あの後
それから後のことは覚えていない。気が付くとアキバレーシング2階の自室にいた。誰かが俺を運んでくれたようだ。
あの後のことはおやっさんから聞いた。爆弾を内蔵した怪人の出現にホール周辺は一時、騒然としたが、無事に解決したことですぐに静けさを取り戻した。それで国王陛下とアンヌ王女との対面は予定通り執り行われることになった。
ジョーカーの手から取り戻したアンヌ王女は気分を落ち着かせて、その対面の式に臨むことができた。そこでは国王陛下とアンヌ王女は涙を流して喜び合った。周りの者ももらい涙を抑えきれなかったという。
そしてアンヌ王女は国王陛下と王城に帰ることができた。もちろん勇者ノブヒコたちを護衛にして王宮に乗り込んだ。彼らは王妃の送り込む刺客を撃退して、それを証拠に彼女の悪事を暴いた。それで王妃は王城から出されることになり、アンヌ王女は国王陛下と安心して暮らせることになった。めでたし。めでたし・・・ということは俺にはどうでもよかった。
上の空で相槌を打っていた俺に、おやっさんは別のことも教えてくれた。
「そういえばアンヌ王女の替え玉がいただろう。その娘のことも分かった。」
「アンのことが!」
「ああ、そうだ。ローヌ・アンという名前だったそうだ。このライムの町に母親とともに住んでいた。貧しくて生活は苦しかったらしいが、親子2人で懸命に生きていたようだ。」
「そうだったんですか・・・」
「最近、母親が病気で亡くなり、娘さんも姿が見えなくなって近所の人が心配していたそうだ。多分、その時にはジョーカーにつかまっていたんだろう。」
「アンは・・・アンはどんな女性だったのですか?」
「明るい娘さんだったそうだ。生活が苦しくても笑顔を絶やさなかった。それに困っている人を見たら放っとけないやさしさがあった。『私が王女様だったら助けてあげられるのに・・・』とよく言っていたようだ。」
おやっさんはそう話してくれた。俺はアンのことを思い出していた。自分を王女と信じ込まされているにもかかわらず、気位の高いところもなく誰に対してもやさしく接していた。彼女の笑顔は周りにいた人の心を明るくしたのだろう・・・俺はそう思った。
「ソウタ。勇者ノブヒコからあらましは聞いた。お前はやさしい。今回のことは心を傷めたことだろう。」
おやっさんは立ち上がってポンと俺の肩を叩いた。
「だがいつまでもこうしているのはお前らしくない。元気出すんだ!」
「は、はい。」
おやっさんは出て行った。俺は一人になった部屋でベッドに寝転んで考えていた。どうにかして彼女を救えなかったかと・・・そればかり考えている。もう夜更けになろうというのに。




