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虚偽の断罪

「死ぬのは勝手ですが、私は記憶読解魔術ぐらいは嗜みがあります。証拠隠滅は不可能ですよ」


私が冷たく耳元で囁けば、がたがたと震えながら、女はある貴族の名を口にした。


「レイヒム伯爵のご指示で、この場で、アディス侯爵の長男、アルベルト様を毒殺せよと…」


ざわり、会場が大きく騒ぎ出した。

当のレイヒム伯爵は真っ青な顔で否定している。


「私はそんな指示はしていない!何かの間違いだ!」


必死に言葉を並び立てる伯爵に、侍女に交じっていたエルノアが密かに幻魔術、虚偽の断罪を発動させる。

虚偽の断罪とは、嘘を吐いた瞬間、命を刈り取る誓約魔術。

掛けられたものは自分の話す言葉に命が掛かっていると自覚し、嘘が吐けなくなる。

数ある幻魔術の中でも、数少ない、魔術に掛かったことを本人に悟らせる魔術なのだ。

だが、虚偽の断罪は精神系魔術であるが、己に偽りがないことを証明する潔白の証にもなりえる魔術。

故に、教団のトップなどに使える者は多く、悪人を断罪する際に使用される。


「っ――」


死を間直に感じた伯爵が唇を噛んで言葉を押し込める。

嘘を吐けば死ぬ。

だが、本当のことを話しても断罪される。

黙るしかない。


「言いたいことがあるのなら話してください。私の従者が貴方に虚偽の断罪を掛けました。嘘を仰るとあなたは死にます。正直にお話しください」


私が伯爵を煽ると、額に青筋を浮かべたレイヒム伯爵は、どうやら生きることを選択したらしい。

吐き捨てるように暴言の数々を並べ立て始めた。


「そうだ!私が指示した!前々から目障りだったのだ!我が息子よりも優秀で国で優れた容姿を持つアディス家の息子がな!だが計画が狂った!よりにもよってアルゼイン家の息子が毒を食らうとは!」


潜り込ませた従者は自白魔術を使われたとたん、自死を選んだ。

私が居なければ、伯爵の企ては明るみには出なかっただろう。

狙われていたアディス侯爵家の長男、アルベルトは、茫然と伯爵の自白を聞いていた。

レイヒム伯爵が兵士に捕まり、連行されるまで彼を見送り心配そうなアディス家当主に保護された。


「ミドラー公爵様。アルゼイン伯爵のご令息はご無事ですか?」


アディス侯爵の今にもローゼンに会わせて欲しいと言わんばかりの勢いに、父は私をちらりと見た。

私は父に耳打ちする。


「今は客室で休んでいるはずです。解毒したとはいえ、すぐに動くのは危険でしょう。今日の所は、ゆっくりしていてください」


その言葉に、アディス侯爵はぐっと言葉を飲み込んだ。

今回のことで、レイヒム伯爵は貴族暗殺未遂の罪で極刑となるだろう。

証人は幾らでもいる上に、現行犯逮捕だ。

情状酌量の余地はない。

アディス家は敵対していたレイヒム伯爵が消えることで、勢力を増すだろう。

レイヒム伯爵が管理していた領地がそのままアディス侯爵のものになってもおかしくはない。

ローゼンに対する侯爵の感謝は、言葉で表しても足りないだろう。

こんな騒ぎが起きたのだ。

一度家に帰った方が良いと判断したアディス侯爵達は、パーティ会場から出ていった。


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