創造魔術の前に常識は無い
ダンジョン探索七日目。
広大な草原にぽつんとベッドだけが異物のように置かれている。
そのベッドから起き上がった私は、服を着替えて、朝食を作ろうと空間ボックスを開く。
朝だから、軽めに…でも栄養価も必要だし…。
うーん…。
暫く悩んで、和食にすることにした。
ご飯を炊いて、サケのような魚の干物を焼いて、みそ汁も簡単に作って、朝の定番和食が出来上がった。
うーん完全に私の趣味の領域に入りつつある。
神獣達の反応が心配だが、まぁ仕方ない。
反応は思ったより悪くなかった。
みそ汁も、味噌がないこの世界では食べられない汁物だし、魚は一応臭み抜きはしておいたので、抵抗なく食べられるようだった。
漸く白米がある生活に慣れつつある神獣達は、ご飯を口に運び、魚に齧りつき、みそ汁を啜る。
「…レイのそれ、便利そう。魚の身、解すのフォークじゃ出来ないし」
エルノアがぽつりと箸を見て言った。
確かにそうだ。
和食はお箸文化の根付いた日本だから通用するのであって、海外では通用しない。
私は日本食が一番好きだったから、箸使いも覚えたけど、神獣達からすれば、食べ辛い事この上ない選択だったかもしれない。
「エルノア、お箸使ってみる?」
「うん」
頷いたエルノアにお箸を一膳創り出し、持たせてみる。
「指はこうで、ここでこうして挟むの」
手に箸を持たせてやり、使い方を指導する。
最初は難しかったのか顔を顰めていたエルノアは、すぐにコツを掴んだのか、箸で食事が出来るようになった。
「レイ様、私も教えてもらえませんか?」
「あ、私も!」
サクヤとシルビアも興味を持ち、箸の使い方を勉強する。
ミズキは、その様子をじっと眺めていたが、箸を渡してやると、見よう見まねで使えるようになった。
流石神獣。
物覚えが半端ない。
教えて、すぐに持てるようになるとは、思ってもみなかった。
今までスプーンですくって食べていた白米を、箸で食べるようになった神獣達を見て、ちょっと感動する。
お箸が持てるなら、ラーメンとかうどんとかもいけるかな。
創作意欲が湧いてくる。
パスタマシーンはうどんもラーメンも作れるし、今度作ろう。
そう心に決めて、和食を完食する。
ミズキ、エルノア、サクヤは当然のようにおかわりして、食事を終えた。
シルビアが食器を洗ってくれて、出発の準備は整った。
今日はミズキが擬人化を解くようだ。
闇竜王に進化したミズキも亜音速で飛べるようになっていた。
昼食の時間まで休まず飛んで、地上に降り立つ。
五、六時間ぶっ通しで飛ぶぐらい、神獣にはわけのないことのようだ。
私が食事を必要としなければ、一日中でも飛んでいられるだろう。
今日の昼食は、朝思いついたうどんだ。
神獣達は野菜よりも肉の方がなんとなく好きそうだから、すき焼き風うどんを作ろう。
小麦粉に食塩水を少しずつ加えながら手を円運動させ、少しずつ生地を作っていく。
全体的にそぼろ状になったら、粘土をこねるように団子のような状態に近づけ、袋に入れて足で踏み、丸めて捏ねる作業を3、4回繰り返す。
神獣達は食べ物を足蹴にする調理法を、困惑した様子で眺めていた。
寝かす時間は時間加速魔術ですっ飛ばし、パスタマシーンで平べったく伸ばし、うどんの形に変えていく。
麺が作られていく間に、お鍋に牛肉と玉ねぎ、白ネギにシイタケを入れて炒め、水、酒、醤油、砂糖で味を整える。
出来上がったうどんをお湯で湯がいて、水を切り、すき焼き風たれを掛けて、最後に新鮮さが重要な卵を創造魔術で創りだして割入れたら、出来上がり。
「はい、どうぞ」
どんぶりに入ったうどんを見て、神獣達が困惑顔でこちらを見る。
「せっかくお箸が使えるようになったんだから、他の麺類も食べてみたくない?」
「あ、お箸で食べるんですね」
シルビアが納得したように箸を持ち、うどんを摘まみ上げる。
「卵は混ぜちゃっていいからね」
「生の卵を食べるのですか?」
サクヤが、どことなく忌避感があるようで、箸を持ちながらうどんを眺めている。
「大丈夫。新鮮な卵は生で食べても美味しいから。時間が経ってたら駄目だけど、これはお腹壊したりしないよ」
状態異常耐性持ちなのに、何が怖いのか。
以前に生で卵を食べたことでもあるのだろうか。
いや、まさかね。
多分この世界の常識なのだろう。
創造魔術の前には常識なんて覆ってしまうものなのだ。
シルビアは素直に卵をかき混ぜて、うどんを啜る。
ミズキは気にしていないのか警戒もせずに口にしている。
エルノアは私を疑う気はさらさらない。
「ふわぁ~美味しいです!」
幸せそうに食べるシルビアを見て、サクヤも漸く決心したのか、卵を混ぜてうどんを食べる。
「!」
びっくりしたように目を見開いたサクヤは、もくもくとうどんを食べ始めた。
この調子なら卵かけご飯も食べるかもしれないな、なんて考えつつ、私もすき焼き風うどんを口に運ぶ。
ミズキが最初におかわりして、エルノアも2杯目に箸を付ける。
サクヤも結局美味しさに負けておかわりした。
2杯目を食べるサクヤの表情からは、卵への忌避感は消えていた。
後片付けを済ませた後、ミズキが擬人化を解いて空を駆け、2時間程飛んで、漸く目的地にたどり着いた。
降下していくミズキの視線の先には、Sランクモンスター、ミルメコレオがこちらを警戒して唸り声をあげている。
ミルメコレオは、前半身がライオン、後半身がアリのモンスター。
ダンジョンに居るのは結構珍しいタイプのモンスターだ。
ライオンの爪と牙を持ち、斬撃を殆ど通さず、魔術耐性も高い。
が、今はミズキがドラゴンモード。
闇竜王が吐き出す強酸は、溶かせぬものなど存在しない。
ごおっとブレス一発であっという間に溶けて消えてしまったミルメコレオに、来世がありますようにと、手を合わせる。
ドロップしたのは、巨大なライオンの牙と、鬣を残した毛皮。
ライオン型の魔獣は結構レアなので、高く売れそうだ。
ドロップ品を空間ボックスに収納し、転移魔方陣を探す。
祭壇のような石造りのそれはすぐに見つかった。
全員効果範囲内に入って、29階層へと向かう。
次はどんな地形が待っているのだろうかと心を躍らせながら。




