生姜焼きの味変
「レイ様。もうすぐお昼ですが、昼食を食べてから戻られますか?」
「ええ、そうね。街中ではあまり凝ったものは作れないし」
マジックコンロを取り出して、何を作ろうか、一瞬悩む。
生姜焼きは作ったことなかったっけ。
キャベツを時間逆行魔術で新鮮な状態にしてから千切りにする。
オークの肉を薄切りにして、薄力粉をまぶす。
ボウルにすりおろし生姜、醤油、砂糖、料理酒を混ぜてたれを作り、オークの肉をフライパンで焼く。
両面こんがり焼けたら、たれを絡めて、中火で炒め合わせ、全体に味が馴染んだら完成。
ご飯も時間加速魔術で炊き上げて、お茶碗によそう。
生姜焼きはキャベツの千切りと一緒にお皿に盛りつける。
「出来たよー」
声を掛けると、またチェスと将棋で時間を潰していた神獣達が、勝負中の盤面が動かないように空間魔術で固定してから、こちらに寄ってくる。
かなり真剣に勝負している様なので何を賭けて勝負しているのか聞いてみたいけど、藪蛇になりそうなのでやめておく。
飲み物と一緒にお茶碗とお皿を渡して、地面に座って食べ始める。
いい加減、テーブルと椅子も作るべきかな。
地面に直接食器を置くと、土とか入ったりして不衛生だし。
そういうのは結界魔術で防いでいるみたいだけど、創ればいいだけの話だし。
そう思って、六人掛けのテーブルとイスを創り出した。
「せっかくだから座って食べて」
そう告げると、それぞれ椅子に座ってテーブルに皿を並べた。
神獣達が当たり前のように箸で食べ始めるのを見て、ローゼンは見慣れない食器に眉を顰める。
「…それはなんだ?」
「お箸っていう食器だね」
「この料理はフォークでは食べにくい」
無表情を少し歪めて、不満そうに零すローゼン。
「うん、だろうね。使い方、覚える?」
「ああ」
頷く彼の右手に箸を持たせて、使い方を教える。
物覚えのいい神獣は、あっという間にご飯と肉を掴み上げるまでになった。
「そういえばローゼン、前に麺類送ったでしょ?どうやって食べたの?」
麺類という聞きなれない言葉に一瞬目を瞬かせたローゼンだったが、思い当たる節があったのか、頷いた。
「…あれは食べづらかったな。フォークでどうにか掻き込んだが…成程、この食器を使う前提の食べ物だったのか」
「そうだね。うどんとラーメンはお箸使えないと食べにくいだろうね」
此処にいる全員が箸を持てるようになったから作ったけど、ローゼンには配慮していなかった。
少しだけ罪悪感を覚える。
「この味付けはご飯に合いますね。食が進みます」
サクヤが美味しそうに顔を緩めている。
彼レベルの美貌の持ち主がこんな幸せそうに顔を緩めていれば、女は九割九分九厘陥落するだろう。
何処から出ているのかよく分からない色気まで合わされば、恐らく世界最強だ。
因みにミズキは不機嫌顔が少し緩むだけなので強面だし、ローゼンは感情を表に出さないから多分女は怖がって近づかない。
隠れファンなら多そうだが、好意を表に出して近づいてくる女はあまり居ないだろう。
エルノアはサクヤに負けず劣らず綺麗な顔立ちはしているものの、ミズキ達と同じく外面は宜しくないので、彼らと同類だ。
多分、この中で女性に一番人気があるのはサクヤだろう。
だからと言って、彼に手出しできる人間が存在するとは思えないが。
そんなあまりにもとりとめのないことを考えて、思考を切り替える。
「生姜焼きっていうの。マヨネーズを掛ければまろやかになるし、七味とか一味を掛ければピリ辛に味変もできるよ」
「そうなのですか。では、おかわりにマヨネーズをかけてもらえますか?」
「おい、レイ。その七味っての出せ」
ピリ辛という単語に反応したミズキが、にやりと口角を上げる。
うん、笑ってても凶悪顔だ。
元の容姿が綺麗なだけに、表情がかなり勿体ない。
そういえば二人きりの時はもっと優しい顔つきしてたっけ。
まぁ、意識はしていないだろうけど。
「はいはい」
創造魔術で七味と一味を創り出し、ミズキに渡す。
「あまり掛け過ぎると食べられないぐらい辛くなるから、加減してね」
そう付け加えて、私は生姜焼きを一口頬張る。
肉は唯のオークの肉なのだが、肉質はかなり柔らかい。
庶民でも手が出るレベルの肉の中では、結構美味しい方だろう。
一応警告したにも拘らず、ミズキの生姜焼きは七味で真っ赤に染まっていた。
あれでは元の味もあったものじゃない。
「旨ぇ」
それでも美味しいらしい。
ミズキは辛党なのがはっきりした。
とはいっても、甘い物が嫌いなわけではないらしい。
普通にケーキもおかわりするし、コーラだって甘いはずだ。
まぁ、好き嫌いがだんだん分かってきたのは良い事だけれど。
ミズキ、ローゼン、サクヤがおかわりし、サクヤとローゼンの分にはマヨネーズを少し掛けてやった。
ミズキは次は一味を試している。
辛党か。
そのうち香辛料を一通りそろえることになりそうだな、なんて思いながら、また生姜焼きを口に運んだ。
ミズキ、サクヤ、ローゼンはご飯のおかわりもしたにも拘らず、三人前ぺろりと平らげた。
胃袋がだんだん大きくなっている様な気がしてならない。
シルビアは大盛にした生姜焼きを一人前食べただけで満足そうにお腹をさすっていた。
うん、やっぱり女の子一人いるだけでちょっと空間が癒される気がする。




