強欲者は身を滅ぼす
とはいえ。
もう結構割と面倒くさくなってきた。
ふぅっとため息を吐くと、私の様子を伺っていたらしいサクヤが、申し訳なさそうに眉を下げた。
「レイ様。ご面倒であれば私が片付けてまいりますが…」
「いいえ、行くわ。さっきのギルドマスター、何か私達に依頼したいことがあるみたいだったし」
「…そうでしたか。分かりました」
一つ頷き、冒険者ギルドへと歩き出す。
空間転移しても良いのだけれど。
あまり多用しすぎると、魔力量が露見してしまう。
30分ぐらいの距離は、歩くべきなのだろう。
流石に街中でお姫様抱っこは遠慮したいし。
ギルドに戻ると、すぐさまギルドマスターのレギオンの元へ案内された。
先ほどよりも、広い部屋。
レギオンも、先ほどの部屋では至らなかったと考え直したのだろう。
ギルドマスターと対面して私が座り、隣にサクヤとシルビアが座る。
もう一つ用意された三人掛けのソファーにミズキ、エルノア、ローゼンが座ると、レギオンは早速査定金額を口にし始めた。
私は読心魔術を展開して、彼の言葉を聞き始める。
「ブラッディドッグの牙18本が金貨890枚、ブラッディドッグの爪21本が金貨780枚、ブラッディドックの毛皮19枚が金貨870枚、イビルリザードの毛皮18枚が金貨890枚、イビルリザードの肝が10個が金貨580枚、イビルリザードの牙が20本が金貨790枚、ハイイビルリザードの毛皮2枚が金貨480枚、ハイイビルリザードの牙3本が金貨590枚、ハイイビルリザードの肝が1個が金貨320枚、ヘルハウンドの毛皮が31枚が金貨1100枚、ヘルハウンドの牙が30本が金貨1200枚、ヘルハウンドの爪が29本が金貨1000枚、レッサーデビルの爪が40本が金貨1390枚、レッサーデビルの耳が29個が金貨980枚、レッサーデビルの尻尾が18本が金貨690枚。アークデビルの爪が5本が金貨980枚、アークデビルの牙が3本が金貨780枚、アークデビルの翼が1つが金貨480枚、後はレッドワイバーンの皮が9枚が金貨970枚、レッドワイバーンの毒針が8本が金貨890枚、(ここまでは通常の上位冒険者でも手に入れられる素材だ。調べればすぐに粗が出る。だが、ここからは少しでも安く買いたたかせてもらうぞ…ふふふ)フェアリードラゴンの目玉が12個が金貨1400枚(本来なら金貨4500枚と言ったところか)、フェアリードラゴンの血が20本が金貨1700枚(普通なら金貨5000枚は下らないが…)、フェアリードラゴンの肝が18個が金貨2100枚(フェアリードラゴンなどという希少竜種の肝が金貨700枚を下らないことなど知る由もなかろう)、フェアリードラゴンの牙が10本が金貨2500枚(小さいとはいえ曲がりなりにも竜種の牙。短剣にでもすれば一本金貨2000枚でも飛ぶように売れるに違いない)。アレキサンドライト特大は金貨3000枚(宝石は市場価値が調べやすい。嘘は控えよう)、マジックバック中は…「もう結構です。他を当たりますので」は?」
つらつらと出来るだけ心情を表に出さないようにと偽りの査定金額を並べていたギルドマスターが、サクヤの言葉に固まった。
軽く殺気を帯びた目が、レギオンを射抜く。
私はそれを諫めて、努めて冷静にギルドマスターを見た。
「失礼かとは思いましたが、貴方の心の中を読ませていただきました。元々、睡眠薬が盛られていた際に安く買い取ってやろうという魂胆は見えていましたので」
(まずい…まずいまずいまずい!ダンジョンを踏破できる程のSランク冒険者を敵に回すわけには…しかしこれがバレればいずれこのギルドの信用はがた落ち!私がギルドマスターの資格を剝奪されるのは火を見るより明らか…!なんという失態を…魔導士がいると分かっていた時点で欲を出さずに普段通り務めていれば…!)
「そうですね。私達があなたが犯した罪を触れ回れば、ギルドマスターの資格など簡単に失うでしょう。それに…部下の失態もありますし、ね?」
にっこりと、有無を言わさぬ笑みを浮かべれば、レギオンは全身冷や汗でびっしょりになりながら、必死に言葉を選び始めた。
「…ど…どうすれば、見逃していただけますかな…?」
「そうですね。では、本来の査定額の倍額を出してもらいましょうか。買取対象となった物を全て、ね?それとフェアリードラゴンの血、目玉、肝、牙は貴方が心の中で考えていた倍の値段で許しましょう」
(それでは今回の買取に一切の利益が発生しなくなる…!いや、それどころか大赤字だ!だがそれでも…ギルドの信用が失墜するよりはマシ…!たった三年でSランクに上り詰めた、力だけで考える頭は無いものと侮った私のミス…いや罰か…。)
必死に頭を回転させた結果、ギルドマスターは必死の形相で頷いた。
サクヤは今後このギルドに立ち寄らなければそれでいいと考えたのだろうけれど、それでは甘すぎる。
欲をかいたものには相応の罰を。
借金ぐらい背負ってもらわなければ。
私の交渉手腕に感心したように微笑を浮かべたサクヤは、立ち上がりかけていた腰をまたソファーに落ち着けた。
「そうですか。では、続きの査定額をご提示ください」
私がにこりと笑うと、顔をひきつらせたギルドマスターは続きを口にし始める。
「マジックバッグ中が金貨5000枚(これも本来なら2500枚で買取できたのだな…)、イエローダイアモンドのネックレスが金貨8000枚(貴族の令嬢なら9000枚出してくれるだろうか、いや。もうよそう)、シーサーペントの涙が金貨7000枚(曲がりなりにも竜種の希少な涙だ。同額程度には…なるだろう…)、シーサーペントの牙が金貨7500枚(鍛冶屋に武器に変えさせても…赤字は確定だな)、イエティの毛皮が金貨9000枚(腹を括ろう。最悪借金してでも…)、ギガントブラックタイガーの毛皮が金貨1万枚(ああ、そうか。今考えていることも全て筒抜けなのか…)、ギガントブラックタイガーの雷角が金貨8900枚(私が馬鹿だった。もう二度と同じ轍は踏むまい)、レッドドラゴンの牙が金貨14000枚、レッドドラゴンの肝が金貨15000枚、レッドドラゴンの目玉が金貨12000枚、アラクネの毒牙が金貨15000枚…。総額で、金貨176800です…。(こんな大金、ギルドの本部に申請しても降りて来やしない…私が借金を抱えるしかない…愚かだったな。本当に…)」
「分かりました。お金はいつ頃準備できますか?」
「はい、明日までにはなんとか致します」
自分が借金まみれになることを覚悟したのか、灰のようになっているギルドマスター。
同情はしない。
強欲者の辿る末路としてはふさわしいだろう。




