海の幸乱獲
「おや、素晴らしいですね。これなら何もせずとも進めそうです」
「混合魔術か…。流石にまだ手は出ないんだよね」
「まぁ、混合魔術が使えたところで、数属性しか適性のねぇ俺らじゃ、使いどころは殆どねぇが」
そんな言葉を並べながら、すたすたと歩き始める神獣達。
ここにきてすぐ階層探知を掛けたはずのミズキの反応を見る限り、そこまで広い階層ではないらしい。
3時間ほど、襲い来る淫魔を焼却結界で焼き払いながら歩いてけば、ボスが姿を現した。
女形の、下半身が触手で蠢いているモンスター。
鑑定すると、Sランクモンスターエンプーサというらしい。
男を魅了し、精液を絞りつくして死体まで食らいつくす上級淫魔。
エンプーサは、男が居るパーティが迷い込んできたと思ったのか、怪しげな笑みを浮かべて全力で魅了、誘惑、催淫魔術を放つ。
しかし、状態異常無効の神獣達に、精神攻撃系魔術は通用しない。
私も魔術に対する耐性なら百階梯は優に超えているため簡単にレジスト出来た。
全く効かないことに動揺を見せたエンプーサを、ミズキが殴り飛ばして半身を消滅させ、サクヤが首を切り落とすことで息の根を止めた。
ドロップ品は神話級の催淫薬と無限に下級淫魔を生み出せる種子。
これは…売り物にするのは少しためらわれる品物だった。
一応回収して、前回のダンジョンと同じく、転移魔術陣が刻まれた石碑を見つけ、全員が魔術陣の中に入って次の階へと転移する。
27階層。このダンジョンでも未だ、未到達の領域だ。
まぁ、普通の冒険者では、あの触手型淫魔の猛攻を退けることなど不可能だろう。
状態異常耐性を持ちえない冒険者が辿る末路は想像に難くない。
最高到達階数ではあったので、一応訪れた冒険者は居たのだろう。
その後どうなったかは知る由もないが、命からがら逃げかえって、報告を上げたに違いない。
何はともあれ、27階層に広がっていたのは、広大な海だった。
転移先は一応陸地だったが、先に進むにはこの海を渡らなければならない。
「あの糞人魚、必要な時に居なくてどうすんだ」
「…まぁ…飛んだ方が早いですし、良いではありませんか」
「でも飛んじゃったら折角の海の幸が回収できないよね…」
私が少し落胆したように呟くと、サクヤとミズキがきょとんとこちらを見た。
「レイ様、魚モンスターのドロップ品が要りようで?」
「新鮮な魚は中々手に入らないからね。出来ればほしいけど、仕方ないよね」
残念だけど諦めようとした瞬間、サクヤの強制転移魔術により、シルビアが呼び出されてこてんと首を傾げた。
「あれぇ?私どうしてダンジョンに?」
「シルビア、数少ない貴女の出番ですよ。何を探しているのかは知りませんが、この階層では手を貸してもらいます」
「うわぁ、海ですか。成程です。呼ばれたことには納得しました。でも、私こんなに大人数を乗せて運べませんよ?」
そりゃあそうだろう。
ローレライはマーメイドの最上位。
本来の姿に戻っても、上半身は人型のままだ。
「貴方は海に潜って魚モンスターを倒し、ドロップ品を回収してください。それがレイ様のご希望ですので。私達は空を飛びます」
「あ、成程です~。せっかくの海なので海鮮を確保したいということですね!わかりました!」
シルビアは擬人化を解いて、美しい人魚の姿になり、海へ潜っていく。
曲がりなりにも海の女王と言われるローレライだ。
この海に生息するモンスターなど敵ではないだろう。
それを見送ったサクヤが自分も擬人化を解き、巨大で神秘的な赤い鳥の姿になって、私達を乗せる。
ばさっと羽ばたく音がして、鳳凰の巨体が宙に浮いた。
シルビアが海の中をどの程度の速度で進めるのかは分からないが、少なくとも亜音速は出ないだろうと、サクヤは速度を加減して空を駆け始める。
