Episode.1-6
地竜。古の時代から姿を変えることなく生きてきたモンスターらしい。姿を変えない、進化も退化もしていないということは、その必要がなかったということだ。つまり自然界において圧倒的強者であり続ける存在だ。
影腕の魔法が解けて地面に転がっている死体さんを目視してから一応戦闘準備に入る。
ゆっくりと、地竜を刺激しないよう、ゆっくりと足元、自分の影に手を触れ、ザンザンケンを引っ張り出す。右の腰の辺りに楽に構え、とりあえず準備完了だ。
「やめときなよ」
右後ろから僕の中の天使が囁く。しかし、やめるわけにはいかない。何もせずに殺されるのはごめんだ。
「待ちなって、よく見て。こっちに興味無さそうでしょ」
確かに、地竜は空を眺めてボーッとしている様にも見える。
「行こう」
と、肩を叩かれ、死体さんは地竜の脇を抜けてそのまま洞窟の奥へと走って行く……死体さん?
「え、生き返ったの?」
俺はザンザンケンを影に放り込んで、そっと地竜の脇を抜けて死体さんを追いかける。
死体さんは異常なほど足が早く、追いついた時には洞窟を抜けていた。
草原。本当に何にも無い、ただの草っ原だ。風が気持ちいい。
振り返ると今出てきた洞窟がある。地下へ降りる階段のように、地面に穴が空いているような形だ。
「いや、助かったよ。ありがとね」
死体さんが笑顔で言う。
ボサボサの黒髪で茶色の瞳、東方の出身だろうか。身長は俺より高めでガタイも良いが、威圧感みたいなものは感じられない、優しげなおっさんだ。
「いえ、全然! 俺、ヨルって言います。地竜の時は逆に助けてもらいましたし、ありがとうございました」
冒険者なのだろうか? もしフリーならパーティーメンバー候補だな。
「ハだよ。いや、びっくりだよね。あんなとこで地龍に出会うなんてね」
笑いながらハさんは言う。
ハって、変な名前だな……
まぁ、それよりも実際ビビりまくった。ハさんがいなかったら無謀に挑んで死んでいたと思う。
「ハさんは冒険者なんですか?」
冒険者だったらいいな。俺は若干ワクワクしながら聞いてみた。
「ハ。そんな言葉遣いじゃ冒険者にはなれねえぜ」
ハさん……ハ、かっこいいぜ……呼びにくいけど。
「ハァ! 俺のパーティメンバーになってくれ!」
やばい、もうハしかいねえ!
俺は興奮を抑えきれずに目の前のおっさんをスカウトしていた。
「じゃあ、一緒に登録に行こうか」
ハは相変わらずの笑顔でそう告げた。