ハヤシライスとクラフトコーラ
次は夕食づくり。
ハヤシライスを作ろうと思う。
ワイバーンの肉の薄切りを大量に作り、タマネギはくし切りにし、しめじはほぐす。
鍋にタマネギとしめじを入れて炒め、タマネギがしんなりしたら、ワイバーンの薄切りを入れて炒める。
火が通ったら、水を加え、アクを取り除きながら五分。
カッとトマト缶、ケチャップ、中濃ソース、コンソメ、砂糖、塩を加え、十分の煮込み時間は加速で飛ばす。
ご飯を時間加速魔術を使って炊き上げ、深皿に大盛に盛りつける。
私の分は普通の皿に、普通の量だ。
何気にシルビアも大盛を食べるので、他の4人は言うまでもない。
「ごはんできたよー」
声を掛けると、エルノアとサクヤがチェスを、ミズキとローゼンが将棋をして時間を潰していたらしい。
ちらっと盤上を見てみると、チェスはサクヤ有利、将棋はローゼン優勢だった。
特にサクヤに特別な記憶を送ったわけではないので、頭の回転の差が出ているのだろう。
彼らは私の声を聞くと、勝負を一旦お預けにして、近くに寄ってきた。
「旨そうな匂いだな」
ミズキがまだ食べても居ないのに、美味しそうだと口にする。
かなり珍しい。
他の三人は一口口に運んで、目を輝かせた。
「酸味があって、まろやかで、とても味わい深い味ですね」
サクヤは毎回私の料理を褒めてくれる。
ローゼンはあっという間に一皿食べ終わって、ふぅっと息を溢した。
「旨いな。食欲が無くとも、食べたくなる料理などレイにしか作れないだろうな」
そう言いながら、おかわりする彼の表情は変わらない。
ミズキ以上に、表情が変わらない。
鉄面皮といっても過言ではなかった。
感情の機微に一番疎そうなのに、彼が囁く愛情は本物だった。
ちょっとだけ、嬉しくなる。
私も一口口に運んだ。
トマトの酸味と、調味料のまろやかさが良い味を出している。
ワイバーンの肉も、煮込むと少し味わいが変わる。
牛肉よりもずっと柔らかくて、口の中で溶けていった。
ミズキ、サクヤもおかわりして、ハヤシライスをもくもくと食べている。
おかわりできないエルノアは、不機嫌そうに味わって食べている。
ちょっと可哀想だけど、ここで甘いことを言うと神獣達の手綱が握れなくなった時大変なので、続行だ。
そもそも、エルノアのレベルが他の神獣よりも高いので、他の神獣達は今が絶好の機会だと、おかわりを増やしてまで差を付けたがっている。
私が解除すれば不満が爆発するだろう。
ミズキ、サクヤ、ローゼンは大盛三人前をぺろりと平らげ、大量に作ったはずのハヤシライスはあっという間に空になった。
次は食後のデザート。
どれにしようかと悩んで、ガトーショコラを取り出す。
十等分に切ったら、お皿に乗せて、飲み物と一緒に渡してやる。
ローゼンの好みは分からなかったので、色々と試飲させて、結果カフェオレに落ち着いた。
「これは…何を使っているのですか?」
初めて食べたチョコレート菓子に興味が湧いたのか、サクヤが問いかけてくる。
「チョコレートを使ったケーキだよ。材料はカカオっていうの」
「成程…。レイ様が料理を勉強された世界は本当に発展しているのですね」
フォークでケーキを突きながら、サクヤが感心したように呟く。
まぁ、カカオは砂糖と合わせないと苦くて食べられたものじゃないし、この世界にあったとしても食べ物として普及しているか疑問だ。
貴族令嬢だった時も、チョコレートは見なかったし。
商人ギルドを介して、特許を取得して流行らせるのは有りかもしれない。
その為には商会を立ち上げなければいけないけれど。
適当な幻獣を見繕って、私の料理を一度でも食べさせれば神力を得て、聖獣にランクアップするだろうし、店の管理は丸投げでも問題ない。
