スランプ
レースのシーズンとなった。アキバレーシングの総力を挙げて勝利をもぎ取ろうと、おやっさんをはじめ皆が頑張っていた。だが俺は・・・先日のことをまだ引きずっていた。気が抜けているというか、やる気が全くわかなかった。大きな大会を前に、本番のコースでの練習に来たが全く振るわない。
「だめだ! タイムが上がらん! どうしちまったんだ! ソウタの奴は!」
ピットでおやっさんは帽子を取って頭をかきむしりながら、そうつぶやくのがよく聞こえる。だがわかっていても俺にはどうにもできない。
今日もアキバスペシャルで練習コースを走っていたら、後ろからくる一台の漆黒のマシーンにあっという間に抜かされた。すごいスピードだ。マシーンの性能からしてとても勝ち目がない。俺はそそくさとピットに戻った。おやっさんはやはり渋い顔をしていた。
そこにあの漆黒のマシーンが停まり、レーサーが降りてきた。その姿には見覚えがある。ヘルメットを外すとやはりあの男だった。
「シミズ・ゴウ!」
「ふふふ。ソウタ! 勝負に来た! 今度は負けないぜ!」
俺のレースのライバル(?)だ。前回のレースではジョーカーのせいで勝ちを譲ったが、本来なら俺が優勝だった。ゴウもそのことはわかっていた。だから今度こそ、きっちり俺に勝とうとすごいマシーンを引っ提げて挑戦してきたのだ。
「あ、ああ。」
俺は曖昧な返事しかできない。あんなマシーンのすごさを見せられたら・・・。
「賭けようじゃないか。負けた方が勝った方のチームに入る。それでどうだ?」
ゴウはとんでもないことを言い出した。そんな勝負を飲めるはずはない。だがおやっさんが横からゴウにはっきりと言った。
「受けて立とうじゃないか! アキバレーシング、いやソウタは負けないぞ!」
「そうか。それは楽しみだ。期待しているぜ!」
ゴウは余裕があるような言い方だった。彼は笑いながらマシンを押して自分のピットに戻っていった。おやっさんはそんな奴の態度にも苛立って帽子を脱いで床に叩きつけていた。
その一部始終を見ていたメカニックのシゲさんが心配そうにおやっさんのそばに来た。
「おやっさん。」
「わかっている。いままのままじゃ勝てないっていうのだろう。」
「ええ。見たところ、かなりのパワーアップしています。アキバスペシャルでは・・・」
それはおやっさんが一番わかっていることだった。この国一のホバーバイクのメカニックと自負していただけに余計に悔しかったのだろう。
「とにかくアキバスペシャルの調整だ。シゲ! 帰ったら徹底的にやるぞ。」
おやっさんは相変わらず熱い。俺はピットの隅の椅子に腰かけてため息をついていた。シゲさんは俺のそんな様子を見て、おやっさんに潜めた声で言った。
「おやっさん。ソウタのことですが・・・」
「ん?」
「何か元気がないというか。走りに迫力がないというか・・・」
「確かにそうだ。ソウタは気に病むことがあってな・・・」
俺に聞こえないように気を使って話しているが、聴力がずば抜けている俺にはまる聞こえだ。
「気分転換が必要じゃないですかね?」
「そうだな。何かあるか?」
「ジロウが明日、休みを取って『合コン』に行くらしいですよ。」
「そうか! じゃあ、ソウタを連れて行かそう。」
2人の話ではどうも「合コン」に行かされるようだ。前世でもそんな機会はなかった。ここはおやっさんとシゲさんのお節介に乗って遊びに行くか。心配させているから仕方ない・・・そう心の中で言い訳していたが、内心ワクワクしていた。




