モテる男は大変です
エルノアが屋敷内の幻影を調整した後、転移先の裏路地から、ギルドへ向かう。
扉を開けると、昨日ダンジョンを踏破したパーティの顔ぶれぐらいは誰でも知っているらしく、騒がしかったギルド内がしんと静まり返る。
サクヤは気にすることなく、受付に進み、踏破証明書をカウンターに置いた。
「獄炎蝶の方々ですね!こちらへどうぞ!」
金色に輝く踏破証明書を見た受付嬢が、前もって通達されていたのか、直接応接室へと案内してくれる。
通された応接室のソファーは三人掛けだったので、私とサクヤ、シルビアが座り、ローゼンとミズキとエルノアはその後ろに立ったまま控えた。
すぐにギルドマスターらしき人間が現れて、深々と腰を折って自己紹介を始める。
中年の目つきの鋭い男性で、足を引きずっているので怪我の為に引退した高ランク冒険者だろうと当たりを付ける。
身のこなしから、Sランク程度だったのではないかと推測する。
「初めまして、獄炎蝶の方々。ギリネウのギルドマスター、レギオンだ。宜しく頼む。早速だがダンジョンの内部の情報を教えてもらえると有難いんだが…」
立ったまま話始めるギルドマスターを、サクヤが一先ず座らせて、ダンジョンの内部について簡単に説明する。
話が進むにつれ、ギルドマスターが青くなり、離し終えるころには、冷や汗を拭いながら、頭を抱えた。
「…まさかうちのダンジョンが超高難易度ダンジョンだったとは…。して、話の内容から察するに、飛行手段か何かなければ、踏破不可能な内容のはずだが、貴方方はどうやって?」
それについては、以前のハイトロネリアと同じく、私が召喚士だということで話を進めた。
「だが、レイという冒険者は魔術師として登録されているはずだが…」
「…召喚魔術師なんです」
応えると、レギオンが驚愕に目を見開いた。
「召喚魔術師!太古の昔、唯一人だけ存在したという、魔術も召喚も自在にこなすという、あの、伝説の?!」
「…ええ、はい。まぁ…。このことは出来れば内密にお願いします」
「ええ、それは勿論!しかし素晴らしいですなぁ。召喚術を、ぜひ見てみたいのですが、どうかご披露願えませんかな?」
「…ギルドマスター、召喚には膨大な魔力が必要です。必要もないのに、魔力を無駄に消費しろと仰るんですか?」
サクヤが冷めた目でギルドマスターを睨む。
ここで私が召喚するのが幻獣や聖獣と同じ性質を持つと知られれば、現在大陸全土を守護している幻獣を私が召喚しているのではないかと疑われても仕方がない。
召喚に然したる魔力は消費しないが、見せない方が賢明だろう。
「も、申し訳ない。興奮のあまりつい…。能力を秘匿するのは冒険者の常。さっきの言葉は無かったことにさせて貰えませんかな」
「ええ、聞かなかったことにしましょう」
にっこりと物腰柔らかな笑みを浮かべて、ギルドマスターに圧を掛けるサクヤ。
やっぱり彼が居ると話が拗れなくていい。
「それでは、是非うちのダンジョンで出たドロップ品を買い取らせて頂きたい。31階層までで売りに出せる物を出していただけますかな?」
こちらが空間ボックスも持ちだということは出張所からの情報で知っているらしく、レギオンが好奇心が抑えきれないと言った表情で私達を見た。
「ブラッディドッグの牙18本、ブラッディドッグの爪21本、ブラッディドックの毛皮19枚、イビルリザードの毛皮18枚、イビルリザードの肝が10個、イビルリザードの牙が20本、ハイイビルリザードの毛皮2枚、ハイイビルリザードの牙3本、ハイイビルリザードの肝が1個、ヘルハウンドの毛皮が31枚、ヘルハウンドの牙が30本、ヘルハウンドの爪が29本、レッサーデビルの爪が40本、レッサーデビルの耳が29個、レッサーデビルの尻尾が18本、アークデビルの爪が5本、アークデビルの牙が3本、アークデビルの翼が1つ、後はレッドワイバーンの皮が9枚、レッドワイバーンの毒針が8本、フェアリードラゴンの目玉が12個、フェアリードラゴンの血が20本、フェアリードラゴンの肝が18個、フェアリードラゴンの牙が10本、アレキサンドライト(特大)、マジックバック(中)、イエローダイアモンドのネックレス、シーサーペントの涙、シーサーペントの牙、イエティの毛皮、ギガントブラックタイガーの毛皮、ギガントブラックタイガーの雷角、レッドドラゴンの牙、レッドドラゴンの肝、レッドドラゴンの目玉、アラクネの毒牙。後は宝石類が、金の延べ棒100本、ミスリル鉱石20個、アメジスト(小)5個、アメジスト(中)5個、アメジスト(大)2個、トパーズ(小)4個、トパーズ(中)3個、トパーズ(大)2個、トパーズ(特大)1個、ペリドット(小)6個、ペリドット(中)4個、ペリドット(大)1個、エメラルド(小)7個、エメラルド(中)4個、エメラルド(大)2個、エメラルド(特大)1個、ルビー(小)5個、ルビー(中)3個、ルビー(大)1個、サファイア(小)7個、サファイア(中)2個、サファイア(大)1個、ダイヤモンド(小)9個、ダイヤモンド(中)5個、ダイヤモンド(大)2個、ダイヤモンド(特大)1個、ブルーダイヤモンド(中)1個、イエローダイヤモンド(大)1個、パープルダイヤモンド(超特大)1個ですね」
風魔術や転移魔術で空間ボックスに回収していたけれど、一度見たものは忘れない完全記憶は、空間ボックスにしまってあるドロップ品の数を全て覚えている。
つらつらと記憶を読み上げている間に、受付嬢が紅茶を淹れて持ってきてくれた。
エンプーサからドロップした神級の催淫薬と下級淫魔の種子は、出回ると危険そうなので除外した。
出された紅茶なんともなしに手を伸ばそうとして、サクヤに止められる。
彼が先に毒見として口に入れた瞬間、ぴりっと空気が張りつめた。
―レイ様。この紅茶は飲まないでください。
―毒?
