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エルノアの苦手なもの

違和感はあるが、一応まだ腰は砕けていなかったらしく、立ち上がれたのも束の間。

ミズキが三重結界を解いたらしく、心配していたエルノアの腕に抱きすくめられる。


「レイ、大丈夫?何された?どこまでされたの?」


答えづらくて黙り込んでいると、私に付いている赤い跡に目を止めたエルノアが、ミズキに突っかかっていく。

サクヤは予想はしていたとでも言うように優しく微笑み、魔術で私に付けられた跡を消し去ってくれた。


「レイ様、ご無理はなさらないでください。私達は一食ぐらい食べずとも問題ありません。ご自分の物だけ、簡単な物を作ってお召し上がりください」


心配そうな優しい声音に、私はふわりと笑ってサクヤを撫でる。

サクヤはかぁっと顔を赤く染めて、私から視線を逸らした。


「先ずは服を着てください。そのままではエルノアまで理性を失って貴方に襲い掛かりかねませんから」


「サクヤは?」


「…私は我慢強い方なので、レイ様に負担は掛けません」


そう言うと、マジックコンロの側に落ちている私の服を拾って来て、浄化魔術で泥を落としてから、私に着せようとする。

サクヤの手つきがあまりにも優しかったので、そのまま服を着せられて、マジックコンロの前に戻った。

ダンジョン内では、思ったより時間が流れていたようだ。

こういう地形の階層は、日が昇り、沈む現象まで、地上と変わらない設定がされている。

夕日はもうとっくに沈んでいた。

あれだけ散々抱かれた後に、凝った料理をするのはちょっときつい。

腰は大丈夫だったが、足がまだ震えている。

そのことに目ざとく気付いたサクヤが、私のお腹に腕を回して、身体を支えてくれた。


「サクヤ…有難いけど、ちょっと恥ずかしい」


「何を今更。もっと恥ずかしいことをしたではありませんか」


しれっと言い放つ美男子に、これ以上言っても無駄だと諦めて、土鍋を取り出してご飯を炊き、豆腐を切って、麻婆豆腐を作る。

私が動こうとするたびに、サクヤは私を抱きしめたまま移動し、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

前みたいに神聖術で治してくれてもいいはずだけど、役得とか思っているんだろうか。

出来上がった麻婆豆腐とご飯を器によそって、神獣達にも手渡して食べ始める。

花椒(ホアジャオ)が入っているので、つんと鼻に抜ける辛みがある。

ミズキは平然と食べていたが、エルノアは辛いものは苦手だったらしく、咽た。

サクヤは意外と大丈夫そうだ。


「ゴホッ…なにこれ、辛っ」


「エルノアは辛いの苦手なんだ」


「ちょっとぐらいなら平気だけどっ!これはちょっと…」


「あ?この程度の辛さで音上げてんのか、お前」


ミズキは割と気に入ったらしい。

スプーンでがつがつ食べている。


「煩いな。食べないとは言ってないでしょ!」


エルノアは辛さに顔を真っ赤にしながら、一生懸命食べている。

涙目のエルノアが見れたので、ちょっと悪戯が成功した気分だ。

可愛い。

元の顔立ちがどこぞの王子様みたいに端麗なので、涙目にはちょっときゅんとした。


サクヤとミズキはおかわりしたが、エルノアは一杯食べるので精一杯だったらしく、また咽こんでいる。

仕方ないので、ミルクティーを取り出して、コップに注いであげた。

それを受け取ったエルノアが喉を鳴らして飲む。


「…はぁ。死ぬかと思った」


思わずくすくすと笑ってしまった私に、エルノアが恨めしそうな眼を向けてくる。


「レイ、明日覚悟しといてよね?」


ミルクティーで辛さは消えたらしく、にっこりと黒い笑みを浮かべて私を脅迫するエルノア。

目が笑ってない。

流石に笑っちゃったから怒ってるのかな。


「ご、ごめんってば。今度からはエルノアのは甘口で作るから」


「…とかいいつつ、俺が必死で食べてるの、凄く楽しそうに見てたよね?」


「いやそれは…エルノアの涙目が可愛くて、つい…」


本音を零せば、エルノアはますます不機嫌そうに眉を寄せた。


「…レイ、明日絶対泣かすから」


「え?やだよ。だから謝ってるじゃない」


「今日我慢してあげるだけマシだと思ってね?」


にっこりと黒い笑みを浮かべるエルノアは、既に決定事項だとばかりに言い放った。

泣くまでって何されるんだろうか。

ちょっと、いや大分怖いんだけど。

前世が女神だった影響もあってか、精神的に打たれ強い私は基本涙を流すことなどない。

多分、拷問されたって、泣かないだろう。

あ…でも性的に追い詰められすぎると涙は出たっけ。

ミズキが舐めとってたけど。

どうしようか、明日が来るのがすごく怖くなってきた。


「こら、エルノア。仮にも主人を泣かすなど、何を失礼な発言をしているんですか。あらゆる事態からレイ様を守るのが私達の使命でしょう。本当に泣かしたりしたら私が許しませんよ?」


「ふーん。サクヤ、俺に勝てるわけ?なんなら勝負する?」


「神獣同士で争うなど、馬鹿のすることですよ。そんなことをしたらダンジョン自体が崩壊しかねません。レイ様を危険にさらすようなことを私がすると思いますか?」


「あっそう。別にいいけど?感じすぎて涙が出ちゃうのは不可抗力だもんね?」


「ですから…」


サクヤとエルノアが言い合いをしている。

まぁ、明日何が起こっても、涙腺の決壊は免れるように努力するしか無さそうだ。

エルノアは一度決めたことを簡単に諦めるような性格ではないし。

サクヤがいくら諫めても無駄だろう。

ミズキが珍しく三回目のおかわりをしたことで、麻婆豆腐の鍋は空になり、サクヤは忙しそうだったので、洗浄魔術でちゃちゃっと片付けた。


バスタブを取り出して、お湯を張り、身体の疲れを癒す。

今日は誰も乱入してこなかったので、ゆっくり浸かれた。

流石にシャワーは無いから、髪を洗うことは出来ないんだけど、浄化魔術で皮脂の汚れは取れるので、長い髪は濡らすだけに留める。

腰まで流れた長い銀髪は、屋敷ではメイドたちが丁寧に乾かしてくれていた。

今は変身魔術で色は変えているけれど。

乾燥魔術で必要な水分は残しつつ、乾かしてしまう。

無属性魔術は魔力があればほとんどの人族が使える。

とはいえ、メイドの仕事を奪ってしまうようで、今までは使う気にもならなかったのだけれど。

ダンジョンでは世話をしてくれる人も居ないため、こういう魔術は便利だ。

バスタブから上がった時にどうしても足が付いてしまう場所は土属性魔術で石畳に変えているし、あんなことをしたあとのベッドも、浄化魔術を使えばシーツを変える必要もない。

ネグリジェに着替えて、ベッドに潜り込むと、ミズキが一緒に布団に入り込んできた。


「どうしたの?」


「…エルノアが本当に明日まで我慢するかわかんねぇからな。見張りだ」


「そう、わかった」


頷いて、ミズキの胸板に顔を埋める。

特有の香りに包まれると、自然に睡魔がやってきた。

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