Episode.1-2
息を殺してアレを観察する。
ぼろきれのような黒いコート、フードを深く被っていて顔は見えない。右手に抜き身のロングソードを持ち、どこか目的があるようには見えないが、無い足で歩を進める。
モンスターだろう。それも相当強い。
死霊か。正面から殺り合えば先ず勝てないだろうけど、攻撃が通用するなら不意打ちで殺せる。失敗すれば……
「やるか」
昼間から行動していることから、日光で死ぬようなことは無いのだろう。光に弱いということはあるかもしれないが、それ以外が全く効かないわけでも無いだろうし。いつも通りにやるしかない。それしかできない。
掌を地面に向ける。地面に落ちた影から木々の影を伝い、死霊の周辺から影の棘を発現させて串刺しにするイメージ。棘は周囲の木からそれぞれ一本ずつ。時間差で足元から特大のを一本。合計六本。
掌に魔力を込め、小さく呟く。
「影錐」
一瞬だ。イメージ通りに魔法は発現し、死霊は全ての棘に貫かれた。
「影斬」
駄目押しにもう一発。足元から伸びる棘から一瞬発現した影の刃が死霊を縦真っ二つにした。
終わったのか……
あまり手応えを感じなかったが、死霊はサラサラと風に溶けていった。
全身から汗が噴き出す。足の力が抜けて木に凭れ、地面に座る。
涼しい風が肌を撫でる。
今まで止まっていたかのように感じるほど、心臓が激しく鼓動している。
「緊張、してたのか……」
まぁ、するだろうな。人生で出会った中で最強の相手だった……
今思えば、戦わずに逃げる選択肢もあった。何だか色々と考えていたようだったが、そんなことは無かった。ガバガバのガバだ。
まぁ、ちょっと休憩。