転生先は魔族でした
女神であった前世をそのまま引き継いだ私は、今レイチェル・フォン・ミドラーと呼ばれている。
魔族に転生したのも恐らく輪廻転生にまで女神たちが関与して、最も神力を得ることが難しい種族を選んだのだろう。
嫉妬によって堕ちるところまで堕ちた女神達に殺されたわけだが、魔族として生を受けた私は特になんとも思っていなかった。
前世から引き継いだ美しすぎる容姿も、どちらかと言えば疎ましく思っている。
どうせなら普通の魔族と同じレベルの顔立ちにまで落としてほしかったものだが、恐らく元女神の呪いなのだろう。
容姿だけで男を落として何になるというのか。
恋愛と言うのは駆け引きが面白いはずなのにと、そんな風に思ってしまう。
転生した私に身についたスキルは神魔召喚術。
しかも縛りなし。
魔力が続く限り、無限に自分の召喚獣を召喚し続けられるチートスキル。
三歳になる今日までで、ある程度能力の検証は終えていた。
まず初めに最初から神獣レベルの召喚獣を召喚するには魔力は兎も角神力が足りないということ。
残留思念のごとき僅かな神力では、聖獣を一体召喚するのが関の山だった。
とはいえ、地上界に当たるこの場所で、聖獣が弱いかと言われればそんなことはない。
広域探査魔術でこの地上界の魔力を持つ生物を計測したところ、聖獣一匹でこの世界の冒険者SSランク相当。
つまり、勇者しかなれないとされているSSSランクの人間さえ避ければ、他の人族に後れを取ることはない。
それが神獣へとランクアップすれば、一体で一国を亡ぼせる力となる。
今は魔力が殆どで神力など殆ど残されていないが、代わりに膨大な魔力がある。
魔力は神聖力と結びつけることで神力になりうる為、先ずは神聖力を身に着けることが重要だ。
取り敢えず魔族の国の王都、ペンテシレアを取り込むことを目標に、限界ギリギリまで魔力を使って幻獣を数十匹森へと放つ。
そこらの魔獣よりは幻獣の方が強い。
敵のランクによっては苦戦することもあるかもしれないが、集団で狩りをする分には十分すぎる力を持つ。
そもそも召喚と言うスキル自体、無から有を生み出す人間には過ぎた力。
魂すら形作り、やがては自我が芽生え、通常の人族と何ら変わりない姿へと成長する。
まぁ、元から聖獣として生まれれば、当然自我は召喚直後に芽生える。
だから一体しか作り出せない聖獣は、混乱、魅了、記憶操作などの能力が突出して高い九尾の妖狐を呼び出した。
名前はエルノア。せっかくの聖獣なのだからと名前は付けた。
他の幻獣たちに名前はまだない。
召喚獣は生まれながらに主人に隷属的なのが当たり前だ。
自身の命の創造主なのだから、事実神に等しい。
召喚獣は決して主には逆らえない。
もし自我が芽生えてそれが背信的な物であったとしても。
エルノアはそんな心配はなかったらしく、屋敷の使用人、私の父に当たる公爵や母の記憶をまとめて改ざんし、自身が私のすぐそばで仕えられるように仕向けた。
レイチェル・フォン・ミドラーと言う、公爵令嬢の専属執事として、まだ弱い私を守る為、常に後ろに控える地位を手に入れたのだ。
聖獣ともなれば当然人化などお手の物。
九尾だった痕跡は全て消し、人間と変わりない姿で側にいる。
魔族と言っても、魔力が人間よりも高く、各種族の特徴が少し現れるぐらいで、外見は殆ど人間と変わりない。
故に、簡単に聖獣の護衛はそばに置けた。
後は森に放った召喚獣達が自然に聖獣にランクアップするのを待つ間、魔術をある程度体に馴染ませておかねばならない。