婚約破棄されたツンツン増し増し令嬢が、デレを取り戻すまで。
「別れてほしいんだ」
彼の言葉を聞いて、彼女の疑いは確信に変わった。
「あの子ね」
「本当にごめん。君のことは嫌いじゃないんだ。でも」
「あの子以上には愛してない。10年婚約者だった相手に向けるには、凶器並みの言葉ね」
彼女は席を立った。
「許してくれ! すまない、チェツィ!」
「チェツィーリアよ。許すも許さないも、私の勝手。どんな決断をしようが、あなたの勝手であなたの責任。私がどうこう言って制御するものじゃないの。さよなら」
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「それで別れたの? もっと罵ってやればよかったのに」
チェツィーリアの話を聞き終わった友人のイリヤの顔は、軽蔑と怒りで歪んでいた。
「人の気持ちなんて、どうもしようがないわ。仮に捻じ曲げられたとしても、それは別の綻びを生んでしまうだけよ」
「だけど………、10年も婚約してたのよ? 本当に良かったの?」
親友の言葉に、チェツィーリアは笑みを浮かべただけだった。
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「ねぇ、聞いた? ロドニー様とシンディ様が付き合いだしたって」
「地味だったシンディ様が、学園祭で大変身!」
「チェツィーリア様も美人だけど、着飾ったシンディ様が隣に立つと霞んだもんな」
イリヤは耳に入ってきた言葉に足を止めた。
「しっつれいなこと言わないでくれない? あなたの好みでチェツィーリアを評価するなんて、何様なの?」
昼休み。学園の廊下は、噂で普段以上にざわついていた。
「イリヤ。早く行きましょう」
「だって」
「お昼よ。お腹すいたわ」
足を止めたイリヤに、チェツィーリアは移動するよう促した。イリヤは渋々と言った様子で、その場を離れる。
「チェツィー、言われっぱなしよ」
イリヤが不満げな声を漏らす。
「噂はすぐ変わるものよ。それにさっきの相手の顔は把握してる。家の取引から外すわ。言葉も立場も弁えられない、軽率な人間はいらないから」
それを聞いて、浮かない顔をしていたイリヤの顔が一変し、笑顔になった。
「あなたのそういう所、私大好き!」
「ありがとう」
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「やぁ、チェツィーリア。シンディーにロドニーを取られたんだって?」
授業が終わり、教室へ戻る途中。チェツィーリアの腕が不躾に掴まれた。
「これは、カンティア国、王太子殿下。お声がけいただき、光栄でございます」
自分の腕を摑んでいる相手を見とめ、チェツィーリアは怒りを抑えた。
「楽にしてくれ。今は君と同じ学園に通うただの留学生だ」
「勿体ないお言葉でございます。ですが、そういう訳にもいきませんので……」
「そうか。では行こうか」
王太子はさも当たり前かのように、チェツィーリアの手を引き歩き出した。有無を言わさぬその態度に、チェツィーリアは従うしか他なかった。
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「ここなら、気兼ねなく話せるだろう? 部屋にいるのは僕と従者。扉の前に近衛が2人。あと、見えない護衛が何人かいるだけだ。さっ、これでゆっくり話せるな!」
チェツィーリアが連れてこられたのは、太子に特別貸し与えられた学園の一室だった。
テーブルを挟み、2人は向かい合わせに座った。
「何を話せばよいのでしょう? 面白い話なぞ、私は疎いものですから」
「そんなことないだろ? 君は今、話題の渦中にいる。ロドニーにシンディ。2人について、どう思っているのか教えてくれ」
褐色の肌。濃い形の良い眉。砂漠のオアシスを思わせる青い瞳が、らんらんと輝き、チェツィーリアに注がれる。
「………お断りします」
さすがにチェツィーリア表情が、嫌悪へと変わった。
「なぜ? 教えてくれてもいいだろう?」
「楽しそうですね。ゴシップ好きとは知りませんでした」
「良いだろう? 退屈しのぎだ。憎いか? それとも、惨めか? ロドニーとは10年も婚約していたのだろう?」
