サクヤの警告
レイ様が眠った気配を察知してサクヤはミズキとエルノアが何かこそこそ話しているのを、追及すべく声を掛ける。
「何をしているのですか?ミズキ、エルノア。随分と、楽しそうですね?」
「別に何もしてないけど?」
「は…お前の知ったことじゃねぇよ」
しれっとしらを切るエルノアと、ぶっきらぼうに突き離すミズキの言葉。
まぁ、何を企んでいようが、阻止するつもりだったが、二人同時に敵に回すのは流石に不利だ。
そう考えた私は、彼らを懐柔しようと、微笑を浮かべて近づいた。
「そういえば、貴方達、このダンジョンに入る前に何か買っていましたね?何を買ったのです?」
そう優しく問いかければ、ミズキとエルノアの目に僅かに動揺が走る。
表面上は取り繕っているつもりだろうが、人の感情を読み取る能力は私はかなり長けていた。
「一体何を…いえ、あの快楽の味を知った貴方達が、わざわざレイ様から離れてまで購入しようとするものなど、限られていますね。まさかとは思いますが、我らが想像主たるレイ様に、何か盛るつもりだったなどとは、言いませんよね?」
ぴくっとエルノアが肩を震わせ、緑色の瞳に敵意が露になる。
ミズキは気まずそうに、紫紺の瞳を逸らした。
「………」
「どうなんですか、エルノア。どうせ考えたのは貴方でしょう?」
「別に、サクヤには関係ないし」
この期に及んではぐらかそうとするエルノアを、私は言葉巧みに追い詰める。
「エルノア、貴女には忠誠心というものは残っていないのですか?まさか神獣たる貴女が、一夜の快楽に溺れてしまったとでも?」
「っ…そんなわけ…」
「そうですよね?私達は神獣です。それも、レイ様と交わることで更なる力を手に入れた、真なる神獣。そこらの獣とはわけが違うのですよ?」
言い募ると、ぐっとエルノアが唇を噛んだ。
ミズキは知らぬ存ぜぬを貫き通そうと、顔を背けている。
「っサクヤだって、今日レイと二人きりで何してたのさ」
「心の内を伝えただけですが?」
「結界が解かれた時、レイの様子が明らかにおかしかったけど?」
「それは…まぁ…貴方達も同じことをなさっていたではありませんか」
「だからって、レイがあんな顔になるまでって、どこまでやったのさ」
レイ様がもっとと口にした時のことを思い出す。
あの方も感情に翻弄されながらも、私達に気を許し始めているということだ。
ミズキ、エルノアと来て、私が最後だったからか、今まで募っていた性欲が疼いたということもあったのだろう。
「貴方方と同じだと思いますが?流石に私とて、触れてはいけない一線を見誤ることは致しません」
誰だって毎夜甘く触れられれば、眠って忘れようにも身体は疼く。
今日がそうだったと言うだけだ。
「っーじゃあ俺よりサクヤにレイが欲情したってこと?」
嫉妬を孕んだ、緑の眼光が、鋭く私を射抜く。
ミズキは意外と冷静だ。
彼は自分だけのものにはならないと割り切っているのだろう。
「何を勘違いしているのかわかりませんが、レイ様は大分私達に気を許し始めています。それこそ、先を望むような言葉を紡ぐ程度には。そこに貴方方が何かしでかして、余計な不興を買ってしまうと困るのですよ」
「…え、レイが、先を求めた…?」
茫然と、エルノアが言葉を反芻する。
ミズキも気になったのか興味深そうな顔つきをこちらに向けた。
「はい。感情感応とは恐ろしいスキルですね。あっという間に、あの方の心を蝕んでいる。いえ、解きほぐしているとでも言いましょうか。レイ様の心は、確実に変わっていくでしょう。余計な事などしなくとも、答えてくださる日は遠くないと思いますよ」
「………はぁ。サクヤ、読心魔術でも使ってるわけ?」
「いいえ?読心魔術は幻魔術。寧ろあなたの十八番でしょう」
読心魔術は三十階梯の幻魔術だ。
適性のない属性は精々二十階梯までしか扱えない為、私には展開できない。
「わかったよ。盛らないって。レイがその気になるなら別に急ぐ必要もないし」
「かといって、触れるのを我慢するつもりもねぇが」
「…程々にしてくださいね。レイ様の色気は強烈ですから。貴方達の理性が持つか、心配でなりません」
本当に、心の底から心配だ。
レイ様の顔が甘く溶けて、愛らしく先を望んだあの時の色香は、私でも理性を保つのがぎりぎりだった。
疼き続けている性欲は、その内決壊するだろう。
淫紋が発動するのが先か、レイ様が与え続けられる欲望に負けるのが先か。
大分危うい賭けになる。
本当なら、暫く手出しを控えさせたいが、言って聞くような男共ではない。
一対一で闘うにしたって今はまだ、先に召喚されていたエルノアに軍配が上がるだろうし。
力で押さえつけられなければ、神獣が同格の私の言うことを聞くはずがない。
レイ様が耐えられるのを願うことしか、私には出来なかった。