二時間ほど飛んだところで昼食にするため、私が海を凍らせて陸地を作り、海の上に降り立った。
凍らせた海は、ある程度の範囲は深海まで凍っているため、揺れることもない。
早速マジックコンロを取り出して、何を作ろうかと思考する。
私が居る場所には不可侵結界を張ってくれている神獣達は、氷結領域の境目で襲い掛かってくるモンスターをさくさく倒し、ドロップ品を回収してくれている。
殆どが魚モンスターの肉だったので、海鮮も結構溜まっただろう。
共有の空間ボックスを開けば、大量の海鮮が収納されていた。
そのなかから、シャークネスサーモンの身を取り出し、ホイル焼きとムニエルを作り始める。
アルミホイルは当然創造魔術で創りだす。
しめじとえのき、バターを入れて、ホイル焼きを十個作っていく。
プライパン一つでは出来ないので、コンロ三つフル稼働で三つののフライパンを使い、ホイル焼き十人前が完成する。
一度プライパンを氷魔術で冷ました後、小麦粉を塗したムニエルも十人分焼いていく。
大きな身だった為皮は無いが、両面焼きあげ、寝かせる時間を時間経過魔術で短縮して、バターを入れて、溶けたバターを身に掛けつつ、二分程焼き、裏返して、両面をしっかり焼き上げる。焼いた魚をキッチンペーパーの上で油をきりつつ、ソースを作る。
バターを溶かして泡立つほど火を通したら、ニンニク、レモン、トマト、ケイパー、パセリを加えて混ぜたら、ソースの出来上がり。
ムニエルに掛けて、ホイル焼きは別のお皿に。
「みんな、出来たよー」
―シルビア、ご飯できたから氷の上に上がっておいで。
―はい!わかりました!
シルビアの事も念話で呼び出し、海から上がってきた彼女にも魚料理を手渡した。
「そういえばシルビアは魚食べても問題ないの?」
地球では人魚は海の生き物と凄く仲が良かった。
こっちではどうか分からないけど。
とかいいつつ、一度鮭の切り身食べてたっけと思い返す。
「はい?何か問題があるのでしょうか」
きょとんとしているシルビアは、全く気にしていない様だ。
まぁ、食べるのに抵抗があるなら海の中で狩りなんてしてくれてないか。
「ううん。普通のマーメイドは魚食べるのかなってふと思っただけ」
「そうですねぇ。この世界のマーメイドは肉食ですよ。というか、人食いです。私は神獣なので人なんて食べませんけど」
…成程。
船を沈めて人間を食べるのが普通のマーメイドってことね。
魅了や誘惑特化のスキル持ちは伊達ではないか。
私がホイル焼きの包みを開いて中の魚を口に運んでいるのを見て、真似をするように魚の身を箸で解し、口に運ぶ神獣達。
「!」
「これは…コクがあって柔らかい。魚もこんなに美味しくなるんですね」
「これは普通に美味しい」
みんな、箸使いもなかなか様になってきた。
ミズキは相変わらず食べ方が荒っぽいけれど。
あっという間に完食して、おかわりするミズキ、サクヤ、エルノア。
私ももう慣れたもので、おかわりの分は既に作っておいてある。
お皿にお代わりをいれてやり、私も久々に食べる新鮮な魚に舌鼓を打つ。
アフロディーテだった頃は、結構いろんな料理を作った。
料理知識なら、地球人にも負けないだろう。
創造魔術で新鮮な魚を調達して、お刺身も食べたし、こういうホイル焼きも作って居た。
神界ではお腹が減らなかったから、好奇心を満たすために少しの量しか作ってなかったけど、誰かと食事をすることがこんなに楽しいものだったとは。
食後にまた飲み物を取り出すと、神獣達は嬉しそうに顔を緩めた。
シルビアだけはまだ好きな味が分からないので、少しずつ味見させて好みを探る。
「わぁ…これ、美味しいです!凄く好みです」
シルビアが選んだのは果汁100%オレンジジュースだった。