―いえ、唯の睡眠薬かと。私には効きませんが、貴女には効いてしまいます。
「ほほう、流石ですな。どれも素晴らしい品物だ。Sランクモンスターのドロップ品だけでも見せていただけませんかな?」
にこにこと笑うギルドマスターは、紅茶に睡眠薬が混ざっていることを知っている様子は無い。
一応読心魔術を発動させたが、少し安く買いたたいてやろう程度の悪意しか読み取れなかった。
「その前に、レギオンさん。この紅茶を飲んでいただけますか?」
サクヤがそう告げて、自分のカップを差し出す。
「なぜ貴方の紅茶を私が…?まさか!」
サクヤが無言で圧力を掛けると、はっと気づいたギルドマスターは給仕した受付嬢を呼び出した。
「ええ。睡眠薬が盛られていたようでしたので、一応確認の為。貴方はご存じないようですね、安心しました」
その様子を見て、私は自分に出された紅茶を鑑定して確認する。
私のカップには睡眠薬は入っていないようだった。
シルビアの分も鑑定してみるが、睡眠薬は入っていない。
つまり、サクヤだけを狙った犯行と言うことだ。
―サクヤ。私の紅茶には何も入ってない。シルビアにも。薬を盛られたのは貴方だけみたい。
―そうですか。それならば、そこまで警戒する必要はありませんが…黒幕は洗い出しておきましょうか。エルノア、お願いしますね。
―ん、了解。殺す?
―もう二度とこんな気を起こさせないようにすればいいから。
―はいはい。了解。
ギルドマスターに呼び出された受付嬢が姿を見せる。
何をやらかしたのかは、自分が一番分かっていることだろう。
「お前、事もあろうにSランク冒険者に睡眠薬を盛ったのか!」
「ひっ…」
「分かっているのか?Sランク冒険者を敵に回すのがどういうことか!牢に入るのは確実、最悪死刑だ。お前の意志なのか?!どうなんだ!」
ギルドマスターが必死に真相を聞き出そうと声を荒げているが、受付嬢はがくがく震えるだけで何も言わない。
仕方ないので彼女の心を読心魔術で読み取ってみる。
『なんでバレたの?!なんでなんでなんで?!飲んだら最後どんな屈強な戦士だって昏倒する秘薬だったんじゃないの?!なんで意識があるの?どうして…私が…あんな頼み聞かなければ…っでもあんな金貨!私には、病気の妹が…』
―お金で買収されてたみたいね。
―ん、黒幕わかったよ。近くの宿屋でサクヤが運ばれてくるのを今か今かと待ってるみたい。モテる男は大変だね?
―仕方ないでしょう。問題児ばかりのパーティをうまく回すのが私の役割なのですから。ああ、勿論レイ様は対象外です。
―まぁ、取り敢えず結構きつめの幻影見せたら目を回して気絶したからこれでいい?
―ええ。しっかり心を折っておいてくださいね。
そう告げて念話を切ると、サクヤは穏やかに微笑んでギルドマスターに声を掛けた。
「ギルドマスター、もう結構ですよ。彼女の意志では無い様なので、謹慎処分程度で許して差し上げます」
「ええ?!ですが…!」
「構いません。耐毒スキルを持っている私にはこの程度の薬は私には効きませんから」
さらりと状態異常無効を耐毒に変換しているところも抜け目ない。
「…っ本当に申し訳ありませんでした!私、買収されたとはいえ、貴方を…!」
曲がりなりにも、自分が薬を盛った相手に恩情を掛けられて、罪悪感に苛まれたのだろう、受付嬢は涙ながらに買収されたことを自白した。
「お前はクビだ。もう二度と同じ職につけると思うな。出ていけ!」
ギルドマスターが受付嬢を追い出し、全員分の紅茶を下げさせて、新しく淹れなおさせる。
今後はサクヤが手をつける飲食品は私が鑑定しといた方が良さそうね。
もし神級アーティファクトの薬物なんかを使われたら、幾ら状態異常無効でも効果を発揮するだろうし。
これらはダンジョンの最下層に行けば割と簡単に手に入る代物だ。
大金を積めば、高ランクの冒険者からなら入手するルートはある。
たかが男一人攫うために、金貨一万枚相当の薬を用意する人間など、居るとは思えないけれど。
念のため、用心するに越したことはない。




