1.氷の王太子
慣れない部分もあって,誤字脱字も多いかもしれませんが暖かく見守って下さると嬉しいです。
最初の3話は2日に1回,それ以降は1週間に1回投稿する予定ですので,のんびり投稿になりますが最後までお付き合い頂けると幸いです。
「とても素敵なお庭ですわね」
私は出されてお茶を少し飲んだ後,意を決して……は少し言い過ぎかもしれないけど,それくらいの気持ちを込めて目の前の婚約者へと声をかける。
私の向かいに座って優雅にコーヒーを口にする彼は,誰もが認める美貌とその類い稀ない頭脳で,国中の女性の心を射止めてきたと言われる程、凄い人で,飲み物を飲む姿さえも絵になっている。
「……ありがとう,庭師に伝えておく。」
そして,私の言葉に必要最低限の言葉だけ返すと,再び黙り込んでしまった。
この沈黙が,毎回私の胃を痛くさせてるんだけどなぁ。
そんなことは露知らないであろう目の前の婚約者様は,私から視線を逸らし,庭の花の方に目を向けている。
……はぁ。
私は彼に気付かれないよう,こっそりとため息を付き、目の前の彼を改めて見つめる。
顔は,本当にタイプなんだけどなぁ。
……なんて思いながら。
私と彼が婚約している理由なんて、ただ一つ。
彼に釣り合う身分の女性が,この国に私しかないかったからだ。
彼は王太子,私は公爵令嬢。
私以上に身分の高い女性は,彼の生みの母である王妃様を除いたら私だけ。
だから,王太子が生まれて,私が生まれるとすぐに婚約が決まってしまった……というわけ。
別に仲が悪いわけではない。
月に一度,こうしてお茶会……もとい親睦会が開かれるけど,彼が参加しなかった日なんてなければ,『氷の王太子』という二つ名を持つ彼にしては,会話を返してくれるのだから。
……かと言って,私が特別だとは一ミリも思っていない。
彼だって,私が公爵令嬢でさえなければ婚約者同士になることなんて無かったはずだし,最低限の礼儀として会ってくれているだけだと思うから。
……自分で言ってて悲しくなるけど。
これが現実なのだから,受け止めるしかない。
……はぁ。
私はまた心の中でため息をつく。
本当,顔は物凄くタイプなんだけどなぁ。
……実は,これが私が彼と婚約破棄をしたいと言い出さない一番の理由でもあったりする。
まあ,政治とかの関係もあるのだけれど。
……エドワード・ヴィ・ロバーツ王太子。
婚約者の名前を心の中で呟いてみたものの,ある事実に気がついて,落胆してしまう。
私って,未だに殿下って呼んでるな。
エドワード様とか、愛称でエドでもなく……『殿下』。
それが何を意味するのかは,言われなくてもわかっていた。
距離,遠いな。
普通だったら,婚約者同士で愛称呼びなんてもうとっくにしててもおかしくないのに……。
幾ら彼の方が身分が高くて,氷のように冷たく冷徹であったとしても,婚約者にちょっとくらい配慮して欲しい。
……そんなことを思うのは,私の我儘なのかな?
長年婚約をしているのに愛称呼びじゃないせいで,舞踏会では遠回しに嫌味を言われる……なんてことも少なくない。
なんて言ったって、王太子妃という座を手に入れたい令嬢や娘を王妃にしたい貴族はとても多いのだ。
殿下の言動一つ一つが私にも影響してるの、解ってるのかな?
……聡明な殿下のことだから,知らないなんてことは無いんだけろうけど。
えっ,じゃあわざと見て見ぬ振りしてるとか?
……そっちの方が納得できるんですけど。
めんどくさかったとか?
……それなら話は変わってくる。
……私,この人と結婚して幸せになれるのかな?
こんな生活続いてたら,逃げ出したくなりそう……。
うわぁ、嫌なことに気づいてしまった。
うーん,元々相性が合ってたわけでもないし,もうこっちから婚約破棄切り出した方がいいのかな?
政治が関係してるから,めんどくさいんだけどな。
次の婚約者のせいで勢力が偏らないようにしないといけないし,何より……
私の次の結婚は絶望的になるんだよね。
だって,彼とは子供の時から婚約してる。
そのせいで,歳の近い男性なんかはほとんど婚約している人が多いし……。
私は結婚なんかしなくても平気なんだけど,両親に迷惑なんてかけたくは無いし。
どうしたら穏便に婚約破棄できるのかな?
そもそも,婚約破棄自体が穏便にできるものでは無いけどね。
「……では,時間になったのでこの辺で失礼しますね。」
思考が行き詰まって,ふと時計を見てみるとお茶会の終了時刻になっていた。
これ幸いと,私はさっさとお別れの挨拶を述べて,門で待っているだろう馬車へと向かう。
私の言葉に「……あぁ。」とだけ答えた婚約者を後にして。
*
「どうでしたか?今日のお茶会は。」
家に着いて,着飾っていたドレスも脱いでラフな格好になった後。
私の髪をとかしながら,待女のエマが私に問いかけてきた。
「……いつも通りよ。」
私は憂鬱になりながら答えると,今日何度目かのため息をついた。
「……そうですか。やはり,進展はなかったんですね。」
私の反応にこれ以上突っ込んではダメだと思ったのだろう,エマはそうとだけ言って,後は下町で有名なスイーツの話に話題を移した。
……別に,気を使わなくても良いのに。
お茶会で殿下と何も無いことなんて,いつものこと。
エマが気にする必要なんて,無いんだけどな。
「でもね,やっぱり殿下……かっこよかった。それとね,ちょっとだけお話もできたんだ。」
一通り話に終止符が打たれた後,私は小さな声でそんなことを口にする。
エマに心配かけるわけにもいかないしね。
私は殿下のことちゃんと好きだよーってアピールしとかなきゃ。
「そうでしたか!良かったですね。」
やっぱり心配をかけていたのだろう,少し声のトーンが上がったエマが笑顔で喜んでくれる。
本当にちょっとだけだけどね,なんて笑いながら答えた後,髪が仕上がったらしく,エマはそそくさと部屋から退出する。
「……私,殿下のこと好きなのかな?」
一人になったことで気が緩んだのか,そんな言葉が口からポロッと落ちてしまう。
正直に言おう。
ルックスに関しては,物凄く好みだ。
好みどストライク!
なんだけど……
「それ以外は,あんまりなんだよなぁ。」
そう,そこが問題。
私はどちらかと言えば,クールな人よりもグイグイ来てくれる人の方が好きなんだよね。
そんなこと求めてたら婚約なんてできないって言われるかもしれないけど,クールじゃなければ,本当になんでも良いのだ。
喋ってもらなえないと,私だって辛いし……。
何が悲しくて,私が一方的に話題を振らないといけないお茶会に行かないといけないの?
「……声も好きなんだけどなぁ。」
だから……というわけでは無いが,もっと喋って欲しい。
まあ難しいだろうなぁ。
……もしこれくらい我慢しろと言われるくらいなら,私は婚約なんてしなくていいかも。
そう思えてしまうほど,月一のお茶会は私にとっては苦痛なものになってしまった。
本当は,仲だって深めたいんだけどな。
そうじゃなければ,参加なんてしないし。
適当な理由付けて断るもん。
それができないのは……多少なりとも,私が殿下のことを好きだからなのかもしれない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次回は新しいキャラが出てきます!