「……そうだと言ったら、帰してくださいますか?」
「うーん、どうも君の本心が分からないな」
「本心は自分しか分かりません。
私が本当のことを言っても、太子が信じなければそれまで。ですからこんな会話、不毛です。帰らせていただきます」
チェツィーリアは気分を害したとばかりに席を立ち、部屋を出ることに成功した。
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「やぁ。チェツィーリア、話をしよう」
「それなら昨日しました」
昨日と同じ。チェツィーリアはまた、教室へ帰る途中の廊下で太子に捕まってしまった。
「いいや、まだだ。ところでここは目立つが、ここで会話を続けるか?」
「……移動します」
他の生徒から注目が集りつつあるのに気づき、今日もチェツィーリアは折れる羽目になった。
「そうこなくっちゃ」
嬉しそうな太子の声が、更にチェツィーリアの癇に障った。
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「悲しいです」
「ふむ」
「なんとも思ってません……。
さぁ、これで宜しいですか? 大使のご要望のセリフは申しましたよ」
「うーん。さっぱりだ」
以前と同じように、チェツィーリアと太子はソファーに座り、対面していた。
チェツィーリアが太子の部屋を訪れたのは、今日で数度目だ。
今日は太子がチェツィーリアの本心を当てる為、彼女にいくつかのセリフを言わせている所だった。
「帰りたいです」
「あ、分かった! それは本心だ!」
「そうです。では、これで失礼いたします」
「えー、まだ、良いだろう」
「明日もちゃんと参りますので」
「ちゃんと来てくれよ。じゃないと迎えに行く。……あ、それは嫌だって顔だ!」
「失礼いたします」
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「え?」
気が重いのに、慣れつつあったある日。
チェツィーリアは、いつものように太子の待つ部屋へ訪れた。
「やぁ、待ってたよ。チェツィーリア。さぁ、早くこっちに来て。今日はシンディとロドニーも呼んだんだ。みんなで話そうよ」
太子以外、みな顔が強張っていた。
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「ふーん、そっかそっか。じゃあ、ロドニーとチェツィーリアは小さい頃からの仲だったんだ。婚約は親が決めたの?」
「はい、太子」
ロドニーが答えた。
「ねぇ、シンディはいつからロドニーが好きだったの? 学園に入ってから? それともその前から?」
太子の遠慮ない質問が続いていた。
「それは………、チェツィーリア様を前にしてわざわざ」
シンディーが言葉を濁す。
「言えない? 気まずい? だけど君と恋をしたから、ロドニーはチェツィーリアと別れる決断をしたんだよね?
2人ともチェツィーリアに対して、後ろめたいと思ってるの?」
「それは……勿論。傷つける結果になったと思ってる」
チラリと、ロドニーがチェツィーリアを確認し答えた。
「ふーん。チェツィーリア、傷ついてる?」
「いいえ」
チェツィーリアは、腹の底で沸々しているものを抑え、冷静であろうとした。しかし
「……あぁ、その顔を見て分かった。嘘だ」
太子のその一言が、チェツィーリアの我慢の限界の引き金を引いた。
「そうですか。ではどうしてここまで、辱められなければいけないのかと、憤りを感じています。
私はここにいる誰とも関わりたくない。放って置いてください。これでもうお終いです。失礼致します」
チェツィーリアは、部屋を出た。
その後、チェツィーリアが太子の部屋を訪れることはなかった。
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ー数年後ー
「美しい。チェツィーリア殿は年々魅力を増すな」
「あぁ。だが求婚しても、のぞみは薄いぞ」
「他国の王族との見合い話すら、頷かないらしい」
「ロドニー殿も惜しいことをしたもんだ」
「チェツィーリア公爵令嬢は今じゃ、国1番の美貌に地位に名誉に財。みんな喉から手が出るほど欲している」
