聖獣に毒は効きません
その後は、とりとめもない社交辞令と挨拶回りが続いた。
その中に、アルベルト伯爵の長男としてローゼンも混ざっていた。
有力な貴族がぜひ我が息子と婚約を、などと見雌麗しい令息を何人も連れてきたが、私の眼に止まるような魔族はおらず、全て断った。
ローゼンと視線があった時、念話が聞こえた。
―ご主人様。どうやら子悪党が混ざっているようです。炙り出しましょうか。
―子悪党ね…。狙いは誰か分かる?
―はい、ある令息に、毒を盛る算段のようです。私が代わりに飲みましょうか。
―そうね。一応産んでもらった家だもの、権威ぐらいは守らないと。
―畏まりました。
ダンスを踊る時間になると、何人もの令息が私をダンス相手にと誘われたが、冷えた視線を向けるだけで精神脆弱な貴族坊ちゃま達は退散していった。
実際、自分よりはるかに強大な魔力を持った相手に睨まれれば、余程撃たれ強くない限り、心は恐怖に支配される。
その相手が圧倒的に自信に勝る、美貌の持ち主ならば殊更に。
これで私の噂の類は当然悪辣なものが多くなるだろう。
まぁ、それも計算の内だ。
今は悪役を演じた方が、圧倒的に有利。
心の冷めた令嬢になど、婚約の申し込みはこないだろう。
これで父の仕事が少しは楽になると思えば、世間の悪評などどうでもよかった。
そうこうしているうちに、ローゼンが毒を飲んで倒れた。
「大丈夫?!」
一応初対面の設定なので、名前は呼べない。
慌てて與羽に駆け寄って、解読魔術を施す。
が、流石聖獣。
吐血はしているものの、解読処理は既に済んでいたようで、私の腕に抱きとめられた彼はふっと笑った。
一瞬だったので、毒を食らって笑っている顔はたぶん誰も見ていないだろう。
「…ヒネラリアの毒ですね。解毒は済みました。彼を客室で休ませてあげてください」
慌てて駆け寄ってきた衛兵にローゼンを引き渡すと、会場全体に読心魔術を展開し、犯人を洗い出す。
我が屋敷で働く侍女の顔と名前ぐらいは頭に入っているが、今はパーティ。
臨時で人を雇っているかもしれない。
普通なら膨大な情報量に頭が付いていかないだろうが、あいにく元女神。脳処理にキャパシティは制限がない。
犯人を特定してすぐ、側にいた父に小声で事情を伝える。
父はすぐさま動き、犯人を捕らえて、公の場で処理した。
騒然とする会場で自白魔術を使った。
侍女になりすました女は自死を選ぼうとしたが、彼女が自分の首目掛けて突き立てるはずのナイフは結界魔術により阻まれる。




