決闘
「よし。わかった。応じよう。お前たちは下がれ。」
ゾルダはそう言うと他の鬼たちを下がらせた。そして剣を上段に構えた。一方、勇者ノブヒコは剣を正眼に構えてすり足で間合いを詰める。両者の動きがやがて止まり、静寂が訪れた。だが次の瞬間、両者の剣が鋭い金属音を響かせてぶつかり、火花が散った。後は目にも止まらないほどに剣が交わされ、両者は隙なく激しく動き回った。傍目に見ていると互角というところか・・・。
他の鬼たちは固唾を飲んでその戦いを見ていたが、次第にエキサイトしてきて剣や金棒を叩いて声援を送っていた。それに力づけられたのか、ゾルダの動きはよくなり、ついには勇者ノブヒコの剣を跳ね飛ばした。その剣は飛んで行って離れた地面に突き刺さった。
「勝負あったな!」
ゾルダの言葉に勇者ノブヒコはその場に座り込んだ。煮るなり焼くなり好きにしろという意思表示だ。
「いい覚悟だ! 死んでいった仲間の恨みを晴らしてやる!」
ゾルダは剣を振り上げた。その時、俺は走って出て行った。まだ魔法の縄で縛られたままで。
「待て!」
「邪魔するのか! それなら貴様から斬ってやろうか!」
「そうしたいのならすきにしろ! だがお前が戦った相手の剣に邪気があったか? 心の濁りが感じられたか?」
俺はそう声を上げていた。それで奴を説得できると確信したわけではなかったが、こうでも言わないと勇者ノブヒコは殺されてしまう。果たしてどうか・・・と見ているとゾルダは剣の構えは緩んでいた。
「いや・・・それはなかった。」
「この男はいやしくも勇者だ。この世界のために戦っているのだ。そんな奴がそんなむごいことをすると思うか?」
俺は畳みかけた。ゾルダはじっと考え込んでいる。奴の心に迷いが出て来ているのは確かだ。
「それに集落の襲撃が人間の仕業でないとしたら、お前たちのしていることは復讐でもなんでもない。あの襲撃者と同じだ。あの悲惨な出来事をお前たちはしようとしているのか!」
その言葉にゾルダは剣を下した。俺はさらに言った。
「ここは一旦、引いてくれ。頼む。お前たちの集落を襲った者は必ず突き止める。」
「うむむむ・・・」
「どうだ?」
するとゾルダは俺に向かって剣を振り上げた。(斬られる!)と思ったがもう間に合わない。生身のままだから命はないだろう・・・。だが縛っていた縄のみが切られてパラリと落ちた。
「お前の勇気に免じて引いてやろう。だが完全に信じたわけではない。やはり人間の仕業とわかった時にはライムの町ごと壊滅させる。いいな!」
そう言ってゾルダは剣を収めた。そして仲間の鬼たちに合図を送ると近くにある彼らの小屋に引き上げて行った。
俺は座り込んでいる勇者ノブヒコに手を貸して立ち上がらせた。
「命拾いしたな。」
「ああ、すまなかった。おかげで助かった。」
「それは俺も同じだ。鬼族が俺たちを完全に信じたわけではないが・・・。」
俺たちはその場から立ち去った。
捕まった人たちを助けて、鬼たちのライムの町襲撃をやめさせたから万々歳であるはずだが、何か釈然としない。やはり鬼族の集落を襲撃した奴らを何とかしなければ鬼族にとっても俺たちにとってもわだかまりは解けない。




