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チェス盤で特許申請

適当にぶらぶら街を徘徊していたミズキとエルノアにローゼンが合流していた。


「ローゼン。どうだった?」


「ああ。とりあえず武器は全損させて、今後男として機能しないように潰してきた」


「………」


表情を一切変えずにさらっと言い放つローゼンに、ミズキとエルノアが冷や汗を流した。

彼らとて、喧嘩ごときで機能不全にまではさせないのだろう。

流石冷血漢、やることが違う。

ご愁傷様です、名前も知らない冒険者の方々。

まぁ様子だと、力のない女には好き放題やってそうだから、良い薬になると思う。

ローゼンも彼らからそういう匂いをかぎ取ったのだろう。

曲がりなりにもフェンリルなわけだし。


大通りのど真ん中に5階建ての商人ギルドはあった。

私達が中へ入ると、顔を見ただけでこちらが誰なのか分かったらしく、一言も話さないまま、応接室に案内された。

ギルドの応接室は三人掛けのソファーしかなかったが、こちらはもっと広い部屋のようで、テーブルを囲むようにして三つの大きなソファーが置かれていた。

腰を降ろして暫く待っていると、侍女が紅茶とケーキをテーブルに並べた。

待遇も最高級の様だ。

私は鑑定眼で毒物が入っていないことを確認して、全員に食べて問題ないと念話を送っておいた。


「初めまして、獄炎蝶の皆さま。ギリネウ商人ギルド支店ギルドマスターを務めております、グラヘムと申します。この度は大量の宝石類が手に入ったとの噂を聞き、首を長くしてお待ちしておりました」


部屋に入ってきて私達に頭を下げたギルドマスターは、リーダーが私だと分かっているらしく、私の前のソファーに座る。

因みに普段私が自分に掛けている認識阻害魔術は、人込みで容姿を目立たせないための物。自然に私の周囲に居る神獣達に視線が移るような簡単な阻害魔術だ。

こういう場所で、獄炎蝶のリーダーという、私一個人に対して興味を持つ人間の前では、阻害魔術は発揮されない。

本気で認識阻害を掛けようと思えば、目の前に座っても顔が割れない方法もあるが、ギルド登録時には顔を隠していないため、あまり意味は無い。

冒険者ギルドのギルドマスターは容姿の美醜よりも強さを求めるタイプの人間だった為、私を見ても何も言わなかったが、商人ギルドに所属する彼は、私の顔を認識するなり恍惚とした表情を浮かべた。

