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仕事の依頼

 アキバレーシングの店は大忙しだった。次のレースを控えてマシーンの調整におやっさんもシゲさんもジロウもかかりきりだった。ロコも来店する客に一人で何とか対応していた。もちろん俺も・・・と言いたいが、レーサー兼雑用係だから本番レースになるまでお呼びがない。

 そんな時、また勇者ノブヒコがやって来た。奴には先日の仕事の報酬の取り分のことで言いたいことがあったので早速文句を言ってやろうと思った。


「勇者ノブヒコよ。先日の仕事の報酬はいくらだったんだ? 金貨100枚以上といううわさだ。俺たちの取り分が少ないんじゃないか?」

「ははは。馬鹿なことを。そんなにもらえるわけはないだろう。みんなで等分に分けたさ。正義のヒーローが金のことで細かく言うなよ!」


 勇者ノブヒコにそう言われれば引き下がるしかない。確かに正義のヒーローは金のためにやっているわけではないのだから・・・。


「それよりもまた仕事だ。」

「今度はどこに行くんだ? 魔物退治か?」

「いや、それが・・・」


 勇者ノブヒコは辺りを見渡した。おやっさんたちは忙しくてこちらの話を聞いている様子はない。


「秘密の仕事だ。アンヌ王女の護衛だ。」

「アンヌ王女?」

「知らないのか? この国の王女だ。訳あって遠方のコーリ城にお住まいだったのだが、この度、国王陛下にお会いすることになった。それがこのライムの町でだ。」

「どうしてここで? 王都でお会いすればいいものを。」

「それはわからない。深い事情があるらしい。我々のパーティーがSランクだから王女の護衛に選ばれたんだ。」

「護衛って言ったって王宮からの護衛もいるだろう。」


 俺がそう言うとまた勇者ノブヒコは辺りを見渡した。よほど秘密なことがあるらしい。


「どうも王女は命を狙われているらしい。」

「それは誰からだ?」

「わからない。いや知る必要はない。とにかく我々で国王陛下と王女様のご対面を成功させるのだ。」


 それで俺はピンときた。王家のいざこざがあるに違いない。それにアンヌ王女が巻き込まれているのだろう。だとすると王宮からの護衛は信用できない。だが正義の味方のラインマスクが関わる仕事なのだろうか。王家の権力争いなんてどっちもどっちのことがあるのだから・・・。


「俺はいいだろう。店が忙しいし・・・」


 俺が断ろうとすると、おやっさんの声が聞こえてきた。


「ここはいい。お前がいない方が仕事がはかどる。」


 恐るべき地獄耳だ。おやっさんは作業をしながらも聞こえていたのだ。だがおやっさんなら秘密を守ってくれるからいいだろう。


「アキバさんもそう言っているが・・・」

「いや、俺のような礼儀知らずが行っても仕方ないだろう。」

「お前、気が進まないようだな。それなら教えてやろう。アンヌ王女様はかわいそうなお方だ。亡くなられた先の王妃様のお子で、次に来られた王妃様に疎まれ、遠方に追いやられたのだ。それを不憫に思っていた国王陛下が、王女様が成人したのを機に会って、よければ王都にと思っておられるのだ。」

「それを快く思わないものがいると・・・」

「ああ、そうだ。だから今回のことをつつがなく終えて、王女様に王都にお戻りいただこうというのが多くの者の願いだ。」


 確かに聞いてみるとアンヌ王女に同情すべき話だった。ここまで聞いた以上、俺としても放っておくわけにはいかない。


「わかった。俺も行こう。」

「そうか。それならよかった。明日、迎えに行く。ただしペロはおいていってくれ。」

「ペロもパーティーの一員だぞ。」

「王女様のそばで粗相をしたら大変だからな。今回は4人だけだ。」


 そばにいたペロが「キューン・・・」と悲しげな声を上げた。どうもこの犬、いやウルフは人の話の細かいところまで理解できるらしい。俺はペロの頭をなでながら勇者ノブヒコを見送った。


「まあ、ジョーカーは絡んでいることもないようだし、まあ大丈夫だろう。」


 そう言いながらも俺は何か不吉な予感を感じていた。やはり今回も何かが起こるのだろうか・・・。


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