火山階層の主
30階層はマグマで覆われた火山地帯だった。
階層探知を掛ける神獣達に、適温魔術を掛けてやる。
流石にここは暑すぎる。
「…Sランクにしては反応がでかい。ボスはSSランクかもしれねぇな」
「飛べる?」
「問題はねぇが、ここに住んでるのは多分竜種だ。空中でも戦闘になるぞ」
「ええ。分かった」
ミズキの言葉に頷いて、ローゼンに神槍ナルカミを渡す。
「ローゼン、これ一応武器として使って。槍も使えるでしょ?」
「ああ、分かった」
ローゼンの手に渡った途端、神槍ナルカミは彼を主として認めたらしく、淡く発光した。
擬人化を解いたミズキの背に乗って、火山地帯の空を飛ぶ。
彼の言った通り、途中にはレッドワイバーンが大量に襲い掛かってきた。
全員が魔術で迎撃しながら、風魔術でドロップ品を回収しつつ、ボスを目指す。
ミズキが飛ぶ速度を上げれば、レッドワイバーンは追い付いて来れずに点になった。
亜音速まで速度を上げても、襲い掛かってくる敵は居た。
俊敏性特化の竜種だろうか。
鑑定してみると、フェアリードラゴンと表示された。
ドラゴンと呼ばれる竜種の中では弱い部類でSランクとされているが、Aランクのワイバーンよりも知能が高く、俊敏。
体が小さく、ブレスこそ吐けないものの、数種類の魔術を使い、身体に魔術を纏って突進してくるので割と強い。
それが、ミズキを墜落させようと、突進してくる。
亜音速で飛んでいるミズキに追従して、更に速度を上げて突進してくるものだから、思わず神結界を張って防いだ。
属性は炎らしく、炎魔術は効かない。
サクヤは、真なる神獣に進化したときに得た適正属性の風魔術で切り刻み、ローゼンは雷魔術で応戦する。
エルノアは念魔術で、シルビアは水魔術で、私は氷魔術で撃ち落とした。
ミズキが瘴気を放てば一発だろうが、状態異常耐性しか持っていないシルビアとローゼンを乗せた状態でそれは使えない。
ドロップ品はちゃんと空間魔術を使って回収している。
これだけ速度が出ていると、風魔術では回収しきれない。
そんなのが数だけはいるらしく、飛行中もフェアリードラゴンの対処でトランプどころではなかった。
一時間ほど飛行して、やっと火山の中央に辿り着く。
―居たぜ。レッドドラゴンだ。
ミズキと同じ、竜種に分類されるSSランクモンスター、レッドドラゴン。
十数メートルは有る赤い竜が、敵意を燃やしてこちらを睨み上げていた。
竜種とは、地上界で最も恐れられる種族の一つ。
本体なら、国を挙げての大討伐になるような種族だ。
魔術を使える人間が数千人規模で、物量で押し切るのが本来のあるべき姿。
こんな一般公開されているダンジョンに出現していいようなモンスターではない。
レッドドラゴンも空中戦を望んだらしく、その巨体を浮かび上がらせ、マグマのブレスを吐いてくる。
しかし、神結界で守られているミズキに届くことは無かった。
―さっさと溶けな。
ミズキが強酸のブレスを吐きかける。
竜と龍では種族もレベルもランクも違う。
ミズキも既に災害級、カタストロフだ。
そんな存在から圧倒的な魔力で作られた強酸を受ければ。
幾らSSランクの竜とて、融解する。
ミズキが聖獣だった頃ならいい勝負ができたかもしれないが、今や彼はその2ランク上に居るのだ。
神獣のローゼンか、シルビアでも、レッドドラゴン程度に遅れは取らない。
ブレス一発で骨まで溶けたレッドドラゴンは、マグマの海に沈んでいった。
不思議なことにドロップ品だけは、マグマの上に浮かび上がってくる。
熱に絶対の耐性があるサクヤがミズキの背から降りてマグマの中に入り、ドロップ品を回収してくれた。
普通は燃えるはずの服も、断熱結界でも張ったのか、綺麗なままだ。
「どうぞ、レイ様」
手渡されたのは、レッドドラゴンの牙と、肝、目玉と魔石、と大きな宝箱。
鑑定してみると宝箱にはなんのトラップも仕掛けられていなかったので、蓋を開ける。
中から出てきたのは、光物が好きなドラゴンらしく、宝石と金銀財宝の山だった。
空間魔術が掛けられていたらしく、宝箱の大きさよりも、中身がすごく多い。
金の延べ棒に純度の高いミスリル、宝石はざっと数えても百は下らないだろうか。
この宝箱の中身だけで、公爵家の資産に届きそうな程だった。
まぁ…こんな宝箱があると知っているから、冒険者なんて危険な職業に就く人間が多いのだろう。
普通の冒険者には、SSランクのレッドドラゴンを倒すのは夢のまた夢だけれど。
取り敢えずざっと数を計算しながら空間ボックスに放り込んでいく。
一度見たものは忘れない完全記憶は、わざわざ空間ボックスの中のものを取り出して数を数えて集計するなんて手間を省いてくれる。
宝石の中に、ひと際目を引くゴルフボールぐらいの超巨大な宝石があった。
パープルダイヤモンド。
私でも初めてお目にかかる宝石だ。
ダイヤモンドに色を付けるのは、その土地の環境だ。
ブルーダイヤモンドやイエローダイヤモンドはたまに出土するが、パープルなんて色はかなり希少だ。
その上この大きさ。
王族ですら、買取困難なんじゃないだろうか。
ご丁寧に、それ専用の宝箱までついていたので、箱に仕舞って空間ボックスに放り込む。
まぁ、売り払えなくてもその内何かしらで使えることもあるだろう。
大量の財宝を整理して、空間ボックスに仕舞うと、サクヤが率先して次の階への石碑を探してくれる。
探知魔術を使えば一発だったようで、火山の噴火口の近くにそれはあった。
「…この階のボスがSSランクだったなら、次もその可能性が高いわね」
「おそらくは。ですが、何も問題ありません」
自信たっぷりに答えるサクヤを見て、私はくすりと笑った。
確かに、このメンバーが怪我をするとか、想像できない。
たとえSSSランクのモンスターが出ても、かすり傷一つ負わされる気がしないのだ。
そもそも、私が展開する神結界を突破しうるものなど、魔神を除けば地上界には最早存在しないだろう。
「そうね。行きましょうか」
「はい」
頷いて、石碑に触れる。
転移魔方陣は正しく起動し、私達は次の階層へと転移した。




