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分身体

 ダンジョンに不気味な声がまた響き渡った。


「ふふふ。よくここまで来た。このダンジョンもここで終わりだ。最後の相手は俺様だ!」


 すると急に向こうの壁から色とりどりのカビやキノコが広がってきて、壁だけでなく床や天井全体が覆われた。奴が自分有利な戦場(バトルフィールド)をこしらえたようだ。その上でやっと姿を現した。やはりキノコ怪人だ。


「キノコ怪人! お前がとらえた人たちを返してもらうぞ!」

「俺様に勝てばいいだろう。あれを見ろ!」


 すると壁の一部が崩れて、牢にとらわれた人々が見えた。いずれもカビが生えてぐったりしている。


「あの人たちに何をした!」

「ふふふ。3日前にカビを植え付けた。お前は気づいていないだろうが、ダンジョンに入って3日近くなっている。あと少しで朽ち果てるだろう!」


 気付かないうちに3日経っていた・・・ダンジョンの中は日も差さないからわからなかった。もう時間がない。


「いくぞ!」

「来い! 相手になってやる!」


 俺はキノコ怪人に向かって行った。地上で戦ったから相手の手の内はわかる。接近したところに口から胞子を吹きかけて俺を操ろうとしているはずだが、そうはいかない。できるだけ距離を取ってキックを浴びせて行った。そしてとどめは、


「ストレートラインキック!」


 それはキノコ怪人を直撃した。奴は胞子をまき散らして粉砕された。物足りないほどあっけない最期だった・・・ということはなかった。

 俺はやり終えたと「はあ。」と息を吐いて振り返った。だがまた周囲から声が聞こえてきた。


「ふふふ。勝ったと思うのは早いぞ! 俺様は不死身だ!」


 倒したはずのキノコ怪人の声だった。目の前に粉々になったキノコ怪人の亡骸があるのだが・・・。すると横の壁が崩れて奴が飛び出してきた。


「ふふふ。驚いただろう! 勝負はこれからだ!」


 キノコ怪人はまた襲い掛かってきた。だが強くなったわけではない。俺は奴の攻撃を防ぎ、パンチやキックを食らわせた。やはり奴は胞子をまき散らしながらダメージを負っていく。


「ラインパンチ!」


 必殺のパンチが奴の頭を吹っ飛ばした。すると奴の体はぐずぐずと崩れていった。今度こそ・・・と俺は思ったが、また声が聞こえてくる。


「まだだ。俺様は生きているぞ!」


 するとまたキノコ怪人が飛び出してきた。こうなってくると答えは一つ。こいつらは地上で戦ったキノコ怪人と同じく分身体なのだ。奴はキノコを増やすように分身体を作れるのだろう。だとしたらどれほどの分身体がいるのか・・・。

 俺の戸惑った様子を見てキノコ怪人はニヤリと笑った。


「ふふふ。わかったようだな。そうだ。俺様も分身体だ。」

「いつまでも分身体を出さず、正々堂々戦え!」

「馬鹿め! 本体を敵にさらすと思うのか。 本体は貴様が死んで亡骸になったら拝めるだろうよ・」


 俺はこのままずっと分身体と戦い続けねばならないらしい。キノコ怪人の分身体は強くはないがこのまま戦い続けると・・・。


「貴様をダンジョンに連れ込んだのは理由がある。」

「なに!」

「今までの戦いで魔法力(マジックポイント)をかなり消費したはずだ。残り少ない力を分身体との戦いでゼロにすればお前は終わりだ!」


 確かにそうだった。魔法力(マジックポイント)を節約したつもりだったが、ここしばらくは強敵が続き、大技を使ってしまっていた。戦う力はもう少ない。


「ではいくぞ! 最後に大盤振る舞いだ!」


 するとあちこちの壁が崩れてキノコ怪人の分身体が7体現れた。こんなにはもう相手はできない。


(これではやられるかもしれない。助けがあればいいが・・・)


 俺はそう心で思うしかなかった。キノコ怪人の分身体は束になってかかってきた。俺は応戦するが相手が多すぎる。しかも魔法力(マジックポイント)が残り少なくなってきた。大技どころか、パンチやキックの威力もかなり落ちてきた。


「もう戦う力は残っていまい。さあ、叩き潰せ!」


 キノコ怪人の本体らしい声が響き渡った。俺は覚悟を決めて両手を降ろした。そこにキノコ怪人の分身体が襲い掛かり。寄ってたかって俺を引き倒して体がぐちゃぐちゃにつぶれるまで殴り続けた。


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