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ヤマネコ怪人

 スレーバーが迫ってくる。抵抗すれば本物のアンヌ王女が殺されるだろう。果たしてどうするべきか・・・するとあの足音が聞こえてきた。望みはある。


「ギャン! ギャン!」


 吠え声が聞こえるや否や、アンヌ王女を捕まえているスレーバーが吹っ飛ばされていた。助けたのはペロだった。今回は参加させなかったが、ついてきたらしい。俺たちのピンチに飛び込んできたのだ。


「今だ!」


 勇者ノブヒコが叫んだ。ミキは魔法の杖を拾ってすぐにアンヌ王女のもとに駆け付けた。


「おのれ!」


 サウロン伯爵がヘルファイヤーを放ってきたが、一瞬早くミキが結界を張ってアンヌ王女を守った。


「王女様は私が守るわ! ジョーカーには指―本触れさせない!」


 一方、勇者ノブヒコとミキ、そしてギース聖騎士団の剣士たちは武器を拾って、襲い掛かってくるスレーバーを斬り伏せていた。形勢は逆転したかのように見えた。

 だがサウロン伯爵は慌てようとしなかった。


「お前たち! 肝心なことを忘れていないか? お前たちの近くに高性能爆弾があるのだぞ!」

「何だと! まさか、貴様!」

「そうだ。そこの女の中にある高性能爆弾が爆発すればこの辺りは吹っ飛ぶ。それ!」


 サウロン伯爵は俺の後ろにいるアンにステッキを向けた。するとアンは「ううう・・・」と頭を押さえて急に苦しみだした。


「どうしたんだ! アン!」

「ソウタ。私から離れて・・・お願い・・・」


 アンはそう言いながらふらふらと歩きだした。


「ふふふ。その女はジョーカーからは逃れられない。その女の正体を見せてやる!」


 サウロン伯爵はさらに力を込めてステッキをアンに向けた。すると彼女の姿が変わりだした。全身に茶色の毛が生え、耳はとんがって頭の上に、口は大きく裂けて牙が生えた。そして尻尾が生えて、手足には鋭い爪が伸びてきた。彼女はヤマネコ怪人に変身したのだ。


「その姿に変身してから10分で大爆発を起こす! 変身を解除せぬ限りタイマーは止まらない。全員、吹き飛ぶがいい!」


 サウロン伯爵はそう言うとマントを翻して姿を消した。

 アンが変身したヤマネコ怪人はいきなり俺に襲い掛かってきた。俺はその鋭い爪を避けていった。


「やめるんだ! アン!」

「ウギャー!」


 奇声を発してなおも攻撃を止めない。ヤマネコ怪人になって理性を失っているようだ。生身の姿ではどうすることもできない。俺は後ろに下がり、


「ラインマスク! 変身! トォーッ!」


 ジャンプして変身して下り立った。そこにヤマネコ怪人が駆け寄ってきて鋭い爪を振り上げてきた。俺はその手を何とかつかまえた。


「アン! しっかりするんだ!」


 だが今のヤマネコ怪人にその声が届くわけがない。怪人はキックして俺を振り払い、両手の爪で俺の胸を切り裂いた。


「ううっ!」


 火花が飛び、胸に鋭い痛みが走る。俺はダメージを受けて片膝をついた。さらにヤマネコ怪人は爪で俺の体を切り裂いていった。俺にはヤマネコ怪人にアンの姿が重なって反撃できない。だがこのままでは持たない・・・。


「何をしているんだ! 奴はジョーカーの怪人だ。しっかりするんだ。ラインマスク!」


 不甲斐ない戦いをしている俺を勇者ノブヒコがスレーバーと戦いながら叱咤した。俺ははっとしてヤマネコ怪人からジャンプして離れた。


(倒すしかないのか・・・。)


 ヤマネコ怪人は敵も味方も分からず、ただ暴れまくっている。あれはもうアンではない。ジョーカーのヤマネコ怪人だ・・・だが俺は割り切れるのだろうか・・・決意は固まらない。


「ラインマスク! 奴の体は後数分で大爆発を起こす。そうなれば全滅だ!」


 勇者ノブヒコが叫ぶように俺に言った。確かにそうだ。それでは多くの人たちが巻き込まれるだろう。それだけは避けねばならない。だがどうすれば・・・


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