色欲魔神(アスモデウス)の呪い
29階層の部屋に入った瞬間、ぞっと背筋が凍った。
反射的に神獣達も守れるように神結界を展開し、様子をうかがう。
部屋には、魔神王の妖気が満ちていた。
魔神王。
神に匹敵する力を持ち、七つの大罪を司る大悪魔。
今の私が、魔神王に打ち勝つ術はないと言っていいだろう。
危機察知能力を持っているエルノアや、サクヤすら気付いた様子はない。
本体は居ない。
けれど、危険なものが潜んでいると私の直感が告げている。
「皆、気を付けて。何か潜んでる」
敵を刺激しないよう、努めて冷静に声を放つ。
私の額に冷や汗が伝っていることに気付いたエルノアが、側に来ようと足を踏み出した瞬間。
パリン!
神結界が破られ、常時展開している多重結界すら打ち破って、気味の悪い触手が私の体を拘束した。
「っー!」
咄嗟に炎魔術で焼き払おうとするが、三十階梯程度の魔術では燃えることさえなく。
多重詠唱を発動しようとした私の体を触手が持ち上げ、口の中に触手の侵入を許してしまう。
口の中に甘い液体が大量に注がれて、吐き出す間もなく呑み込まされる。
その瞬間身体が燃えるように熱くなった。
「レイ!」
「レイ様!」
ミズキが腕力に任せて触手を引きちぎり、私の体を引き寄せる。
サクヤが魔剣で触手を切り払い、触手の拘束を断ち切った。
まだ襲い掛かってくるかと、戦闘態勢を維持するサクヤ達を他所に、目的は達したとばかりに地面に消えてゆく触手の群れ。
―ふはははははは!良い様だな、アフロディーテの転生体よ。
貴様に刻み込んだ淫紋は週に一度発情し、百回絶頂するか、十回精子を体に受け入れねば解けることはない。
なぁに、耐えられるとも。元神であったお前なら。
だが、性欲に溺れ、肉欲に支配された瞬間、貴様の神格は消え失せる。
精々、耐えて見せるがいい。
はははははははははははははは!
残されたのは、私に刻まれた色欲魔神の呪い、淫紋。
「はぁ…っく…」
汗が滴り落ちる。
身体が疼いて、苦しい。
身体に刻まれた淫紋を、神眼で鑑定してみたが、色欲魔神のいう通り、百回絶頂するか、十回精子を体に受けるかしなければ一時解呪すらままならない様だ。
完全に解呪するには、色欲魔神を倒さなければならない。
今の力では、魔神は倒せない。
それこそ、私が完全に神格を取り戻し、神獣達が究極神獣にまでランクアップでもしない限り不可能だ。
荒く息を吐く私を、神獣達が心配そうに見ている。
取り敢えず、ここがダンジョンの最下層であることは間違いない。
一応踏破したことになるのだろう。
ボスはあの触手の群れだったということになるのだろうか。
色欲魔神本体は居なかったし、多分違う場所に封印されているのだろう。
深く息を吐いて、サクヤに宝箱を回収させる。
最下層なのだから、何もないことはないだろう。
「レイ様、回収終わりました」
何があったとまでは口にしない。
私の状態が不味いことぐらい誰の目に見ても明らかだ。
一旦屋敷に帰って、この体のことはそれから考えよう。
転移魔術を発動しようとするが、体に電流が流れる様な、微弱な快楽が邪魔をして発動できない。
「レイ様。屋敷へお戻りに?」
サクヤの問いに返事をするのも苦しくて、こくりと頷く。
歩くこともままならなかったため、ミズキに抱えあげられて、サクヤが展開した空間移動魔術で屋敷の自室に戻った。
ミズキにベッドに降ろしてもらって、暫く発情状態と戦ってみたけれど、時間が経てば経つほど症状は悪化した。
触れられても居ないのにびくびくと体が震え、理性など紙屑当然に吹っ飛んでしまう。
そんな私の姿を見て、顔を真っ赤に染めながら、襲い掛かるのを必死に我慢している様子の彼らを見て、抵抗は無意味と悟った。
「っーエルノア、サクヤ、ミズキ。は…手伝ってっ…」
何をとは言わない。
彼らだって分かっている。
シルビアは残りたいと駄々を捏ねたが、エルノアに強制的に転移させられて退出した。




