想定外の告白
再度サクヤが擬人化を解いたので、その背に乗って空へ飛び立った。
「そういえば、レイ、さっき勝ったご褒美貰ってないんだけど」
「そうだな。俺らに負けたんだから何かあってもいいよな?」
エルノアとミズキが不穏なことを言い出した。
ローゼンが合流したので、もう一度トランプで遊ぼうと思っていたのだが、罰ゲームは必須らしい。
「…何が良いの?」
しぶしぶ問いかけると、エルノアはにっこりと黒い笑みを浮かべ、ミズキもにやりと口角を上げた。
「キスさせて?」
「俺もそれがいい」
―…エルノア、ミズキ。契約を忘れたわけではありませんよね?
「分かってるってば。だからキスだけにしてあげる」
「ああ。それにまだ昼間だしセーフだろ?」
なにやら三人で話しているが、契約とは何なのだろうか。
「ミズキ、エルノア、サクヤ。契約って?」
―一晩につき一人だけ、レイ様に触れられる権利を、命を代価に魔術契約を交わしました。契約を破れば死に至ります。
「…何、しれっと恐ろしい契約結んでるの貴方達」
告げられた内容に、頭を抱える私。
「しょうがないじゃん。レイだって、毎日三人相手するのは無理があるでしょ?」
「それに、一晩ぐらい二人きりでお前と過ごしたいしな」
そう告げる彼らの瞳には、独占欲と嫉妬の感情が滲んでいた。
彼らの中から、私が一人選べば、そういうしがらみもなくなるのだろうか。
そうはいっても、スキルで芽生えた愛情は、愛を囁かれた分だけ増大するわけで。
特別な相手など、選びようがない。
置いてきぼりのローゼンは冷静に事の成り行きを見守っていた。
「という訳で、俺からね」
話しを切り上げたエルノアが、私を腕の中に閉じ込めて、深く甘い口づけを落とした。
歯列をなぞり、舌を絡め、喉の奥まで貪る様な、深い口づけ。
ぞくぞくと甘い快感が背中を上ってきて、力が抜ける。
「んんっ…ふぅ…んっ」
鼻から抜ける甘い声が、エルノアを余計に興奮させてしまったらしい。
くちゅくちゅと卑猥な音を響かせて、唾液を交換し合うそれは、私が酸欠になって頭がぼぅとするまで続いた。
「は…レイの唾液甘い。溶けた顔可愛い」
くすくすと笑いながら、エルノアが私を抱きしめる。
その腕の中で、私は必死に酸素を取り込む。
現人神になったとはいえ、空気が無ければ、生きてはいけない。
神の序列の中でも、現人神は最下位だ。
下級神にすら及ばない、人族から稀に現れる、人を超えた存在。
とはいえ、未だ、人が到達できる範疇でしかない。
「次は俺だ。さっさと離せ」
強引にエルノアの腕の中から、私を奪い取ったミズキは、同じように深い口づけを落としてきた。
「ふぅ…んんっ…んっ」
恋人のような口づけを求められることは嫌じゃない。
寧ろ嬉しいのだけれど、あまりにも長く深い口づけは、甘い快感をもたらして、私の体を熱くさせる。
ミズキは大体私の限界を心得ているのか、酸欠を引き起こす前に唇を解放してくれた。
「はぁ…レイ、俺のものになれよ…」
ぎゅうっと私を抱きしめるミズキの表情は見えなかったけれど、嫉妬に苦しんでいることぐらいは分かった。
そんなことを言われても、私は誰かひとりなんて選べない。
もしも一人を選んだとして、選ばれなかった神獣はどうなるのか。
召喚主として彼らを生み出した以上、斬り捨てるなんて考えは始めから持ち合わせていない。
それなら、平等に愛することだけが、私にできる唯一の事だった。
蚊帳の外に放り出されていたローゼンは、不思議そうに私に声を掛けた。
「レイ、なぜ大人しく口付けなんか許しているんだ?」
ローゼンは感情感応なんてスキルの事は知らない。
私が凌辱を我慢しているとでも思っているのかもしれない。
「…えっとね。私には感情感応ってスキルがあって、相手の想いを言葉にされるとその感情に同調して恋愛感情が芽生えるの。エルノアもミズキも、私を想ってくれてるから、私もその感情を無碍にできないのよね」
「…そのスキルは、俺が相手でも働くのか?」
私に問いかけるローゼンは、何を思っているのか、どことなく苦しそうに顔を歪めた。
「え…?」
首を傾げていると、ローゼンが優しく私に触れた。
胸に顔を埋めると、心臓が破裂しそうな程、激しい鼓動が聞こえてきた。
「レイ、好きだ。毎日送られてくる料理を食べながら、ずっと想っていた。触れられる日など来ないと諦めていたが、許されるなら、俺もお前に触れたい」
どくんと私の心臓が高鳴る。
感情感応が作動して、ローゼンに対する恋心が植え付けられたのだ。
「レイ。俺もお前を愛してる」
脳裏に刻み付けるように、囁かれる愛の言葉。
とくんとくんと心音が乱れて、目の前の彼が愛しく映る。
恋愛感情なんて、絶対持ってないと思っていたのに。
「うん、伝わったよ。貴方の気持ちも」
そう告げて、ふわりと手触りのいい髪を撫でた。
「…本当か?口づけても、良いのか?」
変わらないはずの表情が、少しだけ嬉しそうに緩んだ。
「うん、いいよ」
そっとと触れるような口づけが落ちてくる。
私が穏やかに微笑むと、おそるおそるだったそれが、舌を絡め合うほどに深くなる。
初めてなのだろう。
普段から表情を消して、冷静に勤めていただろう彼が、愛を囁くように深く口づけてくる。
そんなローゼンを見て、ミズキが溜息を吐いた。
「…予想はしていたが…やっぱりこうなったか」
「…見せ付けるのは逆効果だったみたいだね」
―恐らくですが、これ以上増えることは無いでしょうから。契約は結びなおしましょうか。
「っち。しゃあねぇな」
「…でも四人だと一週間で回らなくなるんだけど。俺我慢できるかな…」
ミズキ、エルノア、サクヤが苦々しそうに会話している。
ローゼンは混ざり合った唾液を私が呑み込むと、どことなく嬉しそうに顔を緩めた。
ぎゅうっと抱きしめられて、慣れない香りに少し戸惑う。
ミズキもエルノアもサクヤも。
神獣だからなのか、妙に私が落ち着く香りを放っている。
それがフェロモンなのか体臭なのかは分からないけれど。
取り敢えずローゼンが私を解放してくれたので、また、トランプで遊び始める。
因みにローゼンは何処で習ったのか、めちゃくちゃ強かった。
暫く、楽しい時間が過ぎ、サクヤが階層ボスを見つけた様だ。