パーティーに訪れていたイリヤは、呆れた目で周りを見た。
「ほんと、噂なんてすぐに変わるわね」
「そうでしょ?」
飲み物を飲みながら、何でもないようにチェツィーリアは答えた。
「でもほんと噂どおり、日に日にあなたは綺麗になるわ」
イリヤが感嘆を漏らし、改めてチェツィーリアを見た。
真珠のような肌。艶めく藍色の髪。頭から爪先まで、至高以外の言葉が見つからないほどの造形美。
「あ、チェツィーリア公爵令嬢」
名前を呼ばれそちらを向けば、朗らかに微笑む2人がチェツィーリアの方へ寄った。
「ロドニー辺境伯令息、シンディ。第一子誕生おめでとう」
チェツィーリアは、形式的に祝福を述べた。
「ありがとう。ぜひ会いに来てくれよ。いつか君の子と婚約も、あるかもしれないしな」
子どもが生まれ、ロドニーは浮かれ、軽口を滑らした。
「厚かましいわよ。そこまで許してないわ」
ピシャリとチェツィーリアが窘めれば、シンディーが慌てた。
「も、申し訳ありません、チェツィーリア様」
「シンディ、謝らないで。ロドニー辺境伯令息、距離感を間違えないで」
「す、すまない」
学園を卒業して2年。挨拶を交わし、体面を保つくらいには、チェツィーリアにとってロドニーとシンディーは取るに足らない、過去のものになっていた。
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学園を卒業して2年。こちらの関係も出会った当初と比べると変化していた。
「太子。何度も言ってるけど、結婚はお断りよ」
チェツィーリアが笑顔で、太子の願いをはねのける。
「だが」
悲しげな太子の顔を見て、さらにチェツィーリアの笑みは深まった。
太子は卒業してからも、折を見て、チェツィーリアのもとを訪れていた。
チェツィーリアの自宅への訪問が多く、その際はチェツィーリアが直接対応していた。
「なかなか手に入らないものを欲しがる癖、やめた方がいいわ。あなたって手に入れたら飽きるのが早そう」
「そんなことない! 試してくれたっていい」
「あなたの為に、時間を無駄にしたくないの。それより西の国に私より綺麗で若くて、優しい子がいるんですって。気にならない?」
「ならない」
太子の返答に迷いはなく、早かった。
「会ってみてから、そのセリフを聞かせてくださらない?」
「それで、君の信用が得られるなら」
「5年もその子と過ごせば、きっとあなたはその子を好きになって、結婚したくなるはずよ」
「君はそうならなかった」
「えぇ、そうね。だから別の方を見つけた方が早いと思って、お勧めしてるの」
チェツィーリアは弾むような声色で言った。
別の子を探せと、想いを寄せる相手に言われた太子は、今日も大きな傷を負い、息絶え絶えだ。
「つれないな」
「もし出会いが違ってたら、釣れていたかもしれないわ」
「私は最初から君に夢中で、釣られっぱなしなのに」
それを聞いて出会いを鮮明に思い出したチェツィーリアは、顔を歪めた。
「デリカシーがない、好奇心の塊じゃありませんでした?」
「……何度も言う。あの時は、すまなかった。君が僕以外に振り回されるのが許せなくて、拗れたまま君を酷く傷つけてしまった。本当にすまない」
「ふふっ。結局学生時代は、あなたに一番振り回されることになったわね」
チェツィーリアが呆れた笑い声を零した。
地獄のような話し合いの後、太子は不遜な態度が嘘のように消え、なりふり構わず、チェツィーリアに謝罪と求愛と求婚を繰り返したのだ。
「それだけじゃ嫌だ。過去だけじゃ嫌なんだ。これから先も、その位置に僕はいたい。だから……」
「だから?」
「卒業後も周りを牽制して、君に告白してきた。……けどもう潮時だ。君だってもう、僕のことが嫌いじゃないんだろう?」
「まぁ、勘違いも甚だしいですこと」
チェツィーリアが鼻で笑った。しかし、太子のいつもと違う真剣な態度に、余裕は削れてきていた。
「君は出会った頃のように、僕を嫌ってはいない。軽口をたたけるこの関係が好きだ。だから、それが壊れるのを恐がっている」
「やめて。昔からそうやって」
『人の心にズカズカと入り込んで』と、チェツィーリアは最後まで言えなかった。
