SSランク昇格試験の依頼
「分かりました。ではまた明日出向きます」
「はい。(そうだ、依頼。あれだけはなんとしても通さねば…)あの、大変申し上げにくいのですが、獄炎蝶の皆さまにギルド本部からSSランク昇格試験の依頼がありまして…」
「具体的にどうぞ」
話を聞く姿勢になると、あからさまにほっとした表情を浮かべるレギオン。
そこに元Sランク冒険者の威厳も風格も残ってはいない。
「はい。なんでも、既に3つ以上のダンジョンを踏破されている獄炎蝶がSランクにとどまっているのが問題視されたらしく、早急にSSランクへと昇格させよと本部からの通達です。依頼は精霊国の南方にある、火山地帯にて、レッドドラゴンが異常繁殖。これの討伐です。昇格試験であるため、SSランク冒険者が同行するとの話です」
SSランク冒険者が同行、か…。
となると、飛行手段は使えない。
幻獣を呼び出すにしても、バレたら面倒だし、馬車での移動になるだろう。
「…あくまでパーティのランクをSSにするということですか?個人のランクはどうなるのです?」
「はい、依頼自体、SSランク冒険者と一緒にとはいえ、レッドドラゴンが何体増えたか、詳細は分かっていません。無事依頼達成したとなれば、すぐさま、貴方方個人のランク試験に移るとのことでした」
まぁ、悪い話でもない。
いつまでもダンジョンに潜り続けるわけにもいかないし、SSランクになるのなら、長距離の長い旅もいつかは経験することだ。
となると、自分たちで馬車を用意するか、ギルド本部から借り受けられるのか確認も必要だ。
一応、大陸全土に広域探知魔術を掛けてみたが、SSランクに匹敵する強者の気配は、私達を除いて100人前後。
100名全てが冒険者な訳もないので、SSランクのパーティなど、各国に1パーティ居るか居ないかだろう。
そんな貴重な戦力を、昇格試験に割いてくれるというのだ。
断る理由は無かった。
「そう。わかりました。ギルド本部へ行けばいいんですね?」
「お願いします」
ぺこりと頭を下げるレギオンは、取り敢えず伝えるべきことは伝えたと、安堵した表情になった。
彼の目から邪気が抜けているのを確認し、部屋を出る。
「サクヤ。ギルド本部って何処にあるんだっけ」
「今は竜人国の王都、ギルネファインにあるようです」
「そう…。明日にしましょうか。もう遅い時間だし」
冒険者ギルドを出るころには、夕日はとっくに沈んでいた。
懐中時計を取り出して、今の時間を確認する。
時計の針は、午後8時を指していた。
「広めの宿を取って、部屋で食事を作りましょうか。持ち込み禁止なんてこともないだろうし」
「そうですね。エルノア。この街で最も安全で部屋が広い宿を探してください」
「ん、了解」
サクヤの指示に従って、エルノアが分身を飛ばす。
女王蜘蛛の繭を持つエルノアの情報収集能力は以前の比ではない。
10分ほどして、エルノアが私達を導く様に歩き始める。
夜になると、街はその姿を大きく変える。
大通りから外れると、女達が男を誘惑し、金を積んで身体を売る…そういう店はたくさんある。
ここはダンジョン都市。
冒険者になるのは殆どが男で、その性欲を発散させる場所がどうしても必要になってくる。
娼館は男性冒険者の憩いの場だ。
「そこの男前な冒険者さん。一晩どうだい?」
そう言ってミズキの腕に妖艶に腕を絡める女がいた。
娼婦らしくスタイルもよく、顔もそれなりに整っている。
ミズキは興味はあるのか、振りほどかずにこちらに視線を向けた。
「興味あるなら行って来たら?私の許可なんて取らなくてもいいよ?」
そう告げると、不服そうに顔を歪めたが、朝には戻ると告げて娼婦と共に消えていった。
まぁ、彼も男だし、好意もあるけれど、4日に一度しか回ってこない順番を待ち続けるのも割と不毛だ。
私は平等にしか愛せない。
分かっているからこそ、つまみ食いしたくなったのだろう。
唯の社会勉強かもしれないけれど。
もし本当に普通の女性と愛し合うのであれば、それでもいいかなとは思っている。
