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別れ

「ラインマスク! カイブ洞穴だ! そこに奴を投げ込むんだ! ラインスローシュートだ!」


 勇者ノブヒコがまた叫んだ。確かにあの深い穴なら被害は少ないだろう。だが・・・。


「しっかりしろ! 君は正義の味方だろう。人々を守るのが使命だろう!」


 その言葉は俺の心に響いた。私情は捨てねばならない。アンへの思いは断ち切らねばならない。俺は決心して、「行くぞ!」とヤマネコ怪人に向かって行った。


「ギャア! ギャア!」


 威嚇しながら大暴れするヤマネコ怪人は俺に鋭い爪を振り上げてきた。俺はそれを避けて背後に回って空に向かって大きく投げ上げた。


「ウギャア!」


 ヤマネコ怪人は声をあげて飛ばされ、その後を俺は「トォーッ」とジャンプする。そしてまた空中で怪人を捕まえてさらに高く昇ると、その下にカイブ洞穴が見えてきた。ぽっかりと不気味な口を開けている。

 後は投げ落とすだけだった。その穴の中に・・・。俺は心を鬼にして技を発動した。


「ラインスローシュー・・・」


 技は途中で止まった。俺はヤマネコ怪人を投げ落とすことができなかった。怪人を抱えたまま着地した。


(俺にはできない・・・)


 俺たちはこのまま爆発で吹き飛ばされてしまうのか・・・。


「アン・・・」


 俺はつぶやいていた。アンを助けられないのならこのままでもいいと思った。

 だがヤマネコ怪人の様子が変わっていた。あれほど暴れていたのにおとなしくなった。そして


「ソウタ・・・」


 とつぶやいたのだ。


「アン!」


 ヤマネコ怪人を俺の方に向けた。すると少しずつアンの姿に戻っていった。俺も変身を解いた。


「アン! よかった。怪人の変身が解けたんだ!」


 俺はアンを抱きしめた。奇跡が起こった。もしかしたらあのカイブ洞穴が「また会いたい!」という彼女の願いを聞いてくれたのかもしれない。


「ソウタのおかげよ。元に戻れた。でも・・・」


 アンは俺から離れた。うれしいはずなのに悲しそうな顔をしている。


「どうしたんだ。」

「元に戻ったけど、私の中には爆弾があるわ!」

「怪人からの変身が解けたのだから心配はないはずだ。もう大丈夫だ!」

「いいえ。この爆弾は取り外せない。いつ何時、操られて変身するかもわからないわ。」


 アンは首を横に振った。そこに勇者ノブヒコが駆けつけてきた。彼ならいい方法を知っているかも・・・。俺は彼に問うた。


「どうしたらいいんだ! 彼女を救いたいんだ!」


 だが勇者ノブヒコは首を横に振った。彼はただ俺が果たせなかったことをやりに来たのだ。アンをカイブ洞穴に投げ入れることを・・・。

 だがその前にアンは穴の方を向いていた。もしかして彼女は自らその洞穴に身を投げるつもりかもしれない。


「止めるんだ! アン! 何か方法はあるはずだ。」


 だがアンは静かにこう言った。


「私の偽の記憶はすべてなくなった。でもソウタと過ごした楽しい記憶だけはしっかりと残っている。この思い出とともに行くわ。ありがとう。ソウタ!」


 アンは走り出した。俺は止めようとしてその後を追いけようとした。だが勇者ノブヒコががっちりと俺をつかまえていた。


「放せ! 放せ!」


 だが勇者ノブヒコは俺を行かせまいと放さない。その間にアンは穴のそばまで行くと、俺にその顔を向けた。その目には涙が光っていたがやさしく微笑んでいた。


「アン! やめろ! やめるんだ!」


 俺は必死に叫んだ。だがアンはかすかに何かをつぶやくとその身を洞穴に投げた。


「アン! アン!」


 俺は叫んだが返事はなかった。代わりに大きな爆発音が地下深くから聞こえて地面が大きく震えた。そしてその穴からはもうもうと煙が上がった。俺は愕然として崩れるように膝をついた。


「許せ。こうするしかなかった・・・」


 勇者ノブヒコはそう言ったが、俺の耳には聞こえていない。俺はただ、煙を上げているカイブ洞穴を呆然と見ていた。


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