地に落ちた信用
今度はミズキが擬人化を解いて、龍王の姿を現す。
サクヤとミズキは、空を飛ぶ際、必ず交互に擬人化を解く。
まるで人化を解いた姿を、私に見られたくないとでも言いたげに。
こうしてみると、元来人族ではない彼らを恋愛対象として認識してしまっている私は結構な異常者なのだろうか。
まぁそんなことを言い出せば、竜人族の中には竜化出来る者も居るし、獣人族だって、野生の獣の姿へと変身する者も居る。
だからと言って、彼らを化け物として認知する人は少ないし、この世界では常識だ。
まぁ、普段は人の姿なんだから深く考えなくてもいいかと思考を閉ざす。
また五時間ほど、亜音速で空を飛び、終わりが見えない広大な森林に、溜息を零す。
このダンジョンも高難易度指定されそうだなぁなんて思いながら、ミズキが木々を強酸で溶かして、溶け過ぎた地面を土属性魔術で復元させた。
ちゃんとした地面になってから着陸して、すぐ人の姿に戻るミズキ。
まぁ、彼らが人外なのは元から分かっていることだし、それについて、嫌悪感などは抱く余地もない。
龍の姿でも、人の姿でも、ミズキはミズキだ。
龍になったからと言って、理性を失う訳でもないのだし。
そんなことを考えながら、マジックコンロを取り出す。
手を付けるに付けられずにいた、レッドサーペントの肉をどうにか料理しようと試みる。
取り敢えず、肉を取り出して軽くフライパンで火を通し、味見してみる。
味としては鶏肉に近い。けれど肉から出る旨味はこちらの方が断然強かった。
旨味の強い鶏肉だと思えば、忌避感は消える。
チキン南蛮を作ろう。
タマネギはフードプロセッサーでみじん切りにし、沸騰したお湯で卵を茹でて、ボウルに移してフォークで潰し、マヨネーズ、レモン汁を入れてタルタルソースを作る。
レッドサーペントの肉は一口大に切って、塩胡椒を振り、薄力粉をまぶし、溶き卵にくぐらせる。
揚げ油を加熱し、180度に熱したら、肉を入れて8分ほど時間加速魔術で飛ばし、油から上げる。
大きめのボウルにしょうゆ、砂糖、酢、すりおろししょうがをいれて、混ぜ合わせ、そういえば電子レンジは創ってなかったなと思い出して創造魔術で魔力を電力に変えて稼働する物を創り出す。
一分ほどボウルの中身を温めて、たれが熱いうちに肉をくぐらせて馴染ませる。
キャベツの千切りと、レタス、トマトを器に並べ、チキン南蛮を入れて、タルタルソースを掛ければ完成。
段々と、地球のキッチンと遜色ない電化製品が揃ってきたな…なんて思いつつ、ご飯も炊いて、時間を飛ばし、お茶碗によそう。
「はい、出来たよ」
手渡すと、興味津々でご飯とチキン南蛮を受け取る神獣達。
「今日のは辛くない?」
昨日の今日で今までの信用は地に落ちているのか、エルノアが口に入れる前に確認してくる。
「大丈夫。辛くないよ」
そう答えると、一つ箸でつまんで口に運ぶ。
「…美味しい」
「そうですね。とても興味深い味です。甘酸っぱいのにまろやかで…食が進みますね」
サクヤも同意してもくもくと食べている。
ミズキの感想は、もはや諦めているので、食べ進める速度で、判断する。
どうやら好評みたいだ。
私もひとつ、口に運ぶ。
甘酸っぱさと、タルタルソースのまろやかな味わいが口に広がる。
レッドサーペントの肉は、最初に感じた通り、旨味が強くて、噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。
思ったよりも魔獣の肉って家畜の肉より美味しいんだななんて思いながら、ごはんも口に放り込む。
「おかわり」
「私もお願いします」
「俺も」
お皿とお茶碗を手渡してくる神獣達に多めに作っていた分を盛りつけて渡してやる。
食べれば食べるほど神力の増大効果はあるらしく、皆、気に入った料理は二食分は軽く胃に収めてしまう。
元々食欲が無いなら満腹中枢は刺激されるんだろうか。
一度お腹いっぱいになっていたことはあったから、上限は一応あるみたいだけど。
ローゼンとシルビアにも転送魔術で送って、食事を終えて一息つく。
エルノアはロイヤルミルクティー、サクヤはドリップコーヒー、ミズキは相変わらずコーラだ。
ミズキは今の味に満足しているらしく、エルノアのように特別を気にすることもないみたいだった。
私は自分用の紅茶を淹れて、作り置きしていたシフォンケーキを切り分けて生クリームをハンドミキサーで泡立てて添え付け、皆に手渡した。
「あぁ、昨日はこれを作ってたのか」
納得したように、ミズキが呟いた。
「ふわふわですね。このクリームは何ですか?」
「生クリームっていうの。甘いから、少しずつケーキと一緒に食べるといいよ」
食べ方を説明すると、フォークでケーキを切って、クリームをつけて食べ始める。
「…美味しい」
何処となく悔しそうに呟くエルノア。
何か気に食わない事でもあっただろうか。
「とても美味しいです。中に混ぜ込まれているのは紅茶の葉でしょうか」
「うん。折角だから紅茶のシフォンケーキにしてみた」
「シフォンケーキというのですね。優しい味ですね」
穏やかに感想を述べながら幸せそうにケーキを食べるサクヤ。
ミズキもいつも不機嫌そうに寄っている眉が緩んでいる。
エルノアはプライドが高いので、あまり表に出さないけれど、もくもくとケーキを口に運んでいる。
私もシフォンケーキに生クリームを付けて、口に入れる。
柔らかいスポンジは唾液と混ざるとざらりと溶けて、アールグレイの紅茶の香りが鼻に抜ける。
うん、甘さも丁度いい。
私がケーキを半分ぐらい食べ進めたところで、ミズキが空のお皿を突き出した。
「まだあるか?」
「出来れば私も欲しいです」
「ん、俺も」
前回の事で数が足りないと言われたらどうしようかと思ったのか、サクヤの視線が泳いでいる。
ミズキとエルノアは譲るつもりは無いのか、早くと目で訴えていた。
「今日はちゃんとおかわりあるから」
そう不安げなサクヤを安心させて、二個目のシフォンケーキを皆に手渡す。
甘いものは皆割と好きなようで、のんびりとした時間が流れた。
…このまま時間止まってくれないかな。
エルノアに昨日脅されている私としては、こんなまったりした時間が終わるのがちょっと怖い。
まぁ、彼らが好きな物を食べるペースを落とすわけもなく、ケーキはすぐに無くなった。
ローゼンとシルビアにも同じものを転送して、今回は前回の失敗を活かして十等分にしていたので、同じケーキはもう一つ空間ボックスに保管してある。
シルビアには申し訳ないけれど一個分のケーキしか送っていない。
まぁ彼女が戻ってきたら、多分十個に切っても、ケーキは足りなくなるだろう。
ローゼンに送る分を一個減らすしかない。可哀そうだけど。




