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シルビアの暴走

一時間ほど待って、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。

周囲に人影はない。

ダンジョンでは中で混み合わないように、五分間隔で門番が冒険者を中に誘導する。

つまり、五分は後続の冒険者がやってこないということ。


「さて、行きますか」


サクヤがひょいと私を抱え上げ、それを見たミズキ、エルノア、シルビアが走り出す。

先頭を走るミズキが階層探知魔術を掛け、モンスターは蹴り飛ばしながら速度を落とさず駆け抜ける。

体感時速約60キロ。

先行冒険者を追い越すときにだけ、時速30キロ前後に走る速度を調整して、どんどん下へと降りていく。

普通の冒険者は地図などをたよりに低層を進むが、階層探知魔術が使えるうちの神獣達はそんなものは買っていない。

入り組んだ迷路を最短ルートで駆け抜け、ドロップ品すら拾わずに、走り抜ける。

下に行くにつれてどんどん階層は広くなるが、神獣達が少し速度を上げれば、時速80キロすら突破する。

私をお姫様抱っこで抱えた状態でだ。

私もレベルが上がり、防御力が上がったお蔭で、前回みたく壊れ物みたいに扱う必要はなくなった。

当然のことながら、ボス部屋は順番待ちの列がある。

ダンジョンのボス部屋は基本1パーティずつしか入れない。

が、踏破目的の神獣達が大人しく順番待ちなどするわけがない。

サクヤが物腰柔らかに、ドロップ品はすべて譲るので一緒に入らせて貰えませんか?と交渉すると、大体迷った後に頷く冒険者達。

戦闘せずに金目の物が手に入る魅力に、抗える冒険者は少ない。

たまにプライドの高い冒険者が居たとしても、ミズキかエルノアが、殺気(小)で黙らせる。

この(小)が結構肝心だ。(中)だと怯えて交渉にならないし、全力では失神してしまう。

Sランク冒険者パーティ、獄炎蝶の名は冒険者なら誰でも知っているらしく、多少の無理は通るのだ。

そうして駆け降り続けて約半日。

シルビアは少し息切れしていたが、真なる神獣にランクアップしたサクヤ、ミズキ、エルノアは汗一つ掻かずに、涼しい顔をしている。

ボス部屋も瞬殺して素通りし、20階のセーフルームに辿り着くと、漸くサクヤが私を地面に降ろしてくれた。


「はぁ…はぁ…なんで皆汗一つ掻いてないんですか?私がおかしいんですか?」


膝に手を突いて突かれた様子を見せるシルビア。

そういえば彼女は、エルノア、サクヤ、ミズキが真なる神獣にランクアップしたことを知らない。

というか、神獣が疲れを見せるほどの速度だったんだなと改めて実感する。


「さぁ。運動不足なんじゃない?」


しれっとエルノアが言い放つ。


「そういえばさっきギルドでランクアップしたとかなんとか言ってませんでした?なんで貴方達だけランクアップしてるんですか?」


「そりゃ、レイと身体重ねりゃ何かしら起きるだろ」


ぼそっとミズキが呟いたのを聞いて、シルビアが目を見開く。


「レイ様と身体を、重ねれば…?ずるいです!私も混ざりたかったです!除け者なんて酷いです!」


ぎゃあぎゃあと駄々を捏ね始めるシルビア。

けれど、いくら女同士で肌を重ねても多分男性神獣達と同じ現象は起きないだろう。


まぁ、取り敢えずご飯を作ろう。

この辺りなら、冒険者も少ないし、例のマジックコンロを使っても問題ないだろう。


「私が女だからですか?!女だから悪いんですか?!性変換の魔術とか、ないんですか~?!」


今にも泣きだしそうなシルビアを、サクヤが溜息を吐きながら宥めている。

爆弾発言をしたミズキ本人とエルノアはガン無視だ。

扱いが雑い。

簡単に牛丼でも作ろうと、買い付けたブラックホーンブルの肉を薄切りにし、タマネギを刻んで、水の代わりに聖水を入れ、醤油、味醂、砂糖で味付けする。


「はっ!無いなら作ればいいのでは?!私ちょっと買いたい物が出来ました!いったん地上に戻ります!」


そんな不穏な言葉を残して、シルビアが転移魔術で消えていった。

大丈夫だろうか、あの子。

シルビアは私の唯一の癒しだから出来ればそのままで居てほしいのだけれど。


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