ゾルダ
しばらくして俺は意識を取り戻した。森の中の小屋にいるようだ。辺りには縛られた人たちもいた。鬼の姿はない。
(このまま抜け出すか。)
俺はあの魔法の縄で縛られているままだ。このままではどうにもできないが変身すれば・・・。だが縛られているため変身ポーズが取れない。それなら短縮バージョンで変身すればいいだろうと考えるが、この魔法の縄が力を吸収しているようでそれができない。切羽詰まった状況なのだ。
「ソウタ! 大丈夫か?」
そばにいたジロウが、俺が起きたのに気付いて声をかけてきた。
「大丈夫だ。あれからどうなったんだ?」
「俺たちはホバーバスから下ろされてここに連れてこられた。あの山道の近くだ。どうもここは奴らの隠れ家らしい。」
「何とか逃げられないか?」
「無理だ。外には鬼が見張っている。」
そう話しているといきなり小屋の扉が開いた。何事かと思っていたら、あのリーダーの赤鬼が入ってきた。
「ライムの町に勇者のパーティーを引き渡すようにと脅迫文を届けた。もし拒絶するなら、いや時間が過ぎるたびにお前たちを一人ずつ順に殺して送り返してやる。」
それを聞いて縛られている人たちは泣くような声を出した。
「それは何かの間違いだ。ライムの町にいる勇者のパーティーはそんなことはしない。お前たちは何なんだ!」
俺は赤鬼の顔を見て言った。
「ほう。またお前か。度胸だけは誉めてやろう。俺たちを見てもビビらないからな。俺たちは鬼族。俺は族長のゾルゲだ。」
「俺は・・・相川良だ!」
また悪い癖が出た。俺は「相川良」と名乗りたくて仕方がない。相手の反応がどうであろうと・・・。今度は嫌がられるのか、笑われるのか、それとも怒られるのか・・・。
「相川良か。うむ。いい名だ。名前に免じて教えてやろう。」
ゾルダの反応は意外だった。今回は誉められてしまった。「相川良」という名前がこの異世界でどう聞こえているのかは全く不明だ・・・いや、今はそんなことはどうでもいい。
ゾルダは話し出した。
「俺たちは山向こうの集落で暮らしていた。踏み入れる者もない森の奥で、何人も近づかないように常に辺りを警戒していた。その日、男たちの多くは狩りに出ており、その隙に集落が襲われたのだ。老人と女子供が主で不意の攻撃で対処できず、皆殺しにされ集落は焼き払われた。俺たちが帰った時には集落は灰になっており、もうその襲撃者の姿はなかった。だがただ一人、虫の息だが生きていた仲間がいた。そいつが言うことには・・・」
ゾルダは拳を握りしめた。
「剣を持った男、仮面をかぶった男、魔法使いの女、踊り子の衣装を着た女、鋭い牙を持った獣のパーティーが襲い掛かってきて皆を殺して村に火をつけた。剣を持つ男は勇者ノブヒコと言い、仮面の男はラインマスクだと名乗った。ラインマスクは残虐で多くの者たちを殺していった。女子供も見境なくと。それだけ言ってその仲間は死んだ。」
ゾルダはその光景を思い出しながらも涙をこらえていた。
「だから復讐に来た。そのパーティー、いやライムの町の人間どもを皆殺しにすると俺は誓いを立てた。」
ゾルダの話は痛ましかった。だがそれは俺たちの仕業ではない。俺は誤解を解きたかった。
「お前の仲間には気の毒だった。お前の気持ちはよくわかる。」
「貴様などの俺たちの気持ちがわかるか! ライムの町を廃墟にするまで俺の気持ちは収まらない!」
ゾルダは大声を上げた。しかしそれでも俺は言わねばならない。
「ゾルダ。聞いてくれ。人間がお前たちの集落を襲って何の得があるというんだ? それは何者かがお前たちに人間を攻撃させようと企んだのだ。」
「うるさい! 俺たちをだまそうとしてもそうはいかんぞ! 人間はすぐに噓をつく。人を欺く。俺たちにはわかっているんだ。」
それを聞いて俺は「違う!」とはっきり言えなかった。それを見てゾルダは馬鹿にしたような笑いをした。
「どうだ! 何も言えまい。」
「確かに人間は嘘をついたり、だましたりする。だがそんな奴だけじゃない。中には正直に生きている者もいるんだ。」
「信じられるか!」
ゾルダは吐き捨てるように言った。
「とにかくお前たちは人質だ。勇者のパーティーに逃げられないようにするためだ。それとも奴らもお前らを見捨てて逃げてしまうかもな。」
それだけ言ってゾルダは小屋から出て行った。鬼たちは以前から人間に不信の念を持っていたようだ。何があったのかは知らないが・・・。それが今回の襲撃を受けて復讐に燃えあがったというところだ。なんとかしなければ・・・捕まった人たちを助けるのはもちろんだが、この鬼たちの誤解を解かなければこの争いは永遠に続いてしまうだろう。




