大逆転
「もういいだろう。」
キノコ怪人本体の声がして、やっと分身体たちがぐちゃぐちゃになったラインマスクの体を離した。
「勝負が決した。ラインマスクとはいえ、このダンジョンは攻略できない! どれ、最期の姿を見てやろう。」
また壁の一部が崩れてようやくキノコ怪人の本体が姿を現した。分身体との違いは目が赤いぐらいか・・・。
「こんな姿とは哀れなものだな。ふふふ・・・」
キノコ怪人本体は笑い出した。その声は辺りに響き渡った。ダンジョンの中で二重にも三重にもこだましている。
(ん? おかしい。)
キノコ怪人本体はその笑い声に異質な声が混じっているのに気付いた。笑うのをやめても「ふふふ・・・」との笑い声が聞こえてくる。
「何者だ!」
キノコ怪人本体が叫んだ。そして耳をそばだててその笑い声がどこからしているのを探った。
「お前か!」
キノコ怪人本体が指さしたのは分身体の1体だった。
「ふふふ。よくわかったな!」
「貴様、何者だ!」
「お前がよく知っている者だ!」
そこで正体を現した。その分身体は俺だった。
「ラインマスク! 貴様・・・どうして・・・」
キノコ怪人本体はひどく驚いて動揺していた。
「俺の職業は道化師。人を惑わす術を使う。このダンジョンの戦闘でレベルが上がり、『欺瞞の術』が使えるようになった。それで分身体が襲い掛かってくる前に術を発動して、分身体の1体をラインマスクと思わせ、俺は分身体と思わせたのだ!」
俺はそう説明してやった。術を解いた今は、奴には床にぐちゃぐちゃになっているのは分身体に見えるはずだ。
「くそ!」
キノコ怪人本体は地団太踏んで悔しがった。だがすぐに奴は気を取り直した。
「だがお前の魔法力が少ないのは変えられまい。このまま分身体どもで叩き潰してやる!」
確かに俺のマジックポイントが少ないのは確かだ。だが絶望的ではない。俺にはまだ手は残されている。それは・・・。
「待たせたわね! ラインマスク!」
そこにミキとアリシアが飛び込んできた。
「貴様たちは!」
「ええ、操られていたけどラインマスクによって救われたわ。私はなんとか意識を取り戻して魔法で体に残ったカビを浄化したわ。ついでに上の階にいたアリシアもね。私たちはもう元に戻ったわ!」
ミキの言葉にキノコ怪人本体は悔しそうにしていた。俺は言ってやった。
「俺たちパーティーは少し離れていてもテレパシーで意志を伝えられる。ミキたちが駆けつけてくることがわかっていたのだ!」
「もう胞子攻撃は効かないし、カビを受けた人たちも元に戻せたわ!」
ミキは牢に入れられた人たちの浄化もすでに終わっていた。キノコ怪人たちは俺を抹殺するのに夢中で、ミキたちに気づかなかったのだ。しかも・・・。
「俺たちもいるぞ!」
「ヴァン! ヴァン!」
勇者ノブヒコとペロもミキのヒーリング魔法を受けて元気な姿を見せていた。
「それにこれよ!」
ミキが俺に光る玉を投げつけた。俺はそれを受け取って胸に当てた。するとそれは俺に吸収された。それで俺の魔法力が回復した。ミキが投げたのは魔法力を増やす魔法玉だ。
「上の階で出会った魔物をついでに倒したら出てきたから使わせてもらったわ。」
まるでとってつけたようなピンチの切り抜け方だが、TVのラインマスクではもっと強引なこともしたから別に構わないだろう。




