お菓子の作り置き
―レイ様。見つけました。
「本当?何が居るの?」
―あれは…ギガントブラックタイガーですね。
そう言いながら、サクヤは高度を落としていく。
私の目にも視認できたギガントブラックタイガーは、名前の通り悠々とした巨体を持つ黒い虎だった。
ぱっと見ただけで十メートル以上の巨虎だ。
ギガントブラックタイガーは、サクヤを敵として認めたのか、額の角に雷を宿し、低い唸り声をあげている。
サクヤのブレスが巨虎を焼いた。
あっという間に炭化し、物言わぬ躯と化すギガントブラックタイガー。
まぁ、真なる神獣に進化したサクヤのランクは今やSSSランクを遥かに超える天災級。いわゆるカタストロフだ。
一体のみでも暴れれば、国ごと亡ぼす化け物ランクなのだ。
唯のSランクモンスターが、対抗する手段は無きに等しい。
ギガントブラックタイガーが、ドロップ品に変わったのを見て、サクヤがついでに焼き払った地面に着陸した。
ドロップ品は、十メートル越えの巨大で手触りのいい毛皮と、一本の大きな角、巨大な魔石だった。角には雷属性が付与されているようで、恐らく武器のいい素材になるだろう。
それらをアイテムボックスに仕舞った後、石碑を探して辺りを探索する。
魔方陣が付与されている石板は、そう遠くないところにあった。
「そろそろ夕暮れですね。少し早いですが、夕食にしますか?」
「ええ。そうね。一時間ぐらい余裕がありそう。おやつのストックも作り置きできそうね」
「そうですね。お手伝いできることなどはありますか?」
「ううん、大丈夫。ご飯までゆっくりしてて」
気遣ってくれるサクヤにそう言って、マジックコンロを取り出す。
何を作ろうかと思考を巡らせていると、サクヤに後ろから抱きすくめられた。
「サクヤ?」
「…すみません。レイ様が私の上で甘い声を漏らすものですから、つい」
腰の辺りに当たる固くなった熱いものを感じて、私は顔を赤らめてしまう。
「今日はサクヤの番でしょ?」
「そうですね。今は口づけだけで我慢します」
そう言って、サクヤは私を振り向かせて、唇を塞いだ。
優しく甘い口づけは、私の体に熱を持たせる。
「んっ…ふぅ…」
サクヤの柔らかい舌が口の中を蹂躙する。
それが酷く心地よくて、私は彼に身を任せた。
暫くして、漸く解放された唇が、糸を引きながら離れていく。
金色の瞳が情欲に揺れて、それを抑え込むように、冷静さが戻ってくる。
「そういえば、見慣れない小道具がありましたが、どうやって遊ぶのですか?」
意識を切り替えたサクヤは、私が創り出した遊戯盤で暇つぶししようと言うのだろう。
とん、と彼の額に指を置いて、チェス、囲碁、将棋のルールを直接脳裏に流し込む。
驚いたように目を見開いた彼は、情報を整理できたのか、微笑みながら頷いた。
サクヤが離れていったのを見送って、私はお菓子作りを始める。
先ずはベイクドチーズケーキ。
この前作ったレアチーズケーキが大分好評だったので、作ることにする。
ビスケットをフードプロセッサーで粉々に砕き、無塩バターを溶かして、混ぜ合わせる。
ケーキ型に入れて、スプーンで押し固めた後、冷蔵庫代わりの入れ物に入れる。
もうここまで来たら冷蔵庫も魔力で稼働する物を作ってしまってもいいかもしれないなんて思いながら、ボウルにクリームチーズ、砂糖、レモン汁を混ぜ合わせる。
滑らかになるまで混ぜたら、卵と薄力粉を入れて更に混ぜ、生クリームを追加してまた混ぜる。
ケーキ型を取り出し、ビスケットの下地の上に、生地を流し込んだら、170度のオーブンで45分程時間加速で時間を飛ばす。
取り出したベイクドチーズケーキを、30分ほど時間を飛ばして冷まし、氷室に入れて、二時間時間を加速させる。
氷の入った入れ物からケーキ型を取り出すと、丁度いい感じに出来ていたので、型から外して空間ボックスへ。
次はショートケーキだ。
市場に新鮮なイチゴが売っているわけもないので、創造魔術で創りだす。
卵白と卵黄を別のボウルに分け、卵白をに砂糖を入れてハンドミキサーでメレンゲにする。
卵黄は湯銭に掛けながらハンドミキサーで混ぜ合わせ、ふわふわにする。
メレンゲに卵黄を加え、薄力粉をふるい入れ、さっくりと粉気が無くなるまで混ぜる。
レンジで溶かしたバターを入れて、更に混ぜる。
170度のオーブンで32分、時間加速を掛け、取り出して、常温で二時間ほど時間加速魔術で冷やす。
ホイップクリームを泡立てる。
七分立てと八分立てのクリームを作り、イチゴをスライスして、冷ましたスポンジを半分にスライスする。
スポンジの間にクリームとイチゴを敷き詰めたら、サンドして周囲にクリームを隙間なく塗っていく。
上にイチゴを飾ったら、完成だ。
ベイクドチーズケーキも、ショートケーキも2ホール分作ったから、結構時間が経ったようだった。




