聖獣の美貌は霊格保護される
とある冒険者パーティがサクヤとミズキに目を止めた。
「お、おおお?獄炎蝶のサクヤとミズキ、それにシルビアじゃないか?」
ん?獄炎蝶?
何のことだろう。
サクヤに視線を送ると、明らかに動揺を取り繕ってで隠していた。
「ミズキ、獄炎蝶って?」
「…っち…俺らのパーティ名だよ」
成程。ってことは、竜人の国でも知り合いの冒険者がいて想定外の事態って感じか。
噂が広がる前にサクヤが声を上げた男の肩に腕を乗せ、なにやらこそこそやっている。
仕舞いには金貨を握らせ、その冒険者達を追い払った。
「…認識阻害魔術掛けたら?」
「…いえ、全員がその魔術を掛けると、流石に不自然に映ります。ダンジョンを転々とする冒険者なんてAランク以上のそこそこ腕の立つ者ばかりですし、そう何組もこの地まで足を運んでいるとは思えません」
「そう?でも貴方達随分有名なのね」
そう疑問に思ったことを呟くと、サクヤがため息を吐きながら自分の顔を指さした。
そこには聖獣の名に相応しい見目麗しい顔立ちが。
そういえばとミズキを見遣る。
肌は褐色だが、険のある顔つきだということを除けば、かなり容姿は整っている。
シルビアはセイレーンの聖獣。歌で男の心を掌握し、妖艶な見た目で死に追いやる…顔が綺麗なのは当たり前だ。
成程。
顔が目立ちすぎる上に実力まで持ってるから目立つのか。
「成程。そこまで考えが及ばなかった私のミスね」
「いえ、ご主人は何も悪くありません。ですが、見た目を偽ろうとすると、ステータス画面が警告画面に切り替わるのです。恐らく、格を下げないための処置なのでしょうが…」
霊格の保護。
つまり根本的な部分で聖獣は美しくなければいけないという世界からの警告。
こればかりは私にもどうしようもない。
神からの警告ならば同等の神力で打ち消せるが、世界がそれを認めないとなると、神の私でもどうしようもない。
聖獣って世界が保護しようとするほどの存在なんだと改めて実感する。
「まぁ、仕方ないんじゃないかしら」
「ええ、どうしようもありません。それにもう慣れましたから。今はご主人がいらっしゃるので、事を荒立てたくないだけですし」
やれやれと息を吐きながら髪をかき上げるサクヤは確かに美男子だ。
男にしては長い赤い髪も、金色の瞳も、憂いを帯びた表情をするだけで一枚の絵になるほど綺麗だった。
「そう、ごめんね?」
「いえ、とんでもない。今までずっと、ご主人が必要としてくださるときに備えて準備していたのですから。幸福を覚えこそすれ、迷惑だなどと」
にっこりと笑みを浮かべるサクヤは周囲の、主に女性からの視線など慣れたものなのだろう。
その美貌に女を獲られた男共の殺気と怒気が混ざっているが、自分より格下の男の殺気など、視線を送る価値すらないに違いない。
それでも、こちらの会話に聞き耳を立てていた一部の女性冒険者が、サクヤがご主人と呼ぶ私に針のような視線を送ってくる。
どうせ認識阻害で顔を見られることはないが、ご主人様呼びは訂正しておいた方が良いだろう。
―サクヤ、ミズキ、エルノア、シルビア。今から私のことはレイと呼びなさい。ご主人様呼びは目立ちすぎるわ。
―分かりました。レイ様。
―様もいらないわ。
―ですが…貴方は私たちの想像主、神に等しい存在です。呼び捨てなど恐れ多くて出来ません。
サクヤの抗議に、エルノアは沈黙を貫き、シルビアは頷いている。ミズキだけは、元々恐れ敬うなんて感情は持ってないのか、傍観に徹していた。
―分かったわ。好きに呼びなさい。
召喚獣達の忠誠度は中々のものだ。
忠誠度イコール好感度ではない事が唯一の救いか。
私が元女神アフロディーテだったことを彼らは知らない。
別にばれても構わないし、エルノアは私に前世の記憶があることぐらいは分かっているだろう。
なんたって三歳の時から私に付いているんだし。
正直、元神でなければこんな低コストで幻獣をポンポン創り出したり出来ないだろう。




