが、狼の周りだけ凍っている。
森事焼いてもこいつだけは生き残りそうだな……。
兎に角、攻めなくては仕方ないので突撃を掛ける。
前足の迎撃を避け、後ろ足を引っ掻く。
浅い傷もつかず、すべての手が凍る。
すぐに咢あぎとによる攻撃が来るがこれも避けて距離を取る。
凍り付いた全手を溶かさなくては……。
やけど上等で手を火炎放射で溶かす。
そこで違和感に気が付く。
熱くないのである。
すっかり氷が解けた手に火があたっているのにもかかわらずである。
違和感の正体を確かめる為に、
わざと燃えているところを狙って移動を開始する。
やはり一切熱による痛みがない。
この体、熱耐性がかなり高い。
ということはかなり無茶な作戦ができるかも……。
思いついた作戦を実行する為に再度狼に突撃する。
一度フェイントを入れながら接近し、一気に体を狼に巻き付ける。
さらに地面からトゲを生やし、それを4本の手でつかみ狼を固定する。
必死に逃れようと狼が暴れるがそんなことはさせない
「さあ!ここからは我慢比べと行こうか!!」
口から炎を吐きながら空いた2本の手で風の渦を起こす。
すぐに周囲の炎も巻き込みながら炎の渦になる。
「火災旋風だ!凍らせれるものなら凍らしてみろ!」
さっきは触れるだけで凍っていたが、
今や狼の体からは蒸気が噴出している。
やはり苦しいのか狼は絶叫を挙げている。
それに比べこちらは全く熱くない。
ほんのり温かいくらいだ。
我慢比べといったが全く負ける気がしない。
「ハッハハハハハハハ!!」
思わず完全勝利に笑いが止まらない。
しばらくすると狼は力なく倒れる。
その姿はまる焦げで雄大だった姿は見る影もない。
こうしてこの森の主に俺は勝利した。