「やめないよ。もう時間がない。待てないんだ。だから君を無理やり奪う。恨んでいい。やっぱり僕は、君の心を占めれるなら手段を選べないんだ」
「アリュドン………」
「チェツィーリア公爵令嬢。カンティア国、次期国王として、あなたに結婚を」
20歳。アリュドンは次期国王として、日に日に結婚を急かされていた。覚悟を決めた太子はチェツィーリアに、正式に自身との婚約を命じた。
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「カンティア国の王太子殿下が、ついにチェツィーリア様を捕まえたらしい」
「捕まえたどころか、その地位をかさに、脅して王太子妃にしたとか」
「チェツィーリア様は、嫌々だったって話だ」
「泣く泣く嫁ぐことになるなんて」
「悲劇の花嫁じゃないか」
カンティア国へ向かう馬車の中の。噂はチェツィーリアと、アリュドンの耳へも入ってきていた。
「ですって。横暴太子」
「仕方ないね。これから君との仲を見せつけていくしかなさそうだ」
「見せつける仲がないから、無理ね」
「も~。またそんなつれないこと言って」
「ふふ」
アリュドンへのからかいが上手くいき、チェツィーリアが笑った。
「あぁ、でも君の笑顔がこんなに近くで見れるんだ。だからまぁ、いいか」
アリュドンの顔は疲れていたが、チェツィーリアを見つめる瞳は、とても幸せそうに綻んでいた。
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(アリュドン視点)
一目見た瞬間に、視線を奪われた。側近に彼女の名前を尋ね、紙で覚えた情報が記憶から引き出される。
チェツィーリア公爵令嬢。ロドニー辺境伯令息の婚約者。婚約して10年。
家柄のバランス、婚約の歴からみて、2人の結婚は揺るぎないものだった。
しかし、それは崩れた。
チェツィーリアにアプローチしても、問題はなくなった。
けれど、本来は望みのなかった恋。認めるわけにいかなかった気持ち。そのせいか、チェツィーリアが婚約破棄してからも、彼女に惹かれるのを無意識に回避していた。
その結果、チェツィーリアをとても傷つけた。
あの日一瞬。自分に対する憎しみや怒りで、チェツィーリアの心を占めれたことを喜んだ。
しかし、チェツィーリアの本心を無理やり引きずり出し、泣き出しそうな顔を見た時、望みはこれではなかったと気づいた。
恋も、関わり方も。間違えに気づくのが遅すぎて、本当に愚かだった。
次の日から、怒涛の謝罪と、求愛、求婚を繰り広げ、チェツィーリアを追いかけ回した。
チェツィーリアからは、徹底的にあしらわれた。
他国の王太子という身分がなければ、謝ることすら許されなかっただろう。
極めつけは、卒業式だ。
帰国のため、気軽にチェツィーリアに会えなくなる。少しでも長く側にいたくて、卒業パーティーでも彼女にまとわりついていた。
「まぁ。今日何回目かしら、太子にお会いするのは。もう御令嬢たちを巻くのはおやめになったら? 健気な乙女の気持ちを蔑ろにするなんて、紳士に反するわ」
「健気なのは僕の方だよ。明日から君と頻繁に会えなくなるから別れを惜しんでいるのに。君は寂しいと思ってくれないのかい? いっそ僕と自国に行かない?」
「太子ったら。私達3年間、毎日のように顔を合わせていたんですよ? もうじゅうぶん交流したじゃありませんか」
滅多に見ることができないチェツィーリアの良い笑顔は、清々すると書いてあった。
あの時は堪えた。
しかし時が経てば、チェツィーリアの心はあの頃から開かれつつあったのではないかと思う。
チェツィーリアは用心深く、警戒心が強い。
近寄らせない、近寄らない。
軽口を叩くのも、ツンとした顔以外を見せるのも限られた人間にだけ。
徐々に、徐々に。
年月を重ねるにつれ、彼女のテリトリーに入ることを許された気がした。
結局最後は強引に結婚してもらったが……。
チェツィーリアが本気で拒めば、それは叶ったはずだ。
彼女の為に動く人物は沢山いるのだから。
だからチェツィーリアなりに、僕の気持ちを受け止めてくれたと。願いを込めてそう思いたい。
おめでたすぎるだろうか……。
しかし、それでいい!
