料理1.解雇された派遣先は
注意・超次元の料理は出て来ません!
王都バルトランテスに構える老舗レストラン【スターライト】にて仕込みが終わり数十名の従業員が帰宅しているところ店長の【ロウデ・スターライト】に呼び出され面に向かって話される。
「ディノ・サンフレア、悪いが明日から来なくて良いぞ。」
「え、何で!?」
「言い難いのだが、お前は他の従業員と違って家の店の“味付け”を変えているだろ?」
「それは、そうした方が美味しくなると思って。」
「確かに客は美味いと言っていたが、使った材料費や金額も変わってくるんだ。 良かれと思ってやったのかもしれんがやるなら、お前自身の店を構えてやってくれ。」
「すみません……」
「まあ私も鬼では無い、町外れに構える店が在るのは知ってるか?」
「町外れって、あのボロボロの?」
「そうだ、昔は商売繁盛していたが正面に高級レストラン【リッチ・The・ブルジョワ】が出来てから客足が遠のいたそうだ。」
「リッチ・The・ブルジョワって確か嫌味ったらしい店長が一度此処に来てた!?」
「ああ、私も料理人の端くれだ。 “安いから不味い高いから美味い”などとほざく奴の鼻っ柱を圧し折ってやりたいと思ってな、丁度良い機会だディノこの店で働いてやってくれないか?」
店長から写真と紹介状を渡され、餞別として幾らか金貨の入った袋を受け取った。
次の日、雲一つ無い青空の下地図を見ながらボロボロのレストランを探していると客寄せをしている男が高らかに店の前で叫んでいた、
「は〜い、寄ってらっしゃい! お金さえあれば美味しい物、たっくさん食べられるよ〜! 高いよ高いよ〜と、そこのお兄さん寄ってかな〜い? 高くて美味くて安心よ〜!」
「いや、俺向こう側に用があるから。」
「そう、それは残念ね〜悪い事は言わないから止めた方が良いよ〜。 だってそこの店“残飯”しか売ってないからね〜! ナハハハハ!!」
「余計なお世話だ!」
(なんだこいつ! 店長だけじゃなく従業員まで感じ悪いな!! ロウデ店長とは大違いだ!!)
リッチ・The・ブルジョワの正反対にある建物は所々ボロボロで外壁に穴が空いており、看板には喫茶店【ヤスラギ】と書かれていた。
「すみませーん、誰か居ますか?」
店のレジへと視線を向けるとつまらなそうに金髪ポニーテールで青い瞳の少女が立っているのを確認し目と目が合った瞬間、中から飛び出し目を輝かせながら注文を聴いて来る。
「お客様!? ご注文はなんでしょう! 野菜?魚?それともオ・ニ・ク?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
「さ、こっちこっち! たっくさんサービスするから遠慮なく座って座って!!」
「いや、俺客じゃ……」
「皆ー、お客様が来たわよ!」
「え、マジ!?」
「三ヶ月ぶりのお客様なの!!」
店の奥からは赤髪のボサボサした寝起きの様な青い瞳をした高身長の女性と小柄で人懐っこそうな水色の髪が腰までかかる少女が出て来て取り囲まれる。
「こちらがメニューになるの!」
「さ、好きな物を頼んでくれ!」
「アタシ的には、フルコース頼んでくれると嬉しいな〜♡」
(こりゃ話し聴く雰囲気じゃないな、さっきから後ろの人胸押し付けてくるし。)
「じゃあフルコースで」
「毎度あり〜♪」
厨房からジュージューと料理をする音が聴こえてる間、残った二人に話しをふる。
「さっき三ヶ月ぶりの客って言っていたが誰も来ないのか?」
「そうだね、あの店が建ってから客足が少なくなった。」
「でもね、それでも来てくれるお客様は多かったの。」
「なんか妙だな。」
「妙?」
「あの店、高級食材しか取り扱わないと聴いてるし毎日行くような店でも無い……それに何でこの店内装は良いのに外観は荒れ果ててるんだ?」
そう聴くと二人はキョトンとした表情を見せる。
「いや、外観だよ外観! なんか壁に穴が空いてるし建物もボロボロだし!」
「えー!? 毎日外も掃除してるよ!!」
「そんなにボロボロな訳無いじゃないか!?」
外観の事を話すと会話が通じていないと判断し一度二人と共に店の外に出て建物を見ると変わらずボロボロのままだが二人の反応は違っていた。
「何時も通りだね。」
「埃一つ立たないくらい綺麗にしてるの。」
「てことはまさか!!」
俺は建物の穴へと手を入れようとすると見えない壁に阻まれ、なぞるとヒビ一つ感じさせないくらいツルツルだった。
「やっぱそうか。」
「何か分かったのかい?」
「ああ、あの店のきな臭さがな。」
「それで、店はどう見えてるの?」
「おそらくだが、客足が少ないのは店の外観だな。 しかもご丁寧に君達には普通に見えてることから気付けない様に細工までしてある。」
「なっ!?」
「そんな!?」
「やったのは、あの店だろうが証拠が無い以上今は何も出来ないな。 そろそろ料理も出来上がる頃だろうし戻るかな。」
店へと戻り席に着くと沢山の料理が並んでおり見た目も鮮やかで中々楽しめる様になっていた。
「さあ、お召し上がりください♪」
「いただきます。」
机にはマリネやムニエル、牛肉のバターソテーやシーザーサラダ、デザートにはプリン・ア・ラ・モードなどが並んでいた。
まずマリネを口にすると野菜はシャキシャキと新鮮な物を使っているのがわかる。
次にムニエル、味付けは良いが独特の臭みまでは消せてはおらず少々知識不足を感じた。
牛肉のバターソテーに至っては肉質は少し硬く、もう少し手間を加えれば柔らかくなるのが分かる。
最後のプリン・ア・ラ・モードは、お菓子作りは得意なのか甘すぎず丁度良いバランスとなっていた。
(なに? なんか凄く緊張する!)
「ご馳走さまでした。」
「どう、ですか?」
「結論から言えば“発展途上”ってところだな。」
「発展途上……」
「やっぱ家でも高い食材扱わないと駄目か〜。」
「でもそんなお金無いの。」
「そんな事する必要は無いぞ。」
「「「え?」」」
俺は金貨の入った袋を料理を出した少女へと渡す。
「どんなに安い食材でも高級な食材に負けない料理を俺が作ってやるよ! だから此処で働かせてくれないか?」
「「「え、ええええ!?」」」
こうして俺は三人の少女の構える喫茶店【ヤスラギ】にて働くこととなった。
楽しんでいただけると幸いです。