サクヤが、ミズキが、エルノアが、嫌そうに顔を歪めて、殺気を放ち始める。

流石に彼らの殺気には耐えられないのか、ごほんと咳ばらいをして、私から目を逸らした。

三人とも一応漏らす殺気は加減している。

失神されたら取引にならないと分かっているのだから。


「失礼。余りの美しさについ魅入られてしまいました。ご不快でしたらご容赦を。それでは本題に入らせていただきます」


そう言って、出来るだけ私の顔を見ないように努めながら、サクヤが取り出していく宝石を一つ一つ鑑定していく。

出されたケーキは、ごくごく平凡な、貴族がよく食べる代物だった。

普通に焼いたスポンジに、ブルーベリーのジャムを挟んだだけのケーキ。

生クリームもチョコレートも普及していないのだから、こうなるのは仕方ないのだろう。

一応、フォークで一口だけ口に運んだ。

まぁ、公爵家で良く出されていたものと大差ないから、味に期待などしていないが。

商談を眺めているだけのミズキとエルノアが暇を持て余し、共用の空間ボックスからチェス盤を取り出して遊び始めた。

まぁ、そうなるだろうとは思っていたけれど。

それを目にしたグラヘムが、特許を作るので是非商品にと押してくるのもまぁ分からなくもない。

ローゼンは比較的暇を持て余すのは平気な方なのか、窓の外へ視線を投げて黙り込んでいる。

シルビアはエルノアとミズキのチェス盤を観戦していた。

2時間ほど時間をかけて全ての宝石に目を通したグラヘムは、査定額を提示し始める。


「まず、金の延べ棒は一本辺り金貨800枚で十本だけ買取させていただきたい。ミスリル鉱石はとても純度が高いため、一つ辺り金貨1000枚でこちらも10個だけ…。アメジスト小粒は一個あたり金貨400枚を2つ、アメジスト中粒は一個あたり金貨700枚でこちらも2つ、アメジスト大粒は一つ金貨1000枚で2つ、トパーズ小粒は一つあたり金貨390枚で2つ、トパーズ中粒はひとつあたり金貨680枚で2つ、トパーズ大粒は金貨980枚で一つ、トパーズ特大は金貨1700枚、ペリドット小粒は一個あたり金貨400枚で3つ、ペリドット中粒はひとつ金貨800枚で2つ、ペリドット大粒は金貨1800枚で1つ、エメラルド小粒はひとつ金貨450枚で3つ、エメラルド中粒はひとつ金貨900枚で2つ、エメラルド大粒は金貨1900枚で一つ、エメラルド特大は金貨3000枚で一つ、ルビー小粒は一つ金貨500枚で3つ、ルビー中粒は一つ金貨1000枚で2つ、ルビー大粒は金貨1700枚で1つ、サファイア小粒はひとつ金貨450枚で3つ、サファイア中粒はひとつ金貨900枚で2つ、サファイア大粒は金貨1400枚で一つ、ダイヤモンド小粒は一つ金貨800枚で5つ、ダイヤモンド中粒は一つ金貨1500枚で3つ、ダイヤモンド大粒は一つ金貨3500枚で2つ、ダイヤモンド特大は一つ金貨7000枚で1つ。総額で金貨55720枚で如何でしょうか。いやー、出来ることなら全て買い取りたかったのですが、大急ぎで集めた予算では何分3分の2ほど買い取るのがやっとという状況でして。支払いは白金貨と大金貨で宜しいですか?」


サクヤは一応宝石の市場価値を理解している様だ。

何度か売ったことがあるから記憶しているのだろう。

提示された額が、相応のものであると判断した彼は、にっこり笑って頷いた。


「はい、問題ありません」


「では、買取金を持ってまいりますので少々お待ちください」


そう言って、グラヘムは一度部屋から退出した。

前にも思ったことだけど、ダンジョンを踏破すると何処からかお金が回ってくるのだろうか。

金貨5万5千枚なんていくら商人ギルドとはいえ、支店が抱えているとは思えないのだけれど。

男爵級の貴族の年収と同程度のお金が、冒険者に支払われようとしている事実に、少し遠い目になる。

このまま冒険を続けていると、公爵家の資産すら目じゃない大金を持つ羽目になりそうだ。

まぁいいか。

この後、拠点になる屋敷を一つ、買いに行こうと思っているし。

いつまでも、幻影で操作しているミドラー家に帰るわけには行かない。

どの道、学園を卒業すれば、冒険者として生きていこうと思っているわけだし、拠点は早いうちに抑えておいた方が良い。

と言っても、正直どの国に屋敷を買うかなんてまだ決められない。

雰囲気のいい街があると良いのだけれど。


「お待たせしました。では、白金貨が557枚、大金貨が2枚のお渡しになります。こちらの皮袋に白金貨300枚、残りの白金貨257枚はこちらに。お確かめください」


サクヤが受け取って数を数えようとしたのを、私が変わる。

皮袋をひっくり返し、テーブルの上に流れ出る白金貨の枚数を速算した。


「はい、間違いなく」


「え、ひっくり返しただけで数えられたんですか?」


「それが何か?」


そんなに難しいことだろうか。

首を傾げると、グラヘムはぶんぶんと首を振っていた。


「では、チェス盤という遊戯盤の特許申請をあの受付でお願いできますかな?」


グラヘムに案内されて、特許申請窓口に移動する。

正直言って、面倒くさい。

チェス程度の遊戯盤で特許を取らなければいけないこの世界の発展レベルが。

こんなのでいちいち特許取ってたら、私が他の世界から持ち込むすべての品物に特許が掛かってしまう。

決めた。

この世界の技術レベルを少なくとも地球レベルまで押し上げよう。

その為に必要なのは、商会を立ち上げる人材。

頭のいい幻獣に一食分食事を与えて…私が持っている各世界の情報を全て記憶として叩き込んで…。


「レイ様。終わりました」


「あ、ありがとう、サクヤ。ごめんね、面倒押し付けちゃって」


「いえ。元はと言えばミズキとエルノアのせいですから。ルール説明は彼らに任せました」


まぁ、最近結構熱中してやっているみたいだから、基本ルールを伝えるぐらいは出来るだろう。

今まで執事として完璧に仕事を片付けていたエルノアが、書類仕事が出来ないわけもないし。

なんだかんだで時間が過ぎた。

そろそろ冒険者ギルドの方でも査定は終わっているだろう。


「エルノア、終わった?」


「うん。こいつら頭固すぎ。つーかマジで頭悪い」


エルノアにびしっと指をさされた商人ギルドの特許申請窓口職員は、かなりショックを受けた様で、机に突っ伏して黙り込んでしまった。

まぁ、エルノアレベルの美青年に、頭悪いとか言われるとショックだろう。

分からなくはない。


「はいはい。ご本人の前で文句言うのは止めなさいね?ルールは紙に書いてあげたのでしょう?」


「うん。細かいところまでちゃんと書いた」


「そう。なら冒険者ギルドに移動しましょうか。もう査定も終わってる頃だろうし」


「ん、了解」


神獣達を連れて、商人ギルドを出る。

職員たちは、彼らの美貌に声も出ないようだった。

ちなみにこういう場所では私には認識阻害が掛かっている。

私を意識しようとしても、神獣達の容姿の方に意識が逸れてしまうのだ。

一対一で向き合わない限り、私の顔を見られる人間は殆ど居ない。


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