うん、地上に戻ったらカカオを探してみよう。
一人で思考していると、ミズキが何を思ったのか、サクヤに問いかけた。
「その飲み物で神力の増大はするのか?」
「ええ。レイ様が少しでも手を掛けられると、神力の増大効果があるようですね」
サクヤの返答に少し不機嫌そうなミズキ。
この後言われる言葉は大体予想が付く。
「レイ、コーラは手作り出来ないのか?」
「…クラフトコーラなら作れるけど…今飲んでるのと大分味が違うと思うよ」
「なら頼む」
ミズキが頼むと口にした。
これは大分柔らかくなった証拠だ。
「はいはい。待ってて」
私は食べかけのガトーショコラを置いて、マジックコンロへと戻る。
クラフトコーラに使う材料をポンポンと創造魔術で創りだした。
レモンは薄切りに、ホールカルダモンは半分に切り込みを入れ、バニラビーンズは種を出す。
鍋に水、レモン、ホールカルダモン、バニラビーンズ、ホールクローブ、ホール黒コショウ、シナモンスティック、八角、キビ砂糖を入れて、中火で熱し、五分時間加速で飛ばして火から下ろし、粗熱を取るために時間を加速させる。
別の鍋にキビ砂糖と水を入れ、カラメルソースを作ったら、コーラシロップをざるで漉して、カラメルソースと混ぜる。
出来上がったコーラシロップと炭酸水を注いでレモンを飾れば出来上がり。
「はい、どうぞ」
グラスを手渡すと、一口飲んだミズキが目を見開いた。
「…旨い」
「そう、良かった」
因みに大量に作ったコーラシロップは、空いたペットボトルに移して保管している。
これなら無くなるまで炭酸水と混ぜるだけだし、楽でいい。
元々スパイス系は結構好みなのか、ミズキは喉を鳴らしてクラフトコーラを飲んでいる。
「ケーキのおかわりあるか?」
「私もください」
「俺もあるなら貰う」
おかわり出来ないエルノア以外が、お皿を渡してきたので、もう一個ずつ配る。
「ケーキは一人二個までね」
これ以上食べられると、作るのが大変なので、断りをいれておく。
とはいえ、エルノアがおかわりできない分、二個余っているので、シルビアにハヤシライスと共にガトーショコラを二個分転送しておいた。
因みにオレンジジュースは、オレンジをミキサーにかけて漉したものに変えておく。
そんなに手間でもないし、それで神力が上がるなら、その方が良いだろう。
デザートのまったりした時間も終わって、食器を洗浄魔術で片付け、バスタブを取り出してお湯を張る。
「ダンジョンで風呂か。なかなか至らない発想だな」
ローゼンが興味深そうにバスタブを見た。
不可視結界は一応張って。
今更みられて困るものでもないけれど、一応ローゼンには裸見せたことないし。
お湯に浸かって息を吐く。
シルビア、まだかな。
何を探しているのかは知らないけど、多分幻獣に街の座標を聞き出して虱潰しに探し回っているのだろう。
そうでなければ、六日も掛かるはずが無い。
同姓の、一緒にお風呂に入れる女の子が居ないのは少し寂しい。
まぁだからと言って、男たちを呼ぶ気にはなれないのだけれど。
浄化魔術があれば、汗も皮脂も汚れも取れるし、ぶっちゃけお風呂に入るのは自己満足と癖のようなものだ。
十二年間、公爵令嬢として生きてきたが故に、お湯に浸かることで精神を安定させているような気もする。
まぁ、あちらでは手伝ってくれる侍女が居たけれど。
無意味と分かっていても、お風呂に入るのは癖なのだ。
冒険者がまだ居そうな二十階層辺りでは流石にバスタブは出せないが、こんな最深部なら人目をはばかる必要もない。
いい加減、女の子の柔肌が恋しい。
シルビア、早く返ってこないかな。
悶々と、いなくなった愛らしい唯一同姓の神獣に想いを馳せた。




