鬼の群れ
ホバーバスの中はパニックになっていた。
「お、鬼だ! 鬼族だ!」
「きゃあ!」
「こ、殺される!」
叫び声が上がっていた。後から聞いた話では鬼族は山奥で集団で暮らしているらしい。彼らは独自の文化を持ち、狩猟をして生活しているようだ。その鬼一人一人が武芸に秀でた勇猛な戦士だという。滅多に人前に出てくることはなく、また人と交わろうとしない。だが彼らの領域を犯した者はすべて抹殺されるといううわさがある。
(いざとなればラインマスクに変身してみんなを助けるしかない。)
俺はそう思うものの、いきなり戦闘になるのは気が進まない。この道を進むだけで彼らの領域を犯してはいないし、彼らの怒りを買うとは考えられない。何かの誤解かもしれないとここは話し合いで・・・俺はそう思った。
ホバーバスの運転手はあまりのことに震えていて何もできないでいる。俺は彼のそばに行った。
「奴らの話を聞いてくる。ドアを開けてくれ。」
「い、いやだ・・・殺される。皆殺しにされる・・・」
「大丈夫だ。このままではどうにもならない。とにかく奴らの話を聞いてくる。俺なら大丈夫だ。」
そう言うと、やっと運転手はドアを開けてくれた。俺はそこから外に出た。そしてドアはすぐに閉められた。
俺は鬼族の集団の前に立った。
「俺たちに何か用か?」
できるだけ奴らになめられまいと腕組みをして大きな態度をとった。するとその集団からリーダーらしい鬼が出てきた。ひときわ大きい赤鬼だ。背中に大きな剣を背負っている。
「多くは言わぬ。全員、出て来い!」
その声は頭に響くような大声だった。俺はひるまずに言った。
「待て! 俺たちはリアナ村に行くだけだ。お前たちに害をなす者ではない。通してくれ。」
するとその赤鬼はさらに大きな声を出した。
「害をなさないだと! 笑わせるな! 貴様たちの仲間がやったことはわかっている!」
「何をしたというんだ?」
「我らの村を襲い、多くのものの命を奪った。勇者とかいう者たち男女4人組と1匹の猛獣が。」
それを聞いて嫌な予感がした。俺のパーティー「勇者とゆかいな仲間たち」の構成と似ている。勇者がいる別のパーティーがあるというのか・・・。
「勇者と言ったのか?」
「そうだ。一人は勇者ノブヒコだ。」
「奴はそんなことをするはずがない。」
「いや、奴らはそう名乗った。それに奴の仲間の一人は残虐だった。そいつは女子供まで容赦なく殺していった。ラインマスクとかいう。」
俺は驚いた。偽物が現れたのだ。俺たちが知らぬ間に悪事を働いていたとは・・・。こんなことをするのはジョーカーしかない。
「だからお前たちを人質に取ってライムの町に乗り込み、その4人組と猛獣をぶち殺す。」
「待て。待ってくれ! それは何かの間違いだ。そんなことをする連中じゃない。」
「これ以上の問答は無用だ。人間をホバーバスから引きずり降ろせ!」
赤鬼の命令に他の鬼どもがホバーバスに群がってきた。
「止めろ!」
俺は必死にやめさせようとしたが、生身の俺では歯が立たない。
(ここはラインマスクに変身して・・・)
いやそれはできない。ここでラインマスクに変身したら、奴らは憎悪の炎をたぎらせて襲い掛かってくるだろう。そこで奴らを撃退しても憎しみの炎が大きくなるだけだ。だがどうやって奴らを止めたらいいのか・・・。
そうしているうちにホバーバスのドアが壊された。鬼どもが乗り込み、乗っている人たちを引きずり降ろしていく。子供の泣き声と悲鳴が辺りに響き渡った。
「止めろ! この人たちに罪はない! みんなを放すんだ!」
俺は生身ながら必死にその赤鬼にしがみついた。
「うるさい奴め!」
赤鬼は俺を引き離し、懐から縄のようなものを取り出して投げた。それは俺の体に巻き付き、しばりつけられてしまった。それ自体が魔法の縄らしく力が抜けてくる。声を出す力も弱くなってきた。
「やめろ・・・や・め・・ろ・・・」
俺はその場に崩れるように倒れた。