今本当に、おめでたい最中なのだから!
チェツィーリアと結婚して数ヶ月。
仕事が終わり寝室に行くと、チェツィーリアがベッドに座っていた。
「アリュドン。今日もお疲れ様でした」
「………。チェツィーこそ、お疲れ様」
「そうですね。だから」
「ん゛!!!」
「あら、すごい声」
「分かってるだろ!? チェツィーが僕たちの寝室で待ってくれてるだけで、僕は舞い上がる男なんだ!
なのに君は隣りに来て良いと言わんばかりに、ポンポンと叩く!!」
「これが隣りに来て座って以外の、なんの合図になるんです?」
「そう……そうなんだけどーー! 君に近づいて良いって許しが与えられるようになったんだと思うと、涙が」
「大げさですこと。隣に立つ許しなら、結婚を承諾した時からしてますのに。伝わってなかったのかしら」
「いや。伝わってる! じゅうぶん伝わってる!」
「必死ですわねぇ」
「僕はいつだって必死だよ………。結婚しても不安なんだ。僕らが不仲だと思っている奴は、まだ大勢いる。君は美しく、周りを惹き付けてやまないし」
「お褒めの言葉をどうも」
「それだけじゃない! 警戒心が溶けてきて、前より周りと打ち解けてきてる! だから余計不安なんだ。目が覚めてしまうんじゃないかって。僕より素敵な相手と」
「ストップ。
素直じゃない私がここまで来るのにどれだけかかったか、あなたが一番分かってるでしょう? 私がいくら拒絶しても、あなたは諦めなかった。だから私はあなたに奪われてあげたの」
「チェツィー………」
「あなたは自分の地位を振りかざして、私に結婚を迫るのを嫌がっていた。
けれど結局、自分をねじ曲げてまで私を欲した。
そうまでしたあなたなら、私を捨てることも、私を奪れることもしないし、させないでしょう?
あなたは最後まで自信を持って、強引に傲慢に、私のすべてを欲しがって、私を振り回せばいいのよ」
「欲しい………もっと、もっと欲しいけど………。本当にチェツィーから与えられると、全部嬉しくて。嬉しくて、苦しくなる」
「慣れるわ、きっと」
「そうかな………。でも慣れたくない僕もいるんだ。泣きたいくらい幸せな気持ちを、いつまでも感じていたい」
彼女の膝に縋り、肩を震わす僕の背中を、チェツィーは優しくて撫でてくれた。
❖❖❖❖❖
「そう思ってた時期もあるけど、君に膝枕してもらって、頭を撫でてもらう時間ほど幸せなことはないなー!!」
アリュドンとチェツィーリアが結婚してから、数年が経った。
「ふふ、本当に嬉しそうなお顔」
「そりゃ、そうだよ。こんなに近く、君のそばにいられる! 君の膝枕は僕だけの特権。ありがとうチェツィー。僕をこんな幸せにしてくれて」
「あなたが幸せなら、私も嬉しいわ」
「幸せだよ! なんだか、君と過ごす時間を重ねれば重ねるほど、君を一番愛してるのは僕だって自信が増してる気がするんだ」
「あなたの心配ごとが減って、何よりよ」
「チェツィーは? 僕と一緒にいて不安になることはない?」
アリュドンの質問に、チェツィーリアが柔らかく微笑む。
「私ね、年々アリュドンに愛されてるなって、感じることが増えてるの。だから心配はどんどん減ってるわ」
「僕は毎分毎秒、いつだってチェツィーを愛してるよ!」
「ほんと、お馬鹿なセリフね。でも、愛おしいと思っちゃうのだから、時間ってほんとすごい」
ツンツンだったチェツィーリアは、年々デレが少しずつ追加されるようになった。
さすがに、チェツィーリアがデレデレになることはなかったが、その分、アリュドンがデレデレだったので、不仲の噂に反して、バランスの良い夫婦になった。
いつしか噂は、婚約破棄されて傷ついたチェツィーリアの心を、アリュドンが溶かし、射止めたという美談に変わっていたのだから、やはり、噂はすぐ変わるものである。
ー完ー




