Episode.0
「結構......ボロくね?」
目の前の塔を眺めながら臙脂がおそらく問いかけてきた。
塔を眺める臙脂、もしかしたら独り言を言っていたのかもしれない臙脂に対して俺は答える。
「まぁ、瓦礫だからな」
瓦礫の塔。まぁ、ただの塔だ。遠くから見た時は青く光って見えたが、近くで見るとただの石の塔だ。
世界でも有名なこの塔は立ち入ることも、触れることすらも出来ない。中に満ちているであろう魔素を周囲に撒くことも無く、ただそこにあるだけの塔。
周囲に街はなく、一面の白い花畑の中に聳え立つその塔からは、なんだか懐かしさを感じる。
「なんだか、昔を思い出すな」
短い髪を手でかきあげながら臙脂が呟いた。
奇遇なこともあるものだ。俺も昔の友人のことが思い浮かんでいた。
全能なのでは無いかと思えるほどに異常な特質を所有した男。
俺たちの旅のきっかけとなった男。
今はもう居ないがかけがえのない存在であったことだろう。
だろうというのは、今は居なくても差し支えないためである。
「とりあえずここは後回しだ。流星の塔に向かうぞ」
近くに来たから一目見ておこうと思っただけで、この塔に用はない。俺は臙脂に声をかけ、塔を背に歩を進める。
「また来るぞ」
後ろで臙脂が塔に挨拶をしてから駆けてくる。