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夜中

 やがて夜になった。俺は森の小屋に近づく足音を感じていた。改造された俺は常人の数百倍、感覚が敏感なのだ。それも必要のない情報は遮断できるようになっている。


「俺だ。」


 小屋の外から潜めた声が聞こえた。それは勇者ノブヒコだった。


「ソウタだ。ここに捕らえられた人たちがいる。」

「わかった。」


 扉のカギを壊す音が聞こえ、すぐに勇者ノブヒコが入ってきた。


「助けに来た。みんな、声を立てないように静かにしてくれ。」


 勇者ノブヒコは縛られている人の縄を切っていった。その人たちは声を上げないようにして喜んでいた。これで自由になれると・・・。俺はまだ嫌な予感がしていた。こんなに簡単に事が運ぶことに・・・。勇者ノブヒコが最後に俺のそばに来たので聞いてみた。


「見張りは?」

「いなかった。夜で寝ているんだろう。」


 俺はそんなことはないと思った。見張りがいないということは・・・。


「出て来い! ネズミが紛れ込むことはわかっていた!」


 外がかがり火でパッと明るくなった。外は鬼の集団で囲まれているのは気配でわかった。


「しまった! 罠か!」


 勇者ノブヒコは俺の縄を切ろうとしたが、俺の縄は魔法のそれだから簡単に切れないようだった。


「勇者ノブヒコ! とにかく逃げろ!」

「大丈夫だ。こんなこともあるかと思っていた。」


 すると外が騒がしくなった。辺りに雷が落ち、かがり火が倒れて消え、黒い獣が暴れまくっている。外の鬼たちは混乱に陥っているようだった。


「今よ!」


 アリシアが小屋の扉から顔を出した。逃げ出すにはいいタイミングだ。


「アリシアはここにいる人を助け出してくれ。俺は鬼を蹴散らせてくる! ソウタの縄は切れないからこのままアリシアと一緒に行ってくれ。」


 勇者ノブヒコが指示した。縄が切れないとラインマスクに変身できないから仕方がない。足手まといになるからこの場は勇者ノブヒコに任せねばならない。俺は逃げる人たちの最後尾についた。縛られたまま逃げるというのはヒーローとしてかっこいいものではないが・・・。


「落ち着け! 敵はたかが4人と1匹。惑わされるな!」


 ゾルダの声が響き渡った。それで鬼たちはやっと落ち着きを取り戻した。再びかがり火や松明の火をつけて辺りを照らした。そうなると逃げた俺とアリシア以外、その場にいるのは雷を落としている魔法使いと小屋の前にいる剣士、それにグレートウルフのような獣が1匹だけだ。


「やはり貴様たちか! ちょうどよい。飛んで火にいる夏の虫! ここで仲間の仇を取らせてもらう! 八つ裂きにしてくれるぞ!」


 鬼たちは剣や金棒を振りあげていた。勇者ノブヒコはミキに合図して雷撃を止めさせ、堂々と鬼たちに前に出た。


「俺たちはお前たちの集落を襲ったり、仲間を殺したことはない。神に誓ってもいい!」

「信じられるか! 人間の言うことなど!」

「では俺の剣に聞いてくれ! お前も剣を使うのだろう。それでわかるはずだ。」


 勇者ノブヒコはそう言った。後から知ったのだが鬼族の剣を使う者はサムライの心を持っているそうだ。一騎打ちを求められれば正々堂々とそれに応じるという・・・。



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