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シルビアが探していたもの

翌朝。

目を覚まして、サクヤの無防備な寝顔にとくんと胸が高鳴った。

紅い髪を梳きながら、絡められている腕をとんとんと押し返すと、意識が戻ったサクヤが妖艶な笑みを浮かべる。


「おはようございます、レイ様」


「うん、おはよ」


少しだけ私を抱きしめて、名残惜しそうに解放したサクヤは、ベッドから降りるともういつもの物腰穏やかな雰囲気に戻っていた。

切り替えの早さに感心しつつ、朝食を作り始める。

今日はフレンチトーストを作ることにした。

食パンの耳を切り落とし、卵と牛乳と砂糖を混ぜた液体に浸し、バターを溶かしたフライパンで焼く。

両面に焦げ目が付いたら出来上がりだ。

ドリップコーヒーでブラックとカフェオレを作り、空間ボックスに仕舞っていたコーラシロップと炭酸水を混ぜてクラフトコーラを作り、エルノアの分だけは某メーカーのミルクティーを注いで一緒に渡す。

自分の飲み物は相変わらず紅茶だ。


「これも旨いな」


「本当ですね。口の中で溶けてしまいます。まるでデザートのようですね」


ローゼンが淡々と評価する。

無表情だけど、口数が少ないわけではないらしい。

サクヤはいつも通りだ。


「これはフレンチトーストっていうの。簡単だけど美味しいでしょ?」


「ああ」


今まで食べ物を送り付けていたが、それが何なのか知るすべを持たなかったローゼンにとっては新鮮なようだった。

表情には出さないが、もくもくとフォークを口に運んでいる。


「おかわり」


「私もお願いします」


「俺も貰おう」


ミズキ、サクヤ、ローゼンにおかわり分のフレンチトーストを渡して、私も自分の分を口に運ぶ。

うん、丁度いい甘さだ。

パンが卵液を奥まで吸い込んでいるから、ふわふわでとろとろ。

口に入れるだけで溶けて解ける。

私が二口目のフレンチトーストを口に運ぼうとしたとき。

しゅんと空間転移が作動して、シルビアが戻ってきた。


「レイ様!間に合いました!良かったですー!」


目をキラキラさせて私に飛びついてくるシルビア。

私は彼女の体を抱きとめて、頭を撫でて落ち着かせる。


「間に合ったって、何に?」


「勿論、レイ様の淫紋による発情です!」


当然のことのように答えるシルビアに、嫌な予感がして冷や汗が伝う。


「…何を買ってきたの?」


「はい!これです!」


自慢げにアイテムボックスから小さな小瓶を取り出すシルビア。

その小瓶を鑑定して、私は頭を押さえた。


男根装着呪液(エンチャントペニス)

男性の生殖器を一時間だけ付与する呪いの液体。神級アーティファクト。

※射精の快楽を覚えた女性が、その後正常で居られるかどうかは分からない。


「シルビア、駄目よ。こんな危険な物、使わせられない」


「嫌です!一度でいいんです!私もレイ様と快感を共にしたいんです!」


「使った後どうなるか分からないのよ?」


「それでも構いません!愛するレイ様と一つになれるなら、どんな副作用だって受け入れます!」


余りにも確固たる決意に、私の方がたじろいでしまう。

これはマズい。

シルビアは本気だ。

少なくとも、敬愛や、親愛で言っているのではない。

そうでなければ、感情感応が作動するわけないのだから。


「シルビア。そんなに真なる神獣になりたいの?」


「いいえ、なれなくても構いません!私は一度でいいからレイ様と交わりたいだけです!」


「………」


言葉も出なくなって、溜息を吐いていると、傍観に徹していたサクヤが割って入ってくれた。


「レイ様。シルビアは本気です。私は鑑定眼を持っていないので、その薬物の危険性は分かりませんが…仮に一時的に付与した性器での射精の快楽が忘れられずに暴走するなら、エルノアの記憶操作で記憶を消してしまえば済む話かと」


「そう、ね。出来ればそんなことはしたくないけど…」


「仕方ありません。言い出したら聞かないのが彼女ですから」


私は降参するように手を上げて、シルビアに視線を向けた。


「…分かったわ。それが貴方の意志なら尊重する。でも、一時的な快楽に呑まれることも、気が触れることも許さない。貴女は女性よ。それを頭に刻みなさい」


「はい、わかりました!」


きらきらとひたすら無邪気に好意を向けてくるシルビアを私は突き放すことは出来なかった。

もし気が触れるなら、記憶操作するしかなくなるが、一応命令しておいたので、彼女は出来る限り順守するだろう。

シルビアの意志の強さに掛けるしかない。

取り敢えず、今日、いつ発動するか分からない淫紋の発情が、恐ろしく億劫になったのは確かだった。

こういう呪いは発現者が感じ取る体感時間を基にしているはずだ。

時間停止の魔術を使っても意味は無いだろう。

私はシルビアにフレンチトーストとオレンジジュースを渡して、食べ始める。

正直憂鬱過ぎて食欲など無かったが、食べなければ倒れる。

現人神になったからと言って、食事が不要になるわけではないのだ。

いつも通り、ミズキとサクヤ、ローゼンは三人前ぺろりと平らげ、シルビアは一枚で満足した様子。

空になった食器と調理道具は洗浄魔術でちゃちゃっと洗って、石碑で30階層へと転移した。


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