上手く行くなら、応援してあげるのが主人心というものだ。
サクヤは呆れかえり、エルノアは絶対ごめんだとばかりに、結界を張っているけれど。
ローゼンはどうなのだろう。
表情は変わらないので分からない。
エルノアに案内されて宿に到着し、一番広い部屋を一つ借りる。
大きなベッドが六つに、テーブルとイス。
キッチンまでは流石にないが、マジックコンロを置くのに十分なスペースはあった。
さてと。
何を作ろうか。
ミズキが居ないからいつもより少なめでいいけれど、ここで彼の好きな揚げ物とか、辛めの料理を作ると後々また作れって言われそうだし。
「…悩んでいるのか?」
少し頭を悩ませていると、ローゼンが声を掛けてきた。
「うん、何か食べたいものある?」
「…あのフォークではなかなか食べ辛かった麺類というものをもう一度食べたい」
「麺類、うどん?それともラーメン?」
「豚の分厚い肉が乗っていた」
成程。
ラーメンを箸で食べてみたいわけね。
エルノアやサクヤも絶賛していたし丁度いいかもしれない。
私は早速ラーメン作りに取り掛かった。
豚骨は骨を煮崩して潰して取り、チャーシューも時間を飛ばして煮詰めた。
麺も生地から打ち上げて、パスタマシーンで麺に変える。
その工程を、ローゼンは興味深そうに眺めていた。
「随分と手の込んだ料理なんだな」
「そうだね。時間加速魔術使わなかったら普通なら2,3日掛かるようなものだから」
私の返答にローゼンが僅かに驚きの表情を作った。
「…どうりで味が忘れられないわけだ」
「そうだったの?別に魔術使えば一時間も掛からないから、いつでも作ってあげるよ?」
そう答えながら、ラーメンを沸騰したお湯で湯がき、スープの入ったどんぶりに麺を入れて、チャーシューを厚切りにして盛りつける。
「はい、どうぞ」
ラーメンを手渡すと、ローゼンの顔が少し嬉しそうに緩んだ。
サクヤもエルノアも好物のようで、嬉しそうに顔を綻ばせている。
シルビアに至ってはにっこにこだ。
ずるるっと麺を吸い上げた彼らは、幸せそうに息を零す。
そんなに食べたいなら言ってくれればいいのに。
そう思いつつ、私もラーメンを口に運んだ。
げんこつからとりだした濃厚な豚骨スープと、とろとろに煮込まれたチャーシューは確かに美味しい。
そういえば以前はエルノアに私の料理以外で満足できなくなると苦情を貰ったっけ。
「あ~美味しいですぅ…」
「旨いな。食欲が無くとも、幾らでも食べられそうだ」
「おまけに神力増幅の効果まであるなんて、本当に素晴らしいですよね」
「ホントにね。ミズキに自慢したら悔しがるだろうなぁ」
そんなことを呟きながら、もくもくと食べる神獣達。
サクヤとローゼンはきっちり三杯分おかわりした。
エルノアはおかわり禁止中なので肩を落としている。
シルビアは一杯だけだったが、スープまで綺麗に飲み切った。
デザートに作り置きしていたベイクドチーズケーキを取り出す。
今日はミズキが居ないので、八等分に切り分けて、お皿に乗せて渡す。
飲み物も、勿論一緒に。
見たことのないデザートに、皆目を輝かせた。
「うん、美味しい」
「ああ、旨いな」
「美味しいですぅ~」
「これは…以前頂いたレアチーズケーキと少し似ている味なのですね」
味に一番敏感なサクヤが、レアチーズケーキの味を思い出したように呟いた。
材料は殆ど同じだ。
焼く工程があるかないかの違いでしかない。
「分かるんだ。流石サクヤね」
「ふふ、こちらも美味しいですが、触感と見た目は違うのですね。違いを伺っても?」
「レアチーズケーキは材料をゼラチンで冷やし固めただけ。ベイクドチーズケーキはオーブンで焼くことで香ばしさをつけるの」
「成程。色々な調理方法があるのですね」
私の説明に頷きながらも、一つ目のベイクドチーズケーキはあっという間に無くなった。
シルビア、ローゼン、サクヤがおかわりし、ワンホールのケーキはすぐに無くなる。
エルノアが不満そうにぶすくれていたが、お仕置き中なので仕方ない。




