人族なのでお腹が空きます
暫く列に並んでいると、漸く順番が回ってきた。
ミズキが最初にダンジョンに足を踏み入れる。
それと同時に階層探知魔術を掛けたのだろう。
迷う素振りもなくすいすい先へと進んでゆく。
ダンジョンの一階に出現するモンスターなど、ドラゴンの身体能力をその身に宿したミズキの敵ではない。
彼が出てきたモンスターを足蹴にすれば、一瞬で魔石とドロップアイテムに変換される。
探知魔術、気配察知で出てくるモンスターがどんなものか、何処から出てくるかまでお見通しなのだから、奇襲を受けるはずもなく。
気付けば簡単に五階層まで潜っていた。
此処までモンスターと応戦したのはミズキ一人だけだ。
しかし、一階層を迷いなく突破しても、一時間程度の時間は掛かる。
移動速度の遅い私を引き連れているから尚更だ。
ダンジョンに入って約五時間。
歩いているだけとはいえ少々お腹が空いてきた。
「そろそろ食事にしましょうか」
私がそう言葉を掛けると、聖獣のミズキとサクヤ、シルビアは、きょとんと眼を瞬かせた。
長年私に仕えてくれていたエルノアだけは、周囲に結界魔術を張り、安全地帯を作ってくれる。
他の三人の表情からは、もうお腹が空いたのか?みたいな動揺が伺える。
「…人間は一日三食は食事するものよ。魔術で誤魔化すこともできるけど、そうしていると体力が落ちるわ」
「…申し訳ありません。配慮が足りませんでした」
頭を下げるサクヤを見て、ミズキが周囲に防御結界を張り、その場に座り込む。
シルビアは何かしなければいけないと強迫観念に駆られているのか、食材を取り出して、包丁を手に持つ。
まさか料理が出来るのかと期待してみたが、そんなわけがなかった。
自分の指さえ落とさんばかりの野菜の持ち方、そして叩き切らんばかりに振り上げられた包丁。
思わず彼女に時間停止魔術を掛けたほどだった。
「シルビア。私がやるから、全部こっちに渡しなさい」
叱られた子犬のように萎れたシルビアは、指示通り、私に場所を明け渡す。
女神だった頃、地球という星の食に対する執念を見て、感銘を受け、自分で作って居た頃の記憶が役に立った。
ニンジン、タマネギ、キノコと、ホーンラビットの肉を一口大に切って、水と共に鍋の中へ。
味付けは今まで食べてきた料理の味を数値化して、調整する。
塩と胡椒とホーンラビットの肉の旨味に香草を少々加えただけで、なかなか美味しいスープが出来た。
―スキル、調理初級を獲得しました。
転生後では初めての料理だったからか、スキルを得たらしい。
「はい、どうぞ」
四人にもスープをよそって手渡すと、きょとんとした顔でこちらを見る。
エルノアまで、何故私まで?と言いたげな顔でこっちを見ていた。
「一人で食べるのも味気ないし、空腹にならなくても、貴方達食事は出来るでしょう?」
言いながら、自分の分のスープをよそって、スプーンで口に運ぶ。
うん、なかなか美味しい。
それはまぁ、数々の贅沢調味料が使われた貴族の食事とは比べ物にならないけれど、味を数値化して整えただけあって、そこらの食堂よりは美味しいのではないかと思う。
ホーンラビットの肉だって、魔獣の肉だから今まで食べたことがなかったけれど、普通に鶏肉よりジュージーで歯ごたえがある。
私が一人匙を進めていると、漸く立ち直ったミズキがスープを一口飲んで、目を見開いた。
サクヤもシルビアも一口食べて、驚愕の表情を見せている。
「ある…レイ、サマ。どこで料理なんざ習ったんだ?」
「嫌ならサマなんて付けなくてもいいわ。料理は前世でたまに作ってたの」
「前世、ですか?」
ミズキもサクヤも驚いている。
まぁ、それが普通の反応だろう。
アフロディーテだった頃は、神界でお腹が空かないとはいえ、料理をたしなむ程度にはしていた。
一度見たものなら創造魔術で作り出せるため、調味料にも困ったことはなかった。




