遅かった
俺はおやっさんと並んで森の中をホバーバイクを走らせていた。地面を浮いて走るから凸凹の地面でも揺れも少なく軽快だった。
「ライムの町はあの丘の向こうだ!」
おやっさんは正面を指さして大声で言った。だがその時、俺に耳には「うわー!」という悲鳴が聞こえていた。その声には聞き覚えがあった。
(あの声はカワミさんだ!)
そんな遠くの声がなぜ聞こえたのか、俺にもわからない。だが確かにカワミさんの声だった。俺はすぐにホバーバイクを停めた。
「どうした?」
おやっさんもホバーバイクを停めて俺に尋ねた。
「カワミさんが襲われています!」
「なに! 本当か!」
「ええ、聞こえたのです。おやっさん。俺は戻ります! おやっさんはここで待っていてください」
「ああ、気を付けて行けよ!」
おやっさんは俺の話を信じてくれて送り出してくれた。俺はホバーバイクを急反転させて森の中の来た道を戻った。悪い予感が次々にわいてくる。
(間に合ってくれ!)
と心の中で祈っていた。
だが遅かった。俺がホバーバイクで駆けつけて小屋のドアを開けると、中にはすでにクモ怪人とスレーバーがいた。そしてカワミさんはぐったりして床に横たわっており、その首には細い糸の束が巻きついていた。それはこのクモ怪人が吐いたものに違いない。
「やはりお前たちか!」
「戻って来たのか! これで手間が省けた。お前も抹殺してくれる! やれ!」
するとスレーバーが向かってきた。こんな雑魚どもは変身しなくても倒せる。しかし狭いところでは暴れられないから、俺はすぐに小屋の外に出た。しばらく走って止まって振り返り、両手で身構えた。するとスレーバーが追い付いてきて俺に襲い掛かってきた。俺は「待ってました」とばかりにパンチやキックで次々に倒していった。変身前の状態でも俺はそこそこ強い・・・という設定なのだ。
「おのれ!」
スレーバーたちの不甲斐なさにクモ怪人が襲ってきた。俺は飛び上がってその攻撃を避けると身構えた。いよいよ変身だ。この瞬間を待っていた!
「ラインマスク! 変身! トォーッ!」
変身ベルトが浮かび上がり、俺は空中でラインマスクに変身した。そして近くの岩の上に降り立った。クモ怪人がそれを見てうなる。
「うぬぬぬ! 貴様は!」
「天が知る。地が知る、人が知る。俺は正義の仮面、ラインマスク参上!」
俺は名乗りをしてやった。それで俺は言いしれない高揚感に包まれた。だが辺りはまるですべったようにシーンとしている。驚くはずのクモ怪人も訳がわからず、ただきょとんとしているだけだ。奴のリアクションがやはりうすい。
(セリフは間違っていない。なにか違うのか?)
まあ、俺の名乗りがうまくなかったのかもしれない。次までに練習して・・・などと思いながら岩から飛び降りた。するとすぐにクモ怪人が襲ってきた。相も変わらず両手の爪でひっかこうとしていた
(ワンパターンな奴だ!)
俺は隙を見てキックを奴の腹に放った。すると後ろによろけた。俺がそこに飛びかかろうとしたら糸を吐き出した。これが奴のとっておきの武器に違いない。俺は慌てて飛びあがってそれを避けた。クモ怪人はさらに糸を吐き続ける。辺りが白くなるほどだ。
(どうするつもりだ?)
俺が地上に着地するとクモ怪人は消えていた。奴は自分の糸に紛れて逃げてしまったようだ。今回も必殺技を放つ機会を逃してしまった。
「逃がしたか!」
俺は右手のこぶしを握り締め、悔しそうなポーズを取った。これはお決まりだ。ヒーローにはこんなことはよくある。