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絶対零度の銀世界

見渡す限り、雪と氷の世界。

28階層は、極寒の銀世界だった。

急に下がった気温に、私はぶるりと震え、慌てて自分と神獣達に適温魔術と保護結界を掛ける。


「あ。レイ、ありがと。流石に寒かったんだよね」


神獣とは言え、体感温度はそう人間と変わらない。

サクヤは熱に強いだろうし、ミズキに瘴気などは効かないだろうが、それは本来の姿の影響を受けているだけだ。

エルノアは妖狐だし、寒さには強い方だろうが、ここの気温は尋常じゃなかった。

-273度の絶対零度だ。

保護結界を張ったので、余程の事が無い限り、氷漬けにはならないだろうが。


ミズキが擬人化を解き、私達を乗せる。

こんな少なくともこんな階層で眠りたくはない。

亜音速で飛び始めるミズキの背中を見る。

黒い鱗は硬く鋭利で、翼は大きく、尻尾も長い。

頭には立派な角が生えて、瘴気を帯びている。

立派な龍だ。

地上界にも、ミズキに並ぶ龍はそう居ないだろう。

五時間ほどぶっ続けで飛んで、氷の上に着地する。

食事の時間だ。

念のため結界を張り、その中の空間を適温に変える。

適温魔術は使っているが、絶対零度の中では温めた料理も冷めてしまう。

何でもよかったが、外は寒いので折角だからお鍋にしようと野菜を刻み始める。

ワイバーンの肉を薄切りにし、野菜と共に鍋に入れて煮込む。

すき焼きにしようかと思ったが、そういえばうどんはすき焼き風にしたんだったと思いなおし、昆布でだしを取った。

ポン酢を創造魔術で創りだし、それぞれの器に入れて手渡す。

最初に使っていた小さなマジックコンロの上に大鍋を置き、火に掛けながら蓋を開けると、戸惑った神獣達がこちらを見た。


「これはお鍋っていう文化なの。中に入ってる好きな物をお箸で取って、そのポン酢につけて食べてみて?」


言われるがままに、自分の器に野菜や肉をよそっていく神獣達。

まさか男三人とお鍋をつつく日が来るなんて思ってもみなくてくすりと笑いがこみ上げる。

前世では極力男と関わらないようにしていた。

それでも周りに付きまとってくるが、追い払って、必死に一人の時間を作っていた。

まぁ、それでも嫉妬されたんだけど。

いや、今は良いか。

今は結構幸せだし。

そんなことを思いながら、ワイバーンの肉をポン酢につけて口に運んだ。

薄切りにした肉は、程よく油が乗っていてとても美味しかった。


「ポン酢というのですか。このたれに絡めるといくらでも食べられる気がします」


最近唯一食レポをしてくれるサクヤが、鍋からまた肉や野菜を取り出してポン酢につける。

結構大きな鍋だったのに、中身はすっかり空っぽになっていた。

出汁はまだ残っているので、追加で野菜と肉を入れて時間加速を掛けて煮込む。

あっという間に出来上がったおかわりに、ミズキとエルノアも再度箸を伸ばした。

私もローゼンとシルビアの分をよそって、転送魔術で送る。

鍋は冷めると美味しくないが、すぐに気づいてくれるかは分からない。


「う…食べ過ぎた。ちょっと気分悪い」


「は…腹いっぱいってこういう感覚なのか」


大鍋で作られた鍋を二回空にすれば、少なく見積もっても十五人前は軽く超えている。

初めて満腹になったらしいエルノアが、少し気分が悪そうに口を押え、ミズキは満足そうに足を投げ出した。

サクヤは一応加減して食べていたらしく、ミズキとエルノアを見て呆れ交じりにため息を吐いている。

暫く動けそうにないエルノアとミズキに変わって、後片付けを始めるサクヤは、本当に出来る子だなぁと実感する。


「エルノア、魔術で消化させてあげようか?」


一応そういう魔術はあるので問いかけるが、エルノアは首を振って拒否した。

一時の物だったらしく、少し置けば楽になったようだ。

普通は胃もたれするんだけどね。

神獣の適応力早すぎる。

マジックコンロを収納し、結界を解くと、ミズキが擬人化を解いてまた龍の姿になった。

いくら周囲が氷点下でも、適温魔術が掛かっている私達には気温など関係ない。

普通なら積る雪に足を取られて満足に進めやしないだろうが、私達の移動手段は飛行だ。

関係ない。


ミズキの背に乗って、また空へと飛びたつ。

そういえばダンジョンって限りある空間のはずだけど、空は何処まで続いているんだろ。

ミズキがそれなりに上昇しても阻まれないということは結構縦にも広い空間なのだろうなと一人考えながら、また数時間ほどぶっ続けで飛ぶ。


―…は、やっと見つけた。


ミズキが念話で呟いた。

まだかなり上空に居るので私には見えないが、彼は目が良いのだろう。

急降下していくと、白い毛皮に包まれた十メートルは有りそうな化け物が見えた。

Sランクモンスター、イエティ。

極寒の地の、更に奥深くに住む、かなり珍しいモンスターだ。

因みにモンスターと魔獣の違いは、地上界に出現するか、ダンジョン内だけに出現するかに過ぎない。

これが地上界なら、このイエティも魔獣という括りになる。

ダンジョンの上に必ず街が出来るのは、内部のモンスターを魔獣として外に解き放ってしまわないよう、定期的に駆除する必要があるせいだ。

射程距離に入った瞬間、ミズキは強酸のブレスを吐き出す。

イエティの毛皮はかなり強力な魔術耐久を持つが、龍であるミズキの強酸には耐えられなかったようだ。

あっという間にぐずぐずに溶けて、跡形もなくなってしまう。


「…分かってたことだけど、モンスター可哀そうだね」


―意思のねぇ生き物なんざに同情してんじゃねぇ。


私が言った可哀そうという言葉は、ミズキにとって不快だったのだろうか。

今は擬人化していないので表情が読めない。

ばさっと音を立てて、その場に降り立つと、ミズキはあっという間に人化状態に戻った。

落ちていたのはイエティの毛皮と、大きな宝箱だった。

鑑定する間もなく、ミズキが箱を開ける。

ぶわっと毒々しい煙が立ち込めて、ミズキが咳き込んだ。


「ほらよ」


中身を私に向かって投げてくる。

反射的に受け取ったものを鑑定すると、神級のアーティファクトだった。

魔槍ナルカミ。

名前の通り雷属性の特性を持つ、強力な武器だ。

まぁ、私達のパーティでは使い物にならないけれど。

イエティの毛皮と魔槍ナルカミを空間ボックスに入れて、石碑を探す。

暫く探しても見つからなかったため、対象探査魔術を掛けて、氷の中に埋まっていた石碑を見つけ出した。

因みに氷を掘ったのは擬人化を解いたエルノアだ。

九尾だったはずの彼の毛並みはは見事な黄金色で、尻尾は三本に減っていた。

原理は分からないけれど、どんどん尻尾が増えても邪魔なだけなので、神力を集中させているのだろう。

そんなことを考えている間にも、空狐の爪は硬い氷を軽々削り、石碑を掘り当てたのだった。

流石に獣の神獣だけあるなと感心したのだった。

そうして、29階層へと転移した。


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