魔王は気付いていた
そして翌日。
父が魔王に対して抗議の文書を送った。
昨夜の、ファルムス第一王子が私に魅了と誘惑の魔術を掛けた容疑についてだ。
ファルムスに対しては、昨日エルノアが手を打ってくれているが、精神系魔術の貴族に対しての使用は犯罪行為であることは明らかだった。
翌日には私と父は王城に呼ばれ、ファルムス第一王子は、私たちの目の前で処分を下された。
王位継承権剥奪と、一週間の謹慎。
もしも彼が王族でなく貴族だったなら、牢獄行きだっただろう。
しかし、王位継承権剥奪は、王族としての後ろ盾が無くなったことを意味する。
この先どうやって生きていくかは、彼自身が決めることだ。
「レイチェル公爵令嬢。息子の不始末をお詫びする」
魔王が直々に頭を下げたことには驚いた。
彼はもしかして私が神の生まれ変わりだということに薄々気付いているのではなかろうか。
なんて思ってしまうほどに。
「いえ、幸い何事もありませんでしたので、大丈夫です。陛下が頭を下げるなど、あってはなりません」
そう言って微笑むと、魔王はどことなく安堵したように私を見た。
「ところで、レイチェルよ。近年魔族領に現れた幻獣は召喚獣だと思うか?」
突然の質問に、心の中に動揺が走った。
何故そんなことを魔王が聞くのだろうと、首を傾げる。
「幻獣は神の使いだと聞いています」
一般的な…しかし曖昧な答えを返す。
しかし、魔王は目を閉じて頷いた。
「そうだな。今はまだそれでいいのかもしれない」
曖昧に言葉を選んだ魔王は、私に向かって微笑んだ。
「もし神が降臨なさったのなら、そして、魔獣から我らを守る使いを出してくださったのなら、私たちはその神に敬意を表し、人々のグスタファへの信仰を、神に捧げるべく動こうと思うよ」
「…そうですか。わかりました」
その時、私はレイチェルとしてではなく、アフロディーテとして言葉を紡いだ。
―その時は、我がアフロディーテの名のもとに魔王陛下に神の啓示が下されるでしょう。
念話で言葉を送った私は、目を見開く魔王に一礼して謁見の間を出た。
他人と脳内を繋ぐ念話魔術は割と難しい部類に入る。
少なくとも念魔術系統で二十階梯に到達していないと、他人の頭に言葉を流すことは出来ない。
父は何が何だか分からないようだったが、それでいい。
魔王は何かしらの情報から、私が神だと断定して先ほどの言葉を並べたのだろう。
神聖力か、神力を感知する目でもあるのだろうか。
まぁ、考えても仕方がない。
自分がアフロディーテだと名乗ったようなものだけれど、魔王にしか聞こえていないし、問題はないだろう。
信仰の変革、
どう考えても簡単に収集できるとは思えない。
当面は様子見で良いだろう。




