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冒険者ランク決定試験

「レイ、俺が先に行くね」


「うん。分かった」


私は戦闘が見える観客席に移動した。

サクヤとミズキ、シルビアが既に座って待っていたので、空いているミズキの隣に腰を下ろす。


「では始めます。まずはFランクの魔獣から」


審査を担当する冒険者らしき人が、指示を出して、魔獣を檻から解き放つ。

檻から出てエルノアに向かって駆け出そうとしたホーンラビットは、一瞬で心臓を貫かれて息絶えた。


「次」


「次はEランクの魔獣です」


檻から出てきたのはゴブリンだった。

駆けだそうとした瞬間に心臓を射抜かれ、息絶える。


「次」


「次はDランクの魔獣です」


続いて運ばれてくる檻と、回収される魔獣の死体。

その緩慢な作業にエルノアが早くも暇を持て余し始める。

漸く開いた檻から出ることさえできずに絶命させられるビッグボア。


「次」


「次はCランクの魔獣です」


ふわぁっと欠伸をしながら、檻の中で死んだビッグボアが回収され、次の檻が運び出されるのを暇そうに眺めている。


檻の入り口が開かれ、檻から出ようとしたブルーウルフも、一歩すら踏み出せず絶命する。


「次」


「次はBランクの魔獣です!」


多分何が起きているのか、私達にしか見えていないだろう。

エルノアは出てくる魔獣の急所、心臓を、神針の針一本で潰して行っているのだ。

針を投げる手のふりさえ、常人では目に負えないスピードで。

死体には針が残っているはずなので、何故死んでいるのかぐらいは想像が付くだろう。


―エルノア、せめて腕を振る速度ぐらい落とした方が良いわよ。冒険者達の目にはあなたの針を投げる腕の残像さえ見えてないから。


―そんなにレベル低いわけ?


―攻撃力を取り敢えずぐらいに8000制限したら?


―ん、了解


次の檻が運ばれてきて、Bランクのジャイアントディア―が檻から出て走り出す。

今度は檻から魔獣が出るまで待って、攻撃力を聖獣だった頃ぐらいまで抑えて、針を打ち出す。


「次」


今の動きなら、Aランク冒険者になら残像ぐらいは見えただろう。

多分。


「次はAランクの魔獣です!」


はんば自棄になったのか、戦々恐々と叫ぶ審判の冒険者。

彼も何が起こっているのか分かっていないのだろう。


今までよりも一際大きな檻が運ばれてきて、入り口が解放される。

飛び出してきたのは、マダーグリーズリー。

大熊の魔獣だ。

四足歩行で突進する狂暴な熊がたの魔獣が、エルノアが腕を振るった瞬間、息絶えた。


「はぁ…次」


「…終わりです」


「はぁ?Sランクは?」


「普通の人間に、Sランクの魔獣の捕縛などできません!Aランクが最高ランクです!」


さも当たり前のことのようにエルノアを非難する審判役の冒険者。

まぁ、もしSランクが居ても一撃だけどね。

なんて、思っていても言ってはいけない。

聖獣ですらSSランク。

神獣は一体現れただけで災害級。

その上に位置する真なる神獣など、この世界の誰であっても敵う筈のない神と同等の力なのだ。

実際、下級神なら、エルノアだけで瞬殺できるだろう。

舐めてはいけない。攻撃力30000越えのステータスを。

その筋力から生み出される俊敏性を。

今のエルノアがちょっと本気で投げれば、それがただの石ころだろうと、魔獣の心臓を貫いて殺すだろう。

どんなランクの魔獣だって同じだ。

エルノアの前に立ちはだかる資格さえ持ち合わせていない。


「じゃ、Aランクってことでいい?Sランクに上げるには何をすればいいわけ?」


「Aランク冒険者として活動していれば、そのうちSランクへの昇格依頼が行くと思います…」


「あっそ」


しれっとSランクへの昇格条件まで聞き出したエルノアが、演習場から姿を消す。

次の瞬間には、私の隣に現れて、あーあ、つまらなさそうに呟いた。


「じゃあ行ってくるね」


「うん、行ってらっしゃい」


私は観客席から降り、演習場へと足を踏み入れた。

ロッドは目立ちすぎるため収納してある。

あれを使うと、一階梯魔術も十階梯の威力になってしまう。

まぁ、装備無しの一階梯魔術縛りでも、Aランクまでの魔獣など、簡単だ。


引き続き審判を務めるこの冒険者はBランクぐらいだろうか。


「ではまずFランクの魔獣から」


少し高い位置から、自分は安全を確保して、戦闘状況を分析する役割なのだろう。

檻の扉が開いて、エルノアの時と同じくホーンラビットが駆け出した。

高速詠唱で一階梯氷魔術を放つと、氷の氷柱が大きすぎて後ろにあった檻ごと破壊し、さらに壁にそのまま激突して大穴を開けた。

まずいな。

魔力量は一階梯の氷魔術を使うのと変わらない程度まで絞っている。

詠唱破棄で更に威力を下げてこの巨大氷。

どうしようもない。

まぁ、多少目立っても、いいか。


「次どうぞ」


「ひぃっ次はEランクの魔獣です!」


檻から出てきた瞬間、極大の氷の氷柱ですり潰されるゴブリン。

後ろの檻まで破壊して、どのまま壁にぶつかり、強化魔術が掛けられているはずの壁にひびが入る。

やっぱり威力がおかしい様な…。

まぁ、いいか。


「次どうぞ」


「は、はひっつ、次はDランクの魔獣です!」


審判にビビられてしまった。

次に連れてこられたビッグボアも高速詠唱した無詠唱魔術で消し飛び、檻を破壊し、壁にまで激突して、壁が崩れ落ちた。

あれぇ…。知力って一時的に下げる方法あったっけ。

魔術威力に知識チートの知力が乗るから、これ以上威力下げられない。


「次どうぞ」


「次はCランクの魔獣です…」


がたがた震えながら、審判冒険者が口にする。

直撃を受けたビッグボアは、氷が刺さっているというより、敷つぶされたみたいにぐちゃぐちゃになっている。

これでは解体も出来ないし、檻の再利用も出来ないだろう。

壁に至っては修繕費が経費から引かれることだろう。

ごめん、ギルド職員さん。

これ以上の加減は出来ないんです。

今精一杯加減しているんです。

と心の中で謝っておいた。

ランクアップを申請する冒険者見習いが、硬化魔術が施されている壁まで破壊するなんて、誰も想像できなかったに違いない。

私に請求書が回ってこないことを祈る。

よくもまぁ、ダンジョン内であれだけ魔術使っておいて、味方に死人が出なかったものだ。

いや、そうか。凍らせるだけなら範囲指定も出来る。

一階梯のアイスショットよりマシな手加減が出来るかもしれない。

次の檻がやってきた。

次はCランクはブルーウルフだ。

檻が開いた地点から、私の立っている場所までだけ範囲指定して凍らせる。

一瞬で彫像になったブルーウルフは、私が指を鳴らすと氷の破片となって砕け散った。


「次どうぞ」


「つ、次はBランクの魔獣ですっ(誰か変わってくれー!)」


引き攣った顔を隠そうともせずに、審判が告げる。

うーん…残骸すら残らないのもちょっとまずいのかもしれない。

魔獣の肉は食用になるんだし。

今回は檻は守られたけど、肉は欠片も残らなかったもんね。

氷と、風にしたんだっけ。

次は風魔術使ってみよう。


檻が運ばれてきて、エルノアの時と同じくジャイアントディア―が立派な角を盾に私に向かって走り出す。

一階梯風魔術のウインドカッターを高速詠唱で放つ。

通常、ウインドカッターは風の刃が一つ飛んでいく魔術だ。

だが、私のウインドカッターは何故か刃が複数枚。しかも回転していた。

意識したわけではない。

完全に無意識だ。

六枚の回転風刃に粉々に切り飛ばされたジャイアントディア―は、血と肉の山と化した。

あれ片付けるの大変じゃないか?

いっその事凍らせて氷の破片にした方が良いのでは。


「あ、片付けますね」


五階梯氷魔術、氷刻(アイシクル)で凍らせて、肉の破片を砕いた。


「次どうぞ」


「次はAランクの魔獣です…」


もう涙を流しながら、項垂れる審査係の冒険者は、哀れとしか言いようがなかった。

マダーグリズリーが入った檻が運ばれてくる。

風魔術だとグロイ事になることは分かった。

風刃が一枚なら、スパンと首を跳ねるだけで、肉も残ると思ったのに大きな誤算だ。

もうなんでもいいか。

凍らせて砕いて終わらせよう。

檻と壁だけでも無事な方がましでしょ。


そう開き直り、マダーグリズリーが出てきた瞬間足元から氷結させて砕く。


「はい、終わりですか?」


「はい。お疲れ様でございました…」


ぺこりと審判の冒険者が頭を下げる。

その腰の深さから、余程恐怖を覚えたのだなと感じ取れた。

真なる神獣のエルノアよりも、魔術チートの私の方が怖かったらしい。

まぁエルノアは一定して針一本で仕留めていたし、何しているか分からない強者より、目に見えて異常と分かる強者の方が怖いのは理解